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花に群がる毒、蜜の味と焼石

「すみませーん!」

 いかにも東京都ではない県の学校にありそうな感じの薄手の学ランに、偽物のロゴがテカるスニーカーを履き散らしている男子の三人組が、一見さんお断りとまでは言わないが地元民の聖地たる喫茶店に白昼堂々と侵攻するなんて。


「あらあら。どうぞ」

マスターは不躾な男子達を無碍にすることなく、私とさぁちゃんの腰掛ける赤いソファとは反対側の入り口付近に案内する。この男子達からは、残念なくらい獣の盛りの感触を感じざるを得ない。特に真ん中の男子は何だろう? 体の内面から鼻が潰れそうなガス的なものを充満させた体内ラフレシア? 白髪の老紳士がシルクハットを被って帰宅の準備を始めたぞ。私達も残念だが、長居はやめようか。

「政子どしたの? んー」

 男子達を気にすることなく唇を窄めるさぁちゃんに群がる獣の視線達。今ここでチューしようものなら、私達は永遠に、奴等の夜をさまようことだろう。

「さぁちゃん。チューは人のいないとこで、ね」

「えー。空いてんじゃん。政子は恥ずかしがり屋だなぁ。チューだよ単なるチュー」

 さぁちゃんにとってはスキンシップの延長線上かもしれないけど、私には最初の唇は違うのだよ。

「あ~、政子あれでしょあれ」

 さぁちゃんが男子達に気づいた。

「シーっ。さぁちゃん普通の大きさの声で言ったら気付かれるでしょ」

「え? 気付かれたら何か問題あるの?」

 ありありでしょっ! 私の心からの叫びは虚しく、さぁちゃんは男子達を見つめる。聖母が神に愛されなかった虫螻どもに慈悲を込めるほどありがたい御尊顔を遠慮なく男子達にも振りまく。やめてほしい。さぁちゃんの美貌を安売りするな。せめて大学に入学するまでは、私だけのものであってくれ。

 男子達はさぁちゃんと目線が合うだけで頬を紅潮させ、手に持つバカラグラスからは今にも滴がこぼれてしまいそうだ。三人は何やらごにょごにょ蠢いて

いる。

「さぁちゃんやめなよ。あんまり見つめたら逆に男の子達に失礼だよ」

 ましてやイケメンでも品のある感じでもなく、私達の表面だけに神聖なる何かを感じて勝手に偶像として崇める、永遠に太陽を浴びることのないコンクリートの真下を堂々巡りする土竜達なんだぞ。

「政子はヤキモチだなぁ。お~い!」

 さぁちゃんは男子達に手を振り始めた!

『うおおっ~!!!』 

 アイドルに群がるオタクどもかお前等はっ!

 男子達の真ん中に位置するのは、髪型は小綺麗を意識しているものの不潔極まりないツンツン具合で、学ランのなかには量販店で売ってそうなお母さんチョイスなセンスを感じさせる赤いシャツを仕込む自意識過剰ぶりの狐目の野郎が、深呼吸の後にとうとう上擦った声で話し始めた。

「あ、あのぉ――」

 旅の恥はかき捨て? はたまた神殺しに挑むデカメロン?

『タカシぃっ! 頑張れぇっ!』

『お前ならできる!』

 真ん中の男子を応援する周りの奴等もこれまたおしなべてダサい。どうしてズボンが短くて靴下とすね毛が両方こんにちわしているではないか。


「あのぉっ! はじめまして! 早速ですが、知り合いからで十分です。メアドかLINEのIDか、何でも良いから接点を下さいっ!」


えぇ!?

 言っちゃったぁっ! 

どうした!? さぁちゃんが綺麗すぎる故の玉砕なのか!? その精神だけは評価してやっても良いが、そう言うことではない。


 さぁちゃんの頬は、紅潮していた。


「大丈夫? な、何か今めっちゃ変なこと言われてたけど、何こいつら?」

 さぁちゃんのそれはどうも、私が抱いたものとは違っている。

 まさか――


さぁちゃんは満面の笑みを浮かべているではないかっ!

「うん。わかった。よろしくねっ!」

 スマホを取り出すさぁちゃんのその右手を止められるのは私しかいない。溶けてしまいそうな白い肌に触れ、唾が飛ぶのももう気にしない。

「ちょちょいっ! さぁちゃん~! ダメだよっ! こんな怪しい男子達に騙されたらダメじゃん」

 さぁちゃんは私以上に世間を知らない。

「まぁまぁ政子。声かけてくれてんだよ。応じないとさ。自分に跳ね返ってくるよ。そうそう、お名前教えて~」

「名字が安い、名前が高い志って書いて、安高志(やすたかし)です」

 安いか高いかどっちだよ?

「安くんかぁ。よろしくね。明葉紗月です」

 さぁちゃんの笑顔が安く売られていく。

「あ。安くん。この子はあたしの友達の政子です! 可愛いでしょぉ」

 勝手に紹介するなよさぁちゃん。安を見ると目が腐る。

「何言ってるのよさぁちゃんっ! こんなの相手したらぁ……」

 さぁちゃんの白き細い腕を掴むも、まるで枯れ木の枝を握るようだった。

 私は、何をしにここまで来たのだろう?

 こんな気持ちは、初めてだった。



 そんな折にマスターの淑女が、香しいホットミルクとともに、ふくよかな薫りが漂うガレットを運んできた。

「あら? お若いのですねお二人さん」

 淑女なりの余裕なのだろう。刻まれた皺は年輪にあらがうことなく自然に伸び、私達と下衆男子どもを平等に見つめる。

「わぁぁ~超ヤバいよぉぉ~! 政子ぉ~!」

 純銀のフォークとナイフを持ち、さぁちゃんはその唇を私ではなくガレットに向ける。私はガレットよりも優先されない存在? いやいや、暖かいうちに美味しさを味わいたいだけだけど、何でだろう。全てに負けたくない。私のほうに運ばれてきた同じガレットをナイフで切ってフォークで口元に運ぶも、今欲しいものはこんなものではない。

味? 


焼石を胃に放り込むみたいだよ。

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