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それはきっと、番外編。  作者: 些稚 絃羽
竜胆貴斗×金城沙希
5/25

勘違い(沙希)

ポカポカな陽気にお出掛けしたい気持ちが沸き上がってくる。

折角のお休みだしなー。誰かと一緒に出掛けたいなー。

例えばはるちゃんとか、竜胆さんとか、竜胆さんとか、竜胆さんとか……。はっ!竜胆さんばっかりになってた!!

と、とりあえずはるちゃんを誘おうかな。竜胆さんを連れ出すのは私にはちょっと高度だわ。


「もしもし。」

「もしもし、はるちゃーん。今日はお暇ですか?」

「あ、えーと、あ!」

「暇じゃない。」

あら、立花さんの声。はるちゃんの携帯ぶん取ったな?

「何で立花さんが出るんですかー?」

「菅野は今俺といるから。」

「2人がくっついたらはるちゃんとお出掛けできなくなる

 っていうのは盲点だった……。」

「竜胆と出掛ければ良いだろ。」

できるなら最初からしてますよ!

「む、簡単に言いますよねー、本当に。」

「あいつも金城からの誘い待ってたりするんじゃないか?」

……待ってたり、するかな?緊張するけど、誘ってみよう、かな。

「分かりましたよ!2人はイチャイチャしててください!」

「お、おい、何言って、」

立花さんの言葉を遮る様に通話を切った。

大丈夫かな、断られた場合落ち込むなぁ。でも竜胆さんだって用事があったりもする訳で、断られる事を覚悟した上で誘ってみよう。うん、大人の対応で行こう!!


「悪い、今日は人と会う約束してるんだ。」

「あ、そうですか。」

いけない、あからさまに残念そうな声が出ちゃった。私は大人、大人。

「沙希が良いなら会わ、」

「じゃ、また今度お出掛けしましょうね!失礼します。」

切ってから、竜胆さんが何か言っていた様な気がしたけど電話もかかって来ないし、きっと大した事じゃなかったんだろう。

一緒にお出掛けできないのはとっても残念だけど、1人でお出掛けしちゃうもんね!!



……家にいれば良かった。あぁ、失敗だ。

視線の先、色々なお店の立ち並ぶ大通りのちょっとお高そうな服屋で、見覚えのある、と言うよりありすぎる人発見。

あの後ろ姿見間違える訳がない。あの身長、すらっと伸びた手足、捲り上げた袖から覗く腕の筋肉。―竜胆さん!!

それだけなら良かったのに。竜胆さんがいるだけなら、恥ずかしいけど駆け寄ってその腕を掴むくらいには大胆になれたのに。


どうして女の人といるの?



恋人なのに。恋人だって事を竜胆さんが何度も示してくれたのに。

そりゃね。約束の優先事項ってあると思うよ。竜胆さん、律儀なとこあるし先に約束した人が最優先かもしれないけどさ。でも私、彼女なのに。

それだけ、その人の約束が大事って事?そういう事なの?


こうなったら隣の女性の事、観察してやるもんね!後ろ姿だけど。

んー、身長は竜胆さんの肩くらいか。私よりは確実に高いな。

柔らかそうなふわふわの髪が腰まで伸びてる。パーマかな。すごい気持ち良さそう。

服装は白いワンピース。裾が広がってて何だか絵本から飛び出たお姫様みたい。パンプスも可愛い。

あ、顔見えた!

短い前髪に垂れた眉、つぶらな瞳に小さな口。か、可愛いぞ。


花が咲いたみたいに笑って、その先には竜胆さんがいて。竜胆さんも小さく笑って。

比べるまでもなく惨敗だ、これは。私だって、絶対あの人を選ぶもん。

竜胆さんが相当なもの好きじゃない限り、私が選ばれることなんてないよ。……帰ろう。


「沙希?」


何て事!こんな状態で見つかるとは。しかも後ろ向いた瞬間に。

お、という事は他人の振りしてそのまま歩いて行っちゃえばいいんじゃない?名案!

思いついたままに足を踏み出したら、前に行く筈がぐっと後ろに身体を持っていかれる。

「あわわッ!」

「やっぱり沙希だ。こんな所で何してるんだ?」

もし私じゃなかったら、急に腕引っ張るとか失礼なんですからね!

どうしよう。いや、ここに来たのはたまたまなんだからそれを言えばいいだけなんだけど、さっきまで観察してた身としては嘘ついてるみたいな気になる。

どうする?正直に言っちゃう?誤魔化しちゃう?うわー、どっちも先が不安だー!!

「ちょ、ちょっとお買い物に。り、竜胆さんは?」

本当の事言ってるのに誤魔化してる感たっぷりになっちゃったよ。しかも自分から地雷踏みに行っちゃった!

「飯、食った?」

「へ、いや、まだですけど。」

私が尋ねた質問には答えずに関係ない質問を返すとは、何かもう逆にすごいです。

「丁度良かった。俺達飯食いに行くから一緒に行こう。」

何が丁度良いのですか?って私まだ返事してないのに引っ張らないでくださいー!!



気まずい。非常に気まずいです、この状況。

さっき連れて行かれた先には当然あの女性がいてにこやかにこんにちは、なんて挨拶された。間近で見たら更に可愛くてたどたどしくも挨拶を返したら、竜胆さんは挨拶なんていいから早く、と私の手を握ったままぐんぐん進んで行っちゃって。

あの女の人はいいの?!って思いながらも、気にせず進んで行くのが嬉しかったりしたんだけど。

レストランのテーブルで対峙するとか、キツいんですけど!!


とりあえず謎の女性との面会に困惑しながらも、隣の竜胆さんに言われるままに注文を済ます。女性は変わらず笑顔を崩さない。う、余裕そうだ……。

1つ確認したいんですが、席の並びはこれで良いんですか?私の横が竜胆さんで、私の正面に女性って、この並びで良いんですか?誰か教えて!!

「ねぇ、たー君。そろそろ紹介してくれないの?」

……たー君?今、たー君って言いました?竜胆さんをたー君って、本当にどういうご関係なんですか?

「その呼び方やめてくれ。」

「どうして?ずっとたー君なのに。」

ずっと?意味深フレーズが多すぎてパニックなんですけどー?

竜胆さんは嫌そうに顔を顰めて、渋々口を開いた。


「金城沙希。俺の恋人。これで良い?」

「私の事は紹介してくれないの?」

今のこの状況でちょっとキュンと来てしまったんですが。目の前の女性にはっきりと彼女だって言ってくれた。テーブルの下で軽く握られた指先が優しい。

こうなったら、この女性が誰であろうと受け止めてやりましょー!

「沙希、俺の母親。」

え?

「あら嫌ね、雑だわ。改めまして母の来海(くるみ)です。

 いつも貴斗がお世話になってます。」

母親?

「えぇぇ?!」

「うふふ。」

お母様だったなんて!!


「お、お初にお目にかかります。金城沙希と申します。

 お母様とは露知らず、ろくなご挨拶もせず誠に、」

「沙希、何か時代劇みたいになってる。」

「はっ!」

緊張しすぎて話し方が変な事に。何て無様な姿を晒してしまったのー!

「沙希さん、楽しい方ね。」

笑顔が眩しすぎます……。

「いえ、とんでもないです。おか、くる、えっと……。」

この場合何てお呼びすれば良いのでしょう?お母様?来海さん?どれも図々しいかな。

「気軽に来海さんって呼んでね。」

「あ、はい!来海さん!!」

ご本人から許しを得て、晴れて竜胆さんのお母様を来海さん、と名前で呼ぶ事に成功。

おっと、もしやこれはご家族と仲良くなるという新たなステップ踏んでるんじゃないですかー!!



「じゃ、私はそろそろ帰ろうかしら。」

「あぁ、気を付けてな。」

食事を終えるとすぐ、来海さんは帰ると言う。食事の間中、竜胆さんの事をこれでもかと言う程質問された私は、緊張と戸惑いと余計な事を言わない様にとの隣からの圧で若干疲弊気味。でも帰ってしまうとなると、至らない事があったのではと不安になる。

「あの、すみません。大したトーク力もなく……。」

「何を言ってるの。とても楽しかったわ。

 あ、そうだ。近い内に家に遊びにいらっしゃいな。」

「何言ってんだ。」

いきなりの実家へのお招き!こんなトントン拍子で良いのでしょうか?

「ご迷惑でなければ是非!!」

「沙希まで。」

竜胆さんはちょっと嫌そうだけど、彼女としてはこのチャンスは逃したくないじゃない!

「良かった!その時は皆に集まる様に言っておくわね。」

「皆?」

「驚くわよ。この顔が3つ、いや4つ並ぶから。」

竜胆さんの顔を指差しながら楽しそうに笑う。

「えっと、どういう、」

「あ、(ひさし)さんだ!じゃ、またね!!」

「お、お気を付けてー!」

話の途中で出て行ってしまう。小走りで去って行く後ろに花びらが舞っている様に見えるのは私だけ?


うーん、何から聞こうかなー?

「久さんって言うのは?」

「父親。迎えに来たんだ。」

「ご両親、仲良しなんですね。」

「見ていられないくらいに。息子の人目を憚らず。」

何か思い出したのか振り払う様に首を振る。ずっと仲良しって素敵だと思うけどな。今度お家に行った時にその様子を見てみたい……。

「あ、この顔が4つ並ぶって言うのは何ですか?」

「俺3人兄弟の真ん中なんだけど。皆父親似で。

 並ぶと身長差でしか見分けつかないって言われる。」

そんなに!これはまた楽しみが増えちゃったなー。


「今日誘ってくれたのに断ったから諦めてたけど、偶然会えて

 良かった。電話で言おうと思ったのに即切られたし。

 ……初めて誘ってくれて嬉しかった。」

「いやー、へへ。」

何か言ってたと思ったのは誘ってくれようとしてたんだー。結果オーライかな?

離れていた手が、また触れ合う。何か隣に座ってるのが急に恥ずかしくなってきたぞ。指を絡める様に握られて胸の奥がキューっとする。何、これ無意識でやってたら怖いんですけど。

手の先からドキドキと小刻みに鳴り出した心音が伝わってしまいそうで、何か気を紛れさせたい。

「そ、それにしても来海さん、お若いですねー。」

そう言うと、竜胆さんの眉間に小さな皺が寄る。

「そう見えるだけだ。あれで50過ぎてるんだぞ。」

「え!あ、そっか。竜胆さんが28でお兄さんがいるんだから

 普通なんだ。見えないですー。」

あんな可愛い雰囲気の人が50過ぎとは。感心していたら繋いだ手がその場で小さく引かれる。顔を上げると不満そうな顔で見下ろされていた。

えっと、何だろう?何かしちゃったかな?


「何でお袋の方が先に名前呼ばれてんだ。」

これは、もしかしなくてもヤキモチですか?

「なぁ、俺は?俺はいつまで「竜胆さん」なの?沙希。」

あのいつもクールで大人な竜胆さんが子供みたいにむすっとしてる。か、可愛い……!!

でも、呼べる?名前で呼べるのか、私!!

「えと、えーと。た、た、」

頑張れ、彼氏の名前くらい言え!ここで言わないと機嫌損ねちゃうぞ!

「た、たー、」

うわー、どうしよう。言える気がしない。顔が熱いよー。……この打開策は!

「た、たー君?」

私はなぜか疑問形で呼び、竜胆さんは頽れた。


「実家行くまでにはちゃんと呼んで。」

「え、えーと、ちょっとまだ厳しそうなんですけどー。」

「でも「竜胆さん」だと皆返事するけど。」

「……ですよねー。」

家で練習しよ。地道な努力がないと無理そうだし。

「まぁでも、頑張って言おうとして赤くなってるのは、

 可愛かった。家まで送る。」

そう言って手を繋いだまま席を立つと、されるがままに人の少ない店内を引かれる。今なら言えそうな気がしてその背中に向けて呟いた。

「貴斗。」


すごい勢いで振り返った彼の耳がかっと赤く色付いて、

「急に言うとか卑怯だ……。」

と微かな声が降ってきた。その様子に恥ずかしさが込み上げる。

もう1回呼んで、と甘い声で囁かれたけど、我に返った今、もう一度言える気がしなかった。


 

季節とか時期とか、番外編ではあまりこだわってないので読みにくかったらすみません。春辺りです。

沙希のテンションがちょっとおかしいですが、いつもこんな感じです笑

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