第6話
アカサが目を閉じると一人の少女の顔が浮かんだ。その少女は勝ち気そうな表情を崩してとても幼い子供のように無邪気に笑った。
「出会いは奇跡なんかじゃないよ」
曰く偶然なんかではないらしい。
「出会いは運命なんだよ」
曰く必然と呼べる事だったらしい。
アカサは少女のその言葉が何故か忘れられず、同時にとても嬉しく感じていた。まるで自分と出会えた事自体が必然で偶然なんかではない、と言ってもらえてるような気がして。それだけで自分の中の何かが変わるような気がして。
そしてその少女こと上尾愛がアルピジィガムに来てからアカサの一日が一変したのは事実だった。
早朝の愛の邂逅と介抱に始まり、帰宅したアルフアと愛の仲裁と失敗。それによって勃発した因縁と勝負。アカサの畑の壊滅的被害という結果による終戦。さらには駆けつけた村の自警団達やおじさんへの説明と釈明。こうしてアカサが思考を巡らせているとお風呂問題は…本当に大した事がなかったな、と思えた。
「何言ってんの!入れるか入れないか…大問題よ」
しかし愛を基準にすればそうらしく、温泉施設からの帰り道随分と語ってくれたのを思い出して笑えた。
本当にとても濃い一日だったな。
アカサはいつの間にか夢も見ないほど深く眠りについていた。
愛がこのアルピジィガムに来てから二日目の朝。普段から早めの起床をしているアカサはこの家の誰より早く起きてしまった。
自分の部屋から出ると居間兼台所兼玄関の少し大きめの部屋には当然だがまだ誰も居なかった。
アルフアの部屋を見る。昨日はアルフアも何だかんだと落ち着く暇もあまりなかっただろうからまだ休ませておこう、そう思い目を離した。
普段使われていない三つ目の部屋を見る。今その部屋の中には異世界からやって来た少女こと愛が居る。こちらもまだ起きてくる気配がなかったためそのままアカサは台所側に向かった。
とりあえず朝食を作ろう。そう考えていたからだ。
ハムとレタス、貰い物の赤身の魚とホワイトソースでサンドイッチを作りそれをメインにすることにした。
と。ホワイトソースを手に取りアカサは思い出した。昨日愛がこのソースを見て「マヨネーズじゃん」と言っていた事を。他にもレッドソースをケチャップ、クリアソースをポン酢と。
「微妙に違うんだよなぁ」
愛から聞く愛の世界の物の名前や文化、生活習慣など極めて近いのだがそこはやはり別世界。どこか違うのだ。
「昨日のお風呂の件もそうだ」
アカサ達も風呂は入る。火の月始めから地の月始めまではこの世界も大概暑く汗をよくかくのでその時期は頻繁に。
しかし、だ。逆に寒い時期には入らなくてもいいかな、と思うことさえある。畑作が落ち着き、温泉施設への行き来が億劫になるときだ。
「へ?逆じゃん?寒いときは温まるために入んるんだよ」
愛が言っていた。が、これは愛の世界の家には備え付けの湯船が設置されているからでとてもアカサには考えられない感覚だった。
そういったこともあるのでよくわからなくなるのだが確かに違うのだ。そして辿り着くのだ。愛が異世界の住人で、こちらの世界の人間ではなく、いつかは会えなくなるかもしれない、という事実に。
「……まだたった一日だけだけど…そう考えるとちょっと寂しいかな…」
「おっはよ、アカサ。何が寂しいのさ?」
アカサは全身の毛が逆立ち身震いしたのを感じた。後ろを振り向くと寝ぼけ眼にボサボサに乱れた髪の毛の愛がいた。
料理と思考とでどうやら扉が空いた音が聞こえていなかったようだ。アカサの鼓動が早鐘のように鳴ってしまった。
「あ、愛!」
思わぬところでの本人の出現にアカサは名前を呼ぶことしかできなかった。愛の方は気にすることなく「ふぁぁ」と欠伸してから、
「ん、おはよー」
と目を擦って椅子に座って昨日から定着した自席で頬杖をついた。
「で?何が寂しいって?」
「いや!あのさ…別に何でも…ないよ?」
「……何でもないのに焦り過ぎじゃない?」
愛は指をさす。どうやらアカサはかなり動揺していたようでレタスを落としていたらしい。「あ、気付かなかった」とアカサは慌てて拾った。
「でさ、何が寂しかったん?お姉さんに教えてみ」
まだ頬杖をつく表情は眠たそうだが愛の追求は続いた。
まさか君の事を考えていたからだ…等とは恥ずかしすぎて言えない。だから、
「お姉さんって…愛の方が年下じゃないか」
と誤魔化してみた。
愛は何も言わずじぃっとアカサを見つめる。そしてとろん、と閉じて隠れそうな瞳をアカサが見つめる。
次第に赤くなっていくのはアカサの方で、
「本当に何でもないから」
と精一杯、平常を装おって笑ってみた。しかし愛は「…なぁんか私の直感が働くんだよね」と言っていた。が、ここで、
「兄様、おはようございます。…愛、お前も起きていたんだな」
とアルフアの登場により追求を諦めてくれたらしい。顔をアルフアに向け、
「はよ、アルフア」
と欠伸を噛み締めながら言った。
「だらしない姿を…せめて髪くらいといてから部屋を出ろ」
アルフアの返す言葉に「へぇい」と素直に返事をしてまた寝室へと戻って行った。その様子を確認してからアルフアは、
「兄様、私も手伝います」
とアカサの隣にご機嫌よろしく並んだ。
「ありがとう、アルフア」
こうしてアルフアの協力の下アカサの朝食の支度はそれ以上滞ることなく順調に終わった。内心では手伝い以上にアルフアに感謝しながら。そして、そう思うアカサの視線が届いたのかアルフアはとても満足した様子だった。
「ところでさ、今日のご予定は?」
愛の簡単な身支度がすみ、さらに朝食がすんだ後、唐突に愛は二人に尋ねた。
「へ?」と一拍置きアカサは台所側体振り向き愛を見た。「僕はそうだな…」と洗い物に目を戻し、
「午前中は…水の補給かな。買い出しはまだ必要ないから後は…畑の片付けかな」
と呟いた。その時不可視の矢が愛とアルフアに突き刺さるが、不可視の為アカサには見えず、刺さった音さえ聞こえなかった。
「…へぇ」と愛がどことなく元気のない返事をすると、
「おじさんが昼過ぎなら手伝えるからって。それまでに出来ることをやっとこうと思ってる」
愛の返事はなかった。とくに気にもせずアカサは聞いた。
「愛とアルフアは?」
「……私?私かぁ…」
洗い物も終わり席へと戻るとどことなく元気のなくなった愛。アルフアもどことなく俯き加減になっていた。
「アカサが暇だったらこの世界…ってかまず村での生活の仕方とかこの村自体の事を教えてもらおうかと思ってた」
「生活の仕方?情報集めとかじゃなくて?」
「情報も大事だけどさ、生きてかなきゃいけないじゃん」
「お前、まさかうちに住み着く気か?」
黙っていたアルフアが口を出した。その眉間には皺がよっていた。
「はぁ?以外どうすんのよ。帰る方法探す間、協力してくれんでしょ?せ・い・き・し・さん」
「……さっさと情報を集めるぞ。こちらでの生活等覚える必要がない程に迅速にな。そして速やかに、元の世界とやらに帰れ」
愛は「あんたってやつぁ…」と漏らすとアルフアと視線をぶつけた。
アカサはそんな二人のやり取りがたったの二日で当たり前のように思えた。だから安心して言った。
「だったらアルフア。愛の案内とか頼めるかな?」
二人の視線が一斉にアカサに集まる。
「いいよ、一人でぶらつくし。なんなら手伝うよ?」
「そうですよ、兄様!少なくともこの村の中でなら愛一人でも安全です。私は兄様のお手伝いを」
二人はほぼ同時に言うが、アカサは笑顔を崩さない。
「確かに愛の言う通りいつまでかかるかわからないから生活習慣とかはある程度知識を持ってた方がいいと思うんだ」
「けどさ」
「しかし」
「となれば誰か教えてあげなきゃいけないよね。だから二人一緒がいいと思うんだ。僕は少しやることが多いから」
二人は目を閉じて天を仰いだ。
「愛、気を付けてね。アルフア、頼んだよ」
止めの一言がアカサから繰り出された。二人は覚悟を決めたように呟いた。
「…………よろしく、アルフア」
「…………こちらこそ、だ。愛」
と、そういった経緯がありアカサは二人を見送った後、自身の家前に広がる抉れた大地に仁王立ちし気合いを入れた。
あの二人なら何だかんだと大丈夫だろう。大丈夫だよね。大丈夫…なはずさ。そんな不安を払拭する為に。
時は流れ昼過ぎ。二人は無事に帰ってきた。午前中は村の中央周辺を主に動いていたらしかった。
「なかなか面白い買い物の仕方だったよ」
「言っとくが町では金銭のみだぞ?物々交換が通じるのは田舎くらいなものだ」
二人はまず買い物の仕方と商店巡りをしたらしかった。
「やっぱり愛の世界でも物々交換は珍しい?」
アカサが聞くと愛はめいいっぱい頷いた。
「店先に〃人参欲しい〃って書いてある紙見たとき、ここ何屋?!って突っ込んだね」
「…お前が急に笑うから私の方が恥ずかしかったぞ」
愛はひひ、と笑って「ごめん、ごめん」とアルフアの肩を叩いた。
「店側が欲しい物と交換か、これは思い付かなかった。お金無いとき便利じゃん」
「一応金額の表記もあったろう?町ではあれのみだ。忘れるなよ」
アルフアが釘をさして、愛は「ほいさ」と返事した。
その後も昼食中、「でさでさ」と愛が店先での事を語ると「あのときは」とアルフアが応じる。
「へぇ」
アカサはそう相槌を打ちながら、やはりこの二人なら大丈夫だった、と一人胸を撫で下ろした。
昼食もすみ、アカサも休憩終了と立ち上がった為にまた二人は出掛けた。
「今度は南側行こう。海もあるんでしょ」
アルフアは愛に手を引かれながら「すみません、兄様。また後で」と一緒に。
「へぇ、そんで二人で今一緒に行動中ってことか」
「そうなんだ。午後は南側に行くって言ってたよ」
手伝いに来てもらったおじさんにアカサは昼までの事を話した。
「随分と仲良くなったもんだな」
「僕も少し驚いたけど…あの二人、出会ったときから気が合ってたからね」
「そうか。しかし愛ちゃんもここでの生活に慣れようとしてんだな…こりゃぁ」
「こりゃぁ?」
「愛ちゃんがお前の嫁さんになるのもあながち間違いじゃないかもな」
そう言って豪快に笑った。アカサは渋面滲ませ「またそんな」とぼやくと力一杯鍬を握った。
夕方近く。おじさんは二人が仲良く帰ってきたのを見て「根詰めてもしょうがねぇし、今日はこの辺で終わろう」と言葉を残して自分の家に戻って行った。
ずんずん接近する二人は何事か話しているようだった。そして、
「ちょっとアカサ!何で教えてくれなかったのさ。アルフア、年下だったんだけど!」
「ふん。年上、同い年等と私は一言も口外していないぞ」
競うようにアカサの元へ早歩きで近付いてきた二人各々の第一声がこれだった。
遠くから見たらそれなりに仲良く見えたんだけどな、とアカサは心中思い、
「お帰り、二人とも。言ってなかった?アルフアは十四だよ」
と声をかけた。愛は「聞いてない!」と膨れっ面でさらに続ける。
「しかもあんたらまさかのギキョウダイなんてさ!」
「確かに私と兄様には同じ血は流れていない。しかしだ!共に生きてきた時間が、記憶が確かに血潮となって二人の間に流れているんだ!」
腰に手をあてこれ以上無い程に胸を張りアルフアは告げた。最後に「私はこれだけで満足だ」と付け加えた。
愛の「勝手に一人で満足してるし」との言葉に被せるようにアカサも苦笑しながら喋りだした。
「確かに言ってないけど…自己紹介の時、名前を言ってなかった?」
「言いました。私はアルフア・テイベットと」
「で、僕がターナーって。メモも見たよね?もしかして愛の世界では兄弟で違うのが当たり前とか…」
そこまでアカサは口にして愛が地団駄を踏み始めたのを切欠に止めた。「だってあの時はそこまで余裕がなったんだよぉ」と大変ご立腹この上ないようなので、
「ごめん、愛。説明不足だった」
と謝った。愛は「ふん……まぁ、それならいろいろ納得する事もあるけどさ」と釈然としない様子だったが納得はしたらしかった。
「で、アカサは今日の予定は終了?」
「うん。おじさんももう帰ったし」
「すみません。ろくに手伝いも出来ずに…」
アルフアが申し訳無さそうに肩を落とした。アカサは「大丈夫」とアルフアの頭を撫でて、
「二人もほとんど歩き通しで汗かいたろ?温泉行ってご飯にしよう」
アカサがそう言うと二人とも了承した。
温泉施設から帰宅して食事をしていると昼食の時と同じようにアカサは二人の話を聞いた。
「でさ、聞いてる?」
と尋ねる愛にアカサは「聞いてるよ」と優しく返した。アルフアも「この女は」と愛と過ごした時間を語った。
なんだ、やっぱり仲良くなってる。そうアカサは思った。
そうして何事もないままその日は眠りについた。
愛がアルピジィガムに来て三日目。
「アカサ。今日は私も手伝いたい」
愛の申し出を断る理由も無かったのでアカサは素直に厚意に甘えた。
「ありがとう、愛。でも、かなりの力仕事だよ?」
「だからね、手伝いたいの」
愛は自身に満ちた顔とアカサに借りた服の袖から覗く自分の腕にちからこぶを浮かばせながら言った。
「愛は法纏の練習がてらやるつもりなんですよ」
アルフアの補足を聞き納得して今日の午前中は三人で作業を行った。
結果は…凄まじい早さで終わった。
昨日、アカサはおじさんと二人で先行してやっていた、とはいえ終わるとは思っていなかった。何より抉れた部分に運ぶ土の運搬が最も苦労するはずだったがそれが最も楽だった。
ずばり、法纏を使用した二人にかかれば逆にアカサの方が必要がないほどだったからだ。
「…あ、ありがと。後は僕だけでもなんとかなるかな」
アカサが違う汗をかき僅かに顔をひきつらせながら礼を言うと、
「どぉいたしましてぇ」
「お役に立てて何よりです」
と、満足げに二人は言った。
そのまま昼食をすませた後、二人は「今日は買い物してみたい」と言う愛の意見に従いまた中央周辺へと向かうことに決めたらしく揃って出掛けた。生憎とアカサも誘われたが「僕はちょっとおじさんとこに相談することがあるから」と二人を見送った。
「ただいまぁ!」
「ただいま帰りました」
帰ってきた二人は手に余るような荷物を抱えていた。重さは法纏を使用しているため気にならないらしく、とくに愛は満面笑みだった。
「お帰り、二人とも。すっごい荷物だね…どうしたのこれ?」
一つ一つ荷物を確認しながらアカサは尋ねた。顔を見合せ二人は、
「ほとんどね、もらっちゃった!」
「実は村の人がお祝いと言ってくれたのです」
とアカサに告げた。アカサはまだ理解できず、頭に疑問符を浮かばせていたが、
「だぁかぁらぁ。アルフアの聖騎士昇格祝い。おじさんたちが温泉施設で言いまくったんだってさ」
「…嬉しいのは嬉しいのですが…恥ずかしいものですね」
矢継ぎ早の二人の話にようやく「あぁ」と頷いた。
「今度僕もお礼を言わなきゃ」
と二人がもらってきたという色んな物を眺めた。
こうして三日目が終わった。
愛がアルピジィガムに来て四日目。
「ちぃっと出掛けてくんね」
愛はまたアルフアと共に出掛けた。正直なところ、とくに用事もなかったのでアカサは「いってらっしゃい」と見送りながら、本当に仲良くなったなぁ、と思った。
今回の帰宅は早く、愛は帰ってくるなり、
「じゃぁぁん」
と派手に扉をあけて、昼仕度の最中驚くアカサを尻目にその目の前でクルリと一回転した。
「あ、それ」
しばらくスタッとポーズを決める愛を指差して「買ったの?」とアカサは言った。
「うん、そう。似合う?布鎧ってんだって。なぁんかポンチョみたいだけど」
そう言ってもう一度クルリ。アカサを見やりニヤリと笑い、
「似合う?」
と尋ねた。
おばさんに誂えてもらったというノースリーブの黄色地の上着。愛がセイフクと呼ぶ赤いチェックのプリーツのミニスカート。足下は藍色の膝下までのソックスにアカサがあげた茶色のブーツ。そして今日買ってきたという赤を基調とした肩を覆うような布鎧。それらを着こなす愛。
「うん、似合ってるよ。凄くぴったりだ」
とアカサは掛け値なしに褒め称えた。愛はご機嫌に「でしょ、でしょ」とくるくる回る。その度スカートが音もなくフワッと浮くのにびくつきながらアカサも尋ねた。
「どうしたのそれ」
「ん、だから買ったんだって。昨日さ、買い物しようと思ってたらいっぱいもらったじゃん?そんで他にぃ…って考えたら、これになった」
また愛はスタッとポーズを決めた。
「私としてはもちっと鎧よろいしたのでも面白かったんだけど…アルフアがさぁ」
そこまで言って口をすぼめた。そう言えばアルフアは…と思っていると玄関の向こうから、
「法纏が使えるのであればそれでも充分過ぎるくらいだ」
と声だけが聞こえてきた。「なんでまだ外に?」とアカサが覗くと、
「お揃いだね」
壁にもたれ掛かり少し恥ずかしげにモゾモゾしているアルフアがいた。
その姿は白い上着に黒の短パン。膝上のニーソックスに革製の茶がかかったブーツ。そして愛と色違いの薄い水色の布鎧を身に付けていた。
「み、店の者がどうも気を使ってくれたらしく…」
ボソボソとだんだん小さくなるアルフアの声に、
「うん、アルフア。とても似合ってるよ」
とアカサは言った。
それだけでアルフアの顔は赤みを帯びていき「でも、でもですね。私なんかが…」と踞る。それをよしとしない愛はアルフアの腕を引っ張り立たせ、
「ほらほらアカサ。もっと他に言うこと…あんじゃないの?」
ニヤニヤ笑ってアカサを見た。アカサは「え…あ、ああ」と一瞬戸惑いつつも理解できた。
「二人とも可愛いね」
愛はニヒッとアルフアの肩を抱き、アルフアは完全に照れたようだった。
午前中はこうして愛とアルフアが手にいれた洋服の着せ替えを見ては褒める、を繰り返した。
そして午後は「法術の練習してみたい」と愛が言い出したのでまた二人は出掛けた。
流石に一日では無理なんじゃないかな、とアカサは思っていたが帰ってくるなりアルフアが「チ、規格外め」と唸ったのを聞き驚いた。
法力そのものを操る補助系統法術はほとんど使えなかったが、法力を属性に変換して操る攻撃系統法術にはその才能を見せたらしかった。
「私ってばチョー天才なんじゃ…」
と本人も何故か震えながら言っていた。アカサも法力は使えるが、法霊石を使用したコンロに火をつけたり出来る程度であり、これはメモを出せるようになった者なら誰でも出来る程度の事だった。そもそもそうでなくては「法術」を主体とした「職業」が成り立たないので愛の一日での取得というのはかなりの異例事だった。
「あまり調子にのるなよ」
「ハイハイ、わかったってば。アカサにも今度見せたげるね」
そんな愛にアカサは「ありがとう」としか言いようがなかった。
こうして四日目は終了した。
五日目。
朝はアカサが収穫していた野菜の代理販売していた店や食べ物屋からの要請があり少しバタバタした。
午後からはアカサは三人でのんびりと過ごした。
こうして、朝起きる、午前を過ごす、午後を過ごす、温泉に行く、夜寝るを繰り返すこと数日間。
もちろんその間アカサはおじさんの手伝いから次の耕作への準備、他の農家の手伝いで出掛けたりした。
愛とアルフアもおばさんに繕いを習い服を新調したり、村の商店の安売りを探したり、そして仲良くなったおばさま方とお茶したりしていた。
で、ある日。
「じゃぁ、アルフア行こう。アカサ、多分昼過ぎには帰れると思うんだけど…遅くなったらゴメン」
「うん、気を付けてね。アルフアも無理はしないでね」
「私は大丈夫です。最速で終わらせ直ぐに帰宅します」
と言って二人は出掛けた。なんでも折角聖騎士であるアルフアがいるのだから今のうちに数年に一度やるこのリマジハ村周辺の怪獣の縄張り調査をしたい、と村の自警団及び大人たちに頼まれたらしかった。それを知った愛も自分を連れていけ、と駄々をこねてそうなったらしかった。
大丈夫だとは思うけど…大丈夫かな。
一人待つ身のアカサは心配するが昼過ぎには二人は無事に帰ってきた。
そして愛が報酬として受け取った野生の猪を嬉しそうに背負ってるのを見たアカサは、
「……僕よりよっぽどこの世界の生き方、あってるよね。っていうか、愛……忘れてない?元の世界に戻る方法を探すの」
となんの情報収集もしてない過ぎた日々を思い返し「いや、僕もなんだけどね」と呟いた。
そのとき「あ………」と背負った猪を落とした愛の顔には忘れてた、と書かれていた。当然、その隣のアルフアも同じ顔をしていた。
そしてこの日の夜の食事の時間、アルフアは一つの提案をした。
「兄様、聞いてください。愛、お前もだ」
二人の視線を集めてから、
「ギルドを作りましょう」