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ブレベたん~ブレイブ・ベルの小さな冒険譚~  作者: 高岡やなせ
第一章「ギルド」前編~リマジハ村周辺~
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第4話

 アカサの家の片開きの扉を開けて愛は自分の足で初めてこの世界、アルピジィガムの大地に立った。両手を上げ伸びをし、そのまま深呼吸する。


「ぷっはぁ!空気がうまいっ!」


 まだ朝日と呼ぶに近く温度の上がりきらない輝きの太陽めがけて叫ぶ。


「はぁ……空気が清んでて玄関で靴を履かないなんて…まるで外国の田舎じゃん…行ったこと無いけどさぁ」


「……」


 感想を述べる愛。それを追従するように家を出てきたアルフアは何も言わず愛を通りすぎさらには道を超えた先にあるアカサのトウモロコシ畑に向かった。


 アルフアの行動を目で追いながら愛は玄関から出てくる三人目、アカサを待った。


「……ねぇ二人とも、やめよう?」


 家から出るなりアカサは愛の説得に取りかかった。アカサのその言葉に愛はムッとした顔を作り、


「いい加減に諦めな。ってかさ」

 

 表情一転、明るい声色と共にアカサの説得そっちのけで自分の話を続ける。


「私さぁ、どこら辺に居たの?」


 屈み込み、愛はその手でアルピジィガムの大地に触れる。瞳は真っ直ぐに手が触れている場所を見ていた。


 アカサも諦めたように嘆息し「えぇと…そこだよ」と指をさした。


 指の先はアカサの家のアカサの部屋の窓の少し離れた場所だった。


「ふぅん」と愛は素っ気ない返事をして立ち上がりスタスタとその場所へ近づいた。そして、


「ここが私の最初の場所……か」


 呟いた。


「…あ」


 呟く愛の背中。見えない表情にアカサは哀愁にも似た何かを感じ声をかけようとするが、クルっと一回り。こちらを向く愛の顔が笑っているのを見て何も言えなくなった。


「何となぁくね、知っておきたいじゃん?」


「……そう、だね。そうだよね」


 この返事がアカサの精一杯だった。と、


「とぉこぉろぉでぇ……アルフアぁっ!」


 愛が突然にアルフアに向かって大声を出す。倣ってアカサもアルフアを見る。流石にアルフアも愛を無視することなく視線を送っていた。


「あんたさ。剣で勝負つってたけどさ…どれ使うのさ?」


 愛は手をぶらつかせた。「ふん」と鼻で笑うような声と共にアルフアが「これだ」と差し出してきた。


 その手に掴まれていたもの。それは収穫されたトウモロコシの茎の部分だった。


「兄様。収穫の終わったこの茎、いくつかいただきます」


「え、いいけど、え、それで?」


 まさかの剣の代用品に止めに入っていたはずのアカサも驚いた。だから当然、愛の方はもっと驚いていた。

 

「…………はぁ?」


 目を丸くし間の抜けたような声を出した。


「…間の抜けた声を」


 アルフアは愛の態度を感じた通り口にした。しかし愛はなんだと、と怒る出すことなくニッと口の端を上げ、


「ま、面白そぉじゃん。チャンバラみたいでさ」


  と差し出された長さ一メートル程のトウモロコシの茎を受け取った。その茎はアルフアが丁寧に選んだようで愛のその手にしっかりと馴染んでいた。


「おぉ!振り心地は思ったよしマシじゃん」


「当たり前だ」


 ブンブン振り下ろし感覚を確かめる愛。 それをアルフアが全肯定の意思を伝える。


「兄様が私の為に育ててくださったトウモロコシだぞ?生半可なものな訳があるか」

 

「……あっそ。……そっか、アカサはこういうのを作ってんのね」


 軽く返事をし、次いで手に握る茎を少しだけ目を細めて見た。その視線に妙な熱を感じ、


「僕って根っからの開墾者でさ、農業こんなことくらいしか出来ないし」


 アカサはなんとなくそんな言い訳をした。


「いいんじゃない?私なんてなぁんの取り柄もないしね」


 愛はそう言ってアルフアに対峙した。すでにアルフアの方も準備が整ったようで黙して愛を待っていた。


「アルフア、ルールはぁ?」


「単純だ。お互いに先に一撃を加えた方の勝ちとする。ただし茎とはいえ頭は無しとする」


「へぇ、やっさしぃんだ。聖騎士様のご慈悲ってやつ?」


「ふん。あと…そうだな。どちらかの茎が折れた場合その勝負は一度中断する」


 そこまでアルフアが言うと顎で視線を促した。愛がそれを追うと十本近く積み上げられた茎の山があった。


「おぉっと!ずいぶん張り切って用意したねぇ」


「無駄口はこれくらいにして始めるぞ」


 アルフアがそう告げ茎を構えると愛も「りょーかい」と言って両手で茎を構えた。


 こうして自称「可愛くてか弱い」くせに「たぎってるからなんか大丈夫」な少女と、「兄様にゴツい女だとは思われたくない」けれども「聖騎士としての実力を見せつけたい」少女の第二次女の戦いが幕を開けた。


 アカサにしてももう二人のやり取りに関してはどこか諦念したような、達観したような心境で傍観する事にした。


 正直なところ、どうにかなるだろう、そう思うところもあったからだ。


「私には才能が有りすぎたのです」


 アルフアの言葉を思い出す。そしてアカサはまさにその通りだろう、と自身の考えを裏付ける記憶を呼び起こしていた。脳裏によぎる思い出の映像。


 あれは昔、アカサが畑を耕し始めた頃。まだ成り立ての開墾者だったアカサは朝から晩まで耕作に時間を費やしていた。そうでなくては間に合わず、手に終えないほどの仕事の量だったからだ。


 この頃から「隣畑のおじさん」に生活面だけではなくそういった仕事のイロハでも世話になり悪戦苦闘しつつなんとかこなす日々が続いていた。


 そして、だ。あの日はやって来た。


 初めて自身で種を植え、肥料をまき、水を与え、大切に育て上げたトウモロコシの収穫の日。


 アカサがおじさんと喜びに浸りながらもぎ獲っているとアイツが現れたのだ。


 野生の猪…の「怪獣」への突然変異を遂げる前の「ナリカケ」と呼ばれる状態の異常な姿のケモノ。


 通常の獸であるなら人の作る妨害にそうそう侵入は出来ず、そもそも完全なる怪獣なれば縄張り以外は出る事は少ない。だからこそナリカケは危険なのだ。縄張りに縛られず、人の妨害をものともしないケモノとして力と本能のままに暴れるから。


 アカサとおじさんも慌てて逃げ出した。とにかく村の自警団に報せなくては、その想いだけでただひたすらに。


 命からがら。その言葉はあまり正確ではなかったがアカサ達当人にとってはそんな心境で自警団の元へとたどり着いた。ナリカケがアカサの畑のトウモロコシに目が眩んでる間に駆けてきたからだ。


 ナリカケが出た。


 アカサ達の報告を受けてからの自警団の行動は迅速だった。簡略的に組分けし、応援要請隊と実動隊が作られた。応援要請隊は念のため近くの町で駐在している騎士団へ報告をしに行き、実動隊がアカサの畑へと向かった。


 そしてたどり着くと。駆けつけた実動隊の者達は呆然と立ち尽くした。


「兄様…。兄様の畑は…私が…守りま…した」


 ぼろぼろになり、傷だらけになり、血だらけの顔でふらふらになりながら微笑むアルフアの姿があったのだ。


「あ、アルフアっ」


 言葉のない大人達を置き去りにアカサはアルフアに急ぎ走り寄った。それを待っていたかのようにアカサの腕の中に力尽きるアルフア。


「兄様…が、一生懸命…作った…トウモロコシ。私が…守ります」


 そう小さな力ない呟きを聞き、アカサは力の限り名前を呼んだ。叫んだ。


「アルフア、アルフア、アルフアぁぁぁ」


 傷だらけのアルフアを治療するために引き離され、アカサの声は叫び声から泣き声に変わった。


「大丈夫だ。このこは法力が強く、そのおかげで致命傷になっていない」とか「法力だけじゃないぞ、この傷を見れば武の才能に長けているようだ」なんて大人達が言い合うのが聞こえたがその時のアカサには解らないことばかりだった。とにかく、妹が助かって欲しい、それだけだった。


 その後、アルフアは無事に治療をすませ命をとりとめた。そしてその事件から駆けつけた騎士団の目にとまり、十歳…ステータスメモを出せるようになった年に入団試験を受け、四年の月日を経て今に至った。


 あれから四年。剣の鍛練と実践、騎士としての知識と経験を得たアルフアならばその実力は間違いなく、愛を傷つけることなく終わらせられるだろう、と。


「あの頃からかな、僕がアルフアに甘くなったのは」


 アカサは一人呟き少女達の勝負の行方を見守った。



 構えたたずむ二人の少女の間には静けさが生まれた。今しがたまで軽快とも言えるやり取りを行っていた二人とは思えないほどだった。


 最初に動いたのは…アルフアの方だった。


 直線で愛へと突進する。それを迎え撃とうと愛が上段に茎を振りあげ、一気に降ろした。が、突進そのものがフェイントだったアルフアは愛の目の前で一拍置き方向を転換。愛の右側を大幅に横切り振り返り様に茎を凪ぐ攻撃をした。


 アカサの目でもわかるほどの動きであり、アルフアがその力を抑えているであろうことは理解したが、だから避けられるわけではない。アカサならその動きが見える見えないに関わらず一撃を貰う事になるだろう。


 決まった。アカサはそう思った。


 しかし、


「あっまいよっ!アルフアちゃん」


 愛はそれに対応し受け止めた。


「…っな」


 アルフアの顔が驚愕に染まる。その時、たったの一撃で二人の力に耐えきれなくなった茎同士が見事なまでに千切り飛んだ。


「な、んだと…」


 飛び行く茎の切れ端を見つめアルフアが声を漏らした。


 この女は、実力を抑えているとはいえ聖騎士の一撃を防いだのか、表情はそう語っていた。


「あぁらら、折れちゃったよ。こんなときはタイムだっけ?」


 愛はあっけらかんとアルフアに尋ねてくる。アルフアが暫く何も言えずにいると、


「愛!?君は何かしらの訓練を受けたことがあるの?」


 アカサが叫び入ってきた。アカサの表情もアルフアに似たものがあった。そのアカサに、


「んなもん、あるわけないじゃん」


 とまたしても軽い返事で返した。


「でもさ、アカサ。私いったじゃん?なんか大丈夫って。たぎってるからって」


 そう言ってニヒっと笑い次の茎を選び始めた。


「なるほど。わかった…」


 アルフアもそう呟き次の茎を選び始めた。そして選び終え立ち上がったときのアルフアの目には怒りとは少し違った色が浮かんでいた。それは、


「愛…お前には聖騎士としての片鱗を見せてやる」


 相手に対する純粋な敬意。実力を見せる、という一点だった。


 どこかでアルフアは愛の事をみくびっていたのだ。周囲の人々、騎士団に所属する者達が聞けば当然だろうと答えるだろう「力の差」があったはずだったから。しかしそれは違っていたのだ。


 今の一撃のやり取りで理解した。抑えていては怪我をさせるだけだ(・・・・・・・・・)ということに。


「何さアルフア。その言い方、まるで実力なんてこれっぽっちも出してませんよ、的な言い方じゃん」


「あぁ、そうだ」


「なんだと!」


 両手をブンブン振り回して怒りを露にする愛。それをアルフアは、


「だから今一度言う。私の聖騎士としての実力の片鱗を見せてやる。これが聖騎士だという何よりの力を…な」


 真剣に構える事で受け止めた。


 愛は天を仰ぎわざとらしく「たっはぁ」とこぼしたあと、


「最初っからそうしろっつうの」


 再び構えた。


「なら今度は私からいったる!」


 愛が勢いよく踏み込む。その速度は単純だが純粋に速かった。少なくともアカサには避けきれまいと思った。


「……愛よ、これが」


 しかしアルフアは動じることなくそのまま愛の茎を受け止めた。いや、その衝撃を受け止めきれたのはアルフアの茎のみだった。


「聖騎士の力の片鱗だ」


「ちょっ!なんで?なんであんたのはぶつかったのに折れないわけっ!」


 愛は自分の茎のみが千切れた事実に目を丸くして素直に疑問をぶつけた。


「騎士の昇給試験を受けるために必須な技術がある」


 自身の茎を撫でながらアルフアは愛に語り始める。そしてビシッと空を裂く音を響かせるように振るってから愛に先端を向け、


「それがこれ。〃法纏〃だ」


 と言った。


 愛は「ほーてん?」と繰り返した。アカサにしても聞きなれない言葉だった。


「この世界の人間なら法力が使えるのは当然……知らんようだな」


「知んないね」


 愛の顔を見て嘆息混じりにアルフアが言うと眉を寄せて愛は答える。そこへ、


「愛、あれ!ステータスメモ出したろ?あれが法力だよ」


 アカサが説明する。愛は「あぁ、あれね」と納得したようだった。


「そうです」とアカサには首肯してからアルフアは愛に向けて続ける。


「その法力を具現化して使うのが攻撃系法術という。また治療等に使われる法力を補助系法術という」


「ふぅん…で?アルフア先生は何が言いたいわけ?」


「法術とはまた別の法力の使い方、それが法纏だ」


 アルフアはそこまで言って自身の茎をよく見ろ、と言わんばかりに掲げた。


 アカサと愛はアルフアの掲げた茎に視線を合わせる。すると、


「「あ…!」」


 二人の声が重なる。視線の先、掲げられた茎は突然に放射線を描くように項垂れた。もともと細目の茎だと思っていたのだが。


「今、私から送られていた法力を抜いた」


 アルフアがそう言い今度は、


「これからまた送る」


 と言うと茎は段々と握り絞められた下方から硬直するように直線になった。


「おお!凄っいじゃん!それがほーてんかぁ」


 またもピンと天に向かうが如く掲げられた茎を見ながら愛は笑いながら頷いた。アカサも言葉が要らないほどに納得していた。


「この技術が騎士が騎士たる所以だ。法力により己の力を底上げし尚且つ武装を強化する。さぁ、これを見てもまだ聖騎士の実力を知りたいと言うか?」


 アルフアは愛に告げた。


 アカサから見ても確かにアレでは愛に勝ち目がないと思った。そもそも身体的な能力含め唯一の攻撃手段である茎が役にたたないのだ。到底無理だろう、と。


 だが違った。愛はまたニヒっと不敵に口角を上げた。


「なぁんかね、それね、出来ちゃいそうな気ぃすんだよね」


「……法纏が?馬鹿な。これは…」


 アルフアが鼻を鳴らして否定しかけ、止まった。


 愛が「うぉりゃ」と小さな気合いの声と共に三本目の茎を握り締めその(・・)気配を感じたからだ。


 愛から放たれた法力。それが愛の掴んだ茎に流れ込む気配が。


「馬鹿な…。法力の知識もない人間が…法纏…だと?」


 今度はアルフアの眉が寄る番だった。


  いや、眉を寄せる、ひそめる等という問題ではない。法纏…これが「出来る」「出来ない」という違いがどれだけ騎士を目指す者にとっての差が生まれるかを考えたときにそんな簡単な驚きだけですむわけがなかった。


「…愛…」


 だからアルフアは驚きを通り越して、


「お前は何にしても規格外のようだな」


 と言うより他になかった。そしてそう言われた愛はへへんと鼻を鳴らすと、


「だしょ」


 と大袈裟にふんぞり返った。アルフアはその態度に憤ることなく「では、仕切り直しだ」と言い茎を構えた。


「もっと褒めてくれてもいいんじゃない?」


 同じく構え直して愛がぼやく。しかし「ま、いっか…じゃあ」と呟き、


「今度こそ一撃きめたるっ!」


 と突っ込んだ。


 アカサは眼前で行われている二人の少女の剣劇─正確には茎劇─に目を奪われた。


 愛がアルフアと同じく「法纏」という技を使い始めた時からガラリと変わった。


 時に速さを比べるように互いの一撃をかわし、時に力を比べるように鍔迫り合いに持ち込み、時に技を比べるように斬撃を合わせる。


「す…凄い…」


 アカサはポツリと溢した。あまりの事に、あまりの美しさに溢した言葉だった。


 だがしかし。


 この時既にアカサはある三つの事をとても気にしていた。


 無論一つ目は勝利の行方だ。もはや二人の動きは素人目にも同格に見えた。


 二つ目は…二人の戦いの場が広がった事だ。気がつけば道幅だけでは足らずアカサの畑にまで踏み入れていたのだ。踏まれる土を見て収穫が終わっていたのが幸いだったアカサはなんとか耐えた。少しだけ「あ…あ…土が、固くなる。家を建てるわけじゃないのに…」を「凄い…」の間に時々織り交ぜながら溢した。


 そして三つ目。これがアカサには一番大事だった。


 戦闘が続くようになって気づいてしまった事実。アカサは気にしないようにしていたが、


「ふ、二人ともっ!ちょっと待ってぇ!」


 我慢の限界だった。


「…っと、どうしたよアカサ。今さ、イイトコなんだけど」


「どうされたのですか、兄様」


 アカサの必死な叫び声に今さら何故、と思いながらも二人は応えた。とりあえず構えを解きアカサを振り返った。


「あのさ、愛」


「何さ?」


 呼ばれて愛は肩に茎をのせて首を傾げた。


「もう勝負を止めようとはしないからさ」


 アカサがもじもじと視線を合わせず言いずらそうに話す。愛は、


「ん?だったら何さ?」


 ますますわからないと言ったような表情になる。アルフアもアカサの意志が汲めず愛同様の顔をした。


「せめてさ」


「せめて?」


 意を決死、


「そのスカート…どうにかなんない?」


 アカサは言った。


 アカサは気がついてから気になって仕方がなかったのだ。視界に入る愛。その格好が下は短いスカートだけであり飛びかうごとにヒラヒラとギリギリの位置を危なげに守っているだけだという事実が。


「あぁ」とアカサが視線を外す理由と戦闘を一時的に止めた理由を理解した愛は、


「やだ、アカサのすけべ」


 とぷふと笑った。


「ち、違うよ、見えてないよ!ちが、見てないよ!」


 慌ててアカサは否定するが愛はまたもぷふと笑いながら、


「アカサも男の子だもんねぇ。気になるよねぇ」


 とスカートの端を摘まんだ。


 その行動にさらにわをかけ焦ったアカサは「ホントに見てないっ!見ないから、だから着替えて!」とぎゅっと瞼を閉じて頬を赤らめながら叫んだ。

 アカサが照れ、愛がヒラヒラとスカートの端を摘まんでいると、


「……おい」


 とアルフアの低い声が聞こえた。アカサは反射的に背筋を伸ばしてアルフアを見た。アルフアの方はアカサを見ず背になにやら不穏な空気を纏いながら愛を凝視していた。


 愛は何処吹く風でそれを見返し、


「ごっめぇん、アルフア。アカサ、私にメロメロだわ」


 と勝ち誇るように言った。


「ちが、だから違うってっ!」


 アカサは必死に抗議申し立てるが既に二人には届かなくなっていた。しかしアカサはかまわなかった。何故なら勝者と敗者に別れたかのような雰囲気に続く言葉を失ったからだ。


「…ルールを変えるぞ、愛」


 そしてアルフアが提案する。


「何さ?」


「お前が法纏を使えるのであれば、〃用意した茎が全て使い物にならなくなり私の力に泣き震える愛に一撃を与える〃作戦がもう使えない」


「……あそ」


 呆れたような愛の返事。


「ならばよりいっそう単純にしよう」


 そう言って両手で茎を握り締め愛に対峙する。そこにアカサにもわかるほどの力の気配が生まれる。


「あ、アルフア」


「兄様、少しだけ距離を取っていただけますか?」


 アルフアの低く力のこもった声に「う、うん」とだけ言ってアカサは離れるしかなかった。


「…それがあんたのは本気?」


 アカサをからかっていた時と違い愛の声も真剣さを含む。アルフアの力の気配を確かに感じた証明だった。


「そうだな…本気…と言ってももはや過言ではないな。…愛、お前もやってみろ」


 そう言われ愛は同じように両手で茎を握り締め全力を込める。


「おっけぇ…出来たっぽい」


「法纏を使った状態での全力勝負…最後に立っていた方の勝ちだ」


 愛の言葉に首肯しアルフアが宣言する。そして何を合図にしたのかアカサには理解できぬまま、


「わっかりっやすぅい」


「いくぞ」


 二人は激突した。


 アカサの思考はいろいろあり少しだけ鈍っていた。その為遅れながらにある一つの答えを脳裏に閃かした。


 二人の戦いの場は何処だ。


 二人の力の差はどれ程だ。


 では、それが行われた場合どのようになる。


「待っ…」


 アカサの出した答えは…。





 デイキーユ王国の数ある都市町村は主だって北部、東部、西部、南部中央部に区分される事が多かった。それは例によりリマジハ村も同じことだった。


 リマジハ村の場合、王国内でも南方に当たるので北部に大通りや村の正門を構えていた。中央部には雑貨屋などの商業施設や集会場等の公共施設、自警団の本部が置かれていた。そして南部には広大な平地を活かした合同牧場や簡単な工場があり、そのさらに下ると小さな港もあった。


 東西に区分された箇所にはそれぞれ畑が広がっていた。西に構える人々の多くは果物を育てていた。アカサの住む東部は野菜を育てる者が多かった。もちろんアカサも例にもれずトウモロコシを筆頭に幾つかの野菜を育てていた。


 中央部の民家は割合隣通しが近く設けられていた。しかし東西に畑を持つ民家、つまり農家は隣通しでもかなりの距離があった。アカサの隣の畑のおじさんの家、と言っても目測で五十メートルは離れている程だった。


 と、そんな事はどうでもよかった。


 何故なら大事なのは、おおよそではあるがアカサの住む東部から西部までは距離にして二キロ以上は少なくとも離れている、という事実。


 それともう一つ。


 その範囲に住む者たちが全員気がつくほどの衝撃がリマジハ村に走った、と言うことだった。


 リマジハ村の住民たちに戦慄が駆け巡った。


 もしかしたら翼持つナリカケの到来ではないか、いや、最悪「怪獣」が襲来したのではないか、と。


 村民の不安を取り除くため早急に自警団が動き衝撃のおこった跡を辿ると…。


 そこには膝をつき両手を地に当て涙を堪える少年の姿と、それを慰める二人の少女の姿、それと抉れ返った地面があった。


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