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ブレベたん~ブレイブ・ベルの小さな冒険譚~  作者: 高岡やなせ
第一章 「ギルド」後編~林応都市ベルホーミ・ターズ大森林~
15/18

第15話

 アンリミー・テイベット。アルフア・テイベットの実姉であり、アカサ・ターナーの義姉である。性格は自身に厳しく身内にも厳しく、養父的存在である隣畑のおじさんも頭が上がらないほどだった。


 あの時も大変だったよな。


 アカサが自身に出来る事を…と、おじさんに農作業を教わる事にした時、アカサはおじさんと二人で四苦八苦したものだった。それは勿論慣れない作業や生活の変化は当然の事で、何よりもアンリミーの説得に骨が折れたからだ。


「開墾者になるのはかまわない。しかし、それならば私を納得させるだけの仕事をして見せろ」


 この時アンリミーはすでに王都の騎士団に剣士として就職しており、アカサやアルフアを扶養してくれているおじさん夫婦に仕送りをしていた。そんなアンリミーの発言は無下に出来るものでは無く、アカサ自身やおじさん夫婦もその通りだと納得した上での事だったからだ。


 それからアカサとおじさんはアンリミーに認めてもらうため必死に農作業をこなした。アカサはこの頃、午前か午後のどちらかを村の初等学舎ファーストクラブにも通っていたため幼いなりに難だった。そうしてナリカケの襲撃、初等学舎ファーストクラブの卒業等、様々な出来事を経てアカサはアンリミーとおじさんに一人前の開墾者として認められる事となった。


「良く頑張ったな。流石、私の弟だ」


 アカサはいまだにその時のアンリミーの言葉を忘れてはいない。普段余り表情を崩さないアンリミーが破顔し、アカサの頭をくしゃくしゃに撫でた。おじさんもそれを安心したように眺めていたのを覚えている。


 その後、アルフアが騎士団に誘われ入団する際におじさん達に挨拶に来たのがアカサが最近会ったアンリミーに関する記憶だった。


「私が責任をもってアルフアを預かります」


 あの時アンリミーはそう言っていた。アカサが思い返してみればアルフアが帰って来た当日に「言われるがまま」と言っていったのは…アンリミーの事だったのかも知れない。


 さて。そう考えるとこの課題は僕がギルドをやっていく上できっといい経験になるはずだ。


 元々アンリミーの出した課題依頼は受けるつもりだったが、こう考えることでアカサはより前向きに臨むことが出来た。


 アカサは愛達に頼んで部屋に置いておいてもらった少し湿った手紙とクライアントタブレットに目を通した。




「相変わらずだなぁ」


 手紙を読み終えアカサは思わず呟いた。几帳面そうな字形や文章はもとより、何よりも中身が簡潔なのだ。アンリミー自身のことなど「私の事は心配ない」と二行目のこの文章のみだった。せめてもう少しくらいは…と、アカサは苦笑したが、そこにアンリミーらしさが確かに見てとれた。


 確かに大事なのは内容だけど。


 アカサは一度手紙を読み終えてからクライアントタブレットを眺めた。


「依頼主 アンリミー・テイベット


 依頼内容 ターズ隔離管理保護区の調査。


 詳細 デイキーユ有するターズ隔離管理保護区 (以下森とする)にて異常がみられる。おそらくは森の深奥部にてなんらかの強い法力の発生が原因と思われる。その調査の為、森に入られたし。また、受託者及び受託集団の達成報告若しくは暫定報告が一つの週回りない場合、それは失敗とみなす。失敗、不可能報告を依頼者が受けた場合、受諾権利は即刻無効となる。」


 と、書かれていた。続きには期間と報酬について記載されておりその額にアカサは頬が引きずった。


「姉さん、これ、自腹かな?」


 思いの外、高額だったため二度、三度と確認する。なんで…と不思議にアカサは思ったが、それだけ危険なのかもしれない…と考えれば課題的意味合いも重ねて納得することが出来た。


 手紙とクライアントタブレットを読了し、ある程度アカサが把握、納得した頃、大部屋の扉が開けられた。


「あ!アカサ、手紙読んだんだ」


 開口一番、黄色の浴衣に身を包んだ愛が言う。アカサは「うん、今読み終わった。クライタ(こっち)の方も見たよ」と両方を愛に示した。愛はアカサの前に座り、


「どう?私は依頼内容クライタしか見てないけどさ…なんとかなりそう?」

「どうかな…とりあえずはやってみなきゃわからない…かな」

「だぁよね」


 困ったようなアカサに愛も眉を寄せて口元だけで笑って返した。


「こら、髪はしっかりと櫛を通しておけと言ったろ。だいたいお前は乾く前からだな…」


 そこへ同じく黄色の浴衣に着替えた三人が入ってきた。アルフアは入ってくるなり愛にぼやいた。


「はいはい、ごめんってアルフア。でもさ、ドライヤーとかないし、結局はナチュラ乾燥じゃん?」

「それでも丁寧に拭けばそのぶん早い!今朝だってお前が髪の手入れに時間がかかって…」

「ごぉ、めぇ、んってば。今からやるっての」


 そう言うと愛は部屋の隅に置いてある自身の荷物から櫛と鏡を取り出し、アルフアから髪拭きように手拭いを受け取った。


「ゆっくり拭け、髪が痛むぞ。拭けたら私が櫛を通す」


 アルフアは愛に「あんたは私の母親か」と愚痴られながらも愛の背後に付いて座った。


「やはり仲が良いデスネ。本当の姉妹のようデス」


 二人のそんなやり取りを見て、アカサの側に座りながらアーシスが微笑む。そこへ「全くだな」と言ってアウンが並び胡座をかく。続けて、


「異世界から来たってのが信じらんねぇくらい、馴染んでるよな」


 と二人を見ながら呟いた。


「…………え?なんて言いました、コーキュさん」


 アカサは自身の耳を疑うように聞き返した。


「全くだな…か?」

「そのあとです!」

「え、あ…と、異世界から来た…」「な、なんでそれをっ!」

「浴場で愛さん御本人から聞きマシタ」


 アカサの迫る勢いに圧されるように言葉に詰まったアウンの代わりにアーシスが答えた。アカサは二人を交互に見てから震え、まだ髪にかかっている愛とアルフアの方を向いた。


 一瞬二人が体をビクリと震わせたのは見間違いではないだろう。アカサは眉間に皺を寄せ頭を抱えるように声を出した。


「あーいー」


 アカサの言葉にあはは、と振り向かないまま乾いた笑いを返した。アルフアは小刻みに髪をとかしている手を震わせ続けている。


「なんで喋ったの…」

「いやぁ…ねぇ」「す、すみません。私も止めきれませんでした」

「あんまりペラペラ話すものじゃないよ」

「…わかってるけどさ」


 顔を見なくても膨れっ面だろう事がわかる声色で愛が言う。アカサは頭痛と溜め息に顔をしかめた。


「じゃあさ、アカサはアウンさんとアーシスさんが信じらんない?」

「……そう言うわけじゃ……ないけど」


 愛の反問に今度はアカサが言葉を詰まらせる。


 出会ってからの時間こそ短いが、アカサも二人には信頼…と言うか好感は持っていた。性格や行動から考えるに悪い人とは…思いたくなかった。


「すいマセン、アカサさん。愛さん達には私達の方から聞いたのデス」


 何も言わずにいるアカサにアーシスが声をかけた。


「愛さん達と…といいマスか、愛さんとお話していると時々不思議な言葉が出てきマス。それで気になってしまい…」

「今も言ってた、どらいや?とかよ、他にも。あと馬車ん中で雨装外套を珍しそうに話してたしな」


 アウンが付け加える。アカサは最近では気にならなくなっていた為に見落としていた点をつかれ、さらに何も言えなくなった。それは愛に対して不注意だと指摘した自身への反省でもあった。


「ごめん、愛。僕も気を付けるべきたった…」


 ようやくそれだけアカサは呟いた。


 そして、会話が完全に途切れた…と、思われた時、


「あのよぉ」


 アウンが頭をかきながら口を開いた。


「別に秘密にしろってんなら、アタシは黙っとくぜ。なぁ、アーシスだってそうだろう?」

「勿論デス。好奇心の為に伺いましたが、人の秘密を他言するような真似はニヤの教えに賭けてする事はありマセン」


 アウンに尋ねられアーシスも真剣にアカサの目を見て言う。アカサは少し悩んで、


「ありがとうございます」


 頭を下げた。


「気にすんなって。むしろ、なんか悪かったな」

「アカサさんも一緒に居れば良かったのですが…聞いたのが女湯デシタしね」


 アカサは二人の言葉を素直に受け入れ、安堵することが出来た。また「女湯はちょっと…」と返しながらこの二人なら大丈夫だろう、とそう思えた自身を受け入れる事が出来た。


「ににに兄様…あの、もう?」


 そこに様子を見計らっていたアルフアがおそるおそるとでも言うようにちらりとアカサを見た。アカサもその視線に笑顔を向け、


「ごめん、アルフア。僕も悪かったのにね。今度からは僕も気を付けるから」


 と謝罪した。それだけでアルフアの表情は光を帯びたように眩しいものとなった。


「あんたもわっかりやすい奴だねぇ…って、痛いし!」

「もとはと言えばお前が!あれほど止めたのに…」


 愛の髪を強めにあしらうアルフア。それに抗議をする愛、といういつもの調子に二人が戻り、部屋にも明るい雰囲気が戻った。


「…アカサさん?」


 穏やかな時が流れ始め、四人が和やかに寛いでいるとアカサの顔が真剣みを帯びていったのをアーシスが気付き、いち早く声をかけた。


「え!あ、え…とですね。実はさっきの愛の話の後から考えてたんですが…」


 アカサの言葉にアーシスを始め、髪を仕上げ終わった愛とアルフア、アウンが注目している。


 アカサはゆっくりと四人を見る。


「明日、この依頼を受けようと思います」


 手元に置いていたクライアントタブレットを全員に見せるように持つ。愛とアルフアは同時に頷いた。アカサも頷き返す。そして、続ける。


「そのためにターズの森に向かうんですけど…そこでティアントさん。コーキュさん。お二人に力を貸してはもらえませんか?」

「……へぇ、アタシ等に護衛依頼をするって事かい?」


 アカサの言葉にアウンが即座に返した。アーシスは口元を手で覆い僅かに驚いていたようだ。


「はい、そうなりますね。あ、勿論、報酬は払います…ただ…」

「ただ?」

「成功報酬にしてもらえませんかね」


 アカサは「でないと纏まった額を払えないんです」と、困ったように呟いた。


 話を聞き、アウンは腕を組み、目を閉じて思案する。アーシスも目を伏せ考えているようだった。


 その間アカサは愛とアルフアに視線を送る。


 勝手に決めてごめん。


 その意思が通じたのか二人は黙って首を横に振った。アカサはありがとう、の意味を込めて目尻を下げ、微笑んだ。


「あの、無理なら…」「無理じゃねぇよ」


 アカサが沈黙の長さに自身から再度尋ねるとアウンは即座に返答した。


「アタシはやっても構わねぇ…そう思ってる」

「そうですか、ありがとうございます!…えと、ティアントさんは…」

「…私も、構いマセンよ」


 アーシスは優しく答えた。そして、


「「ただし」」


 二人の声が揃った。アウンとアーシスは一瞬顔を見合わせるが、ふと互いに通じたようにアカサに向く。


「報酬は要りマセン」

「…っつう事だな」


 アーシスの言葉にアウンは首肯しながら呟いた。

 

「なんでまた」


 アカサは戸惑った声を出した。二人だって〃依頼〃を受ける側だ、報酬の有無は当然の事のはずなのに…アカサは疑問をぶつけることを続けようとした。しかしそれはアーシスの言葉に遮られた。


「アカサさん。二泊もお世話になった…そのお礼、とでも思っていただければ良いのデスガ」

「…そんな…」


 それは自分のせいで…と、納得することができない様子のアカサに今度はアウンが口を開いた。


「なんなら体で払おうか、兄ちゃん?」


 口の端だけをあげる笑みを張り付け、片目を閉じて布団を差す。


 アカサは一瞬眉を潜めたが、言葉の意味を理解して、


「冗談はやめてください」


 とやんわり断った。アウンもさらににやける事で返してきた。そして、アカサは思考を巡らせた後、


「なら、成功したら皆で祝杯をあげましょう?それくらいなら付き合ってくれますよね」


 と提案した。二人はフッと顔を綻ばせ、


「ったりめぇだろ。ただ酒なら大歓迎だよ」

「ふふふ、楽しみデスネ。美味しい処でやりマショう」


 と各々答えた。


「アカサ、まとまったみたいだね」

「うん」

「じゃあさ、ご飯にしよう。私お腹空いちゃった」


 愛の言葉を皮切りにグゥ、と誰かの空腹を訴える音が聞こえた。アカサも思わず腹部をさする。見ればアーシスがとても切なそうな顔をしていた。


「そういえばお腹空きましたね。美味しい食べ物の想像をしていマシタから特にデス」


 心なし声量も落ちている。ここでアカサは大事なことに気づいた。


「でも、ご飯何も用意…」「じゃあん!!」


 愛はアカサが言い終わる前に荷物からいくつかの品物を取り出した。それは王都から買ってきた物のようで綺麗な模様の入った紙で包装された箱のような形をしていた。


 愛はその箱を包む紙を無造作にびりびりと破りながら中身を取り出してアカサ達に見せた。


「王都の駅で売ってた御菓子。皆で食べよ!」

「お、これはアタシも食べたことあるな。確かに上手かった」

「でっしょ?売り子のおばちゃんに相談しながら選んだんだ」

「とても楽しみデス」

「わわわ私も買ってきたんです。よければ兄様も一つ」


 アルフアに差し出された御菓子をアカサは「ありがとう」と受けとる。見れば一つ一つが包装された高級そうな御菓子だった。


「私んとこの世界のお饅頭に似てんだよね…名前はティオボールって言ってたけど」


 そう言いながら愛は早速一口かじる。「あっまぁい!…けど後味スッキリ!」と手足をばたつかせ美味しさを表現していた。


 アウンやアーシスも一口食べて、味を噛み締めているようだった。アルフアは…、


「食べないの?」


 アカサはじっと自身を見ていたアルフアに尋ねた。


「いや、あの…」「アカサ。これは最終的にアルフアが選んだ奴。あんたが食べた事が無いような珍しい物がいいって言ってさ」


 言い淀むアルフアの代わりに愛が二個目に手を伸ばしながら答えてくれた。

 アカサは自身が手に持った御菓子の包みを剥ぎ、おもむろに一口食べる。そして咀嚼し、飲み込む。口の中に広がる甘さを楽しみながら、その一部始終を見ていたアルフアに、


「ありがとう、アルフア。とっても美味しいよ」


 と笑いかけた。それだけでアルフアは満足そうに顔を歪め、次の瞬間には何やらまた荷物をあさくり始め、似たような包装箱を取り出した。


「あの、まだ他にもありますから」


 とアカサの前に広げ出した。


「あ、それは私が選んだ奴だね」

「こちらもとても美味しそうデスネ」


 広げられた箱の周りに愛とアーシスが寄ってくる。


「甘いもんばっかってのもたまには悪かな…」「ぶっぶー。残念、アウンさん。私が選んだのは激辛味の平焼き菓子でぇす!」「上等っ!……って、辛っ!」「っでっしょぉ!」「甘いもの後に辛いもの…均衡がとれマスね」


 アウンが平焼き菓子をバリッと音をたててかじるとその辛味に涙目になった。その反応に愛は嬉々とし自身も同じくかじりつき、涙目になりながらはしゃぐように食べる。しかしその隣ではアーシスが何事もないかのようにその辛味を味わっていた。


 三人が手持ちの平焼き菓子を食べ終える頃にはさすがに水気が欲しくなったのでアカサとアルフアが食堂まで飲料をとりに行った。


 アカサ達が飲み物を用意する間に残った三人が他の菓子包みもあけて待っていた。


 飲み物だけだったので時間はあまりかからずにアカサ達は戻ってきた。そして、改めて御菓子を中心に置き、五人で輪を作ってからアカサ達が運んできた宿の日替わり飲料として販売されていた硝子瓶に入った葡萄の果汁(グレープジュース)を全員の硝子の湯呑みに注ぎ渡す。


「じゃあ、前祝いも兼ねて……ほら、アカサ」

「え…と、うん。いくよ、乾杯ぃ!」

「「「「乾杯」」」」


 五人は手を伸ばし、盃を交わすように音を鳴らした。硝子の縁が出す音は直ぐに途絶える程に小さく、響くことは無かったものの、確かに五人の心の奥に届いた。少なくともアカサはそう感じていた。


「でもさ、私達ってついてるよね。こんな凄い人達に力を貸してもらえるなんてさ!」

「それについては私も同感だ。私やお前でも戦力的には充分だと思うが…万が一にこの二人が付いて来てくれるのは心強い」


 御菓子を口にしながら愛が嬉しそうにアウンとアーシスを見て言い、それにアルフアが答えた。言われた二人はそんなことはない、と謙遜するように手を振っていた。ただ、この時アウンの顔は赤らんでおり、照れ隠しだというのが正しいのだろう、とアカサは見ていた。


「あれ?でもさ、なんで愛達は知ってるの?コーキュさんの話は少ししたけど…ティアントさんの事はまだ何も…」


 ふと、アカサの脳裏を過った疑問があった。それが今の発言だった。


 アウンの強さに付いて特別に話したわけでは無いが、昨日の件で多少は伝わったと思う。しかしだ。アーシスに付いてはそんな内容の話をした記憶がアカサには無かった。むしろ今からするつもりだったからだ。補助系統法術の使い手としてのアーシスの事を。


「なんでって…メモ見せてもらったから、二人の。凄いんだよ、肩書き!」

「ああ。私も仕事で大司祭を名乗る肩書者は見たことがあったが、実際にメモを見せてもらったのは初めてだった」

「やめてクダサイ、お恥ずかしい」

「照れることはねぇって、アーシス。アタシも大司祭なんて初めて見たよ」

「何、言っちゃってんの、アウンさん。アウンさんだってスッゴいじゃん!超闘士でしょ?名乗るのスッゴいムズいんでしょ!」


 愛の称賛にやはり照れたように湯呑みを傾け、その飲んだ勢いむせるアウン。それを楽しそうに見ているアルフアとアーシス。


 だが、しかし。アカサはそれを穏やかに見てはいられなかった。


「大…司祭?」

「ハイ」


 確かめるようなアカサの声にアーシスが淑やかに微笑み返す。


「超闘…士?」

「んだよ、兄ちゃん。信じらんねぇのかよ」


 悪態さえも照れ隠しだろうアウンがアカサの問いに答える。


 え…………。


 ところがアカサは記憶をひっくり返すように思い出そうと努める事に精一杯で続く言葉が出なかった。


 大司教。それは導師と呼ばれる戦闘職業の従事者において、最高位の肩書きだったはずだ。しかも宗教導師に置いてその補助系統法術の技術は「奇跡」と呼ばれる事があるほどの効果を持つと言われ、その教団の象徴的役割さえ果たすと聞いた事があった。


 次に超闘士。闘士の数少ない肩書きにおいてはある意味、大司祭よりも稀有な存在だったはずだ。それは長い年月をかけて積み重ねた鍛練と修練、それから生まれ来る自信と実力を持ってして尚且つ、名乗る事が難しいと言う。ある研究者に言わせれば、他の誰や何でもなく、ステータスメモ(・・・・・・・)そのものに認めてもらう類い希な職業だ…と言うことらしい。


 あくまでも習い聞いた話であったり噂の範疇で聞いた類いの話でしかない。しかし、それがもし話通りの事実ちからだとすれば…アルフアの言っていた通りこれ以上ない心強い面々だと、アカサも同感した。


 デイキーユ上位騎士にして〃最強個人〃「聖騎士」、その聖騎士に並ぶ〃勇者〃こと「次元超者じげんをこえしもの」、導師の最高位である〃奇跡の使い手〃「大司祭」、闘士の頂にして〃闘技場の覇者〃「超闘士」。


 言葉にして並べてみればとてつもない肩書きを持った者達が集まったものだ、と今さらながらアカサは身震いしそうな何かを感じた。


 …………あれ、でも、待てよ。

 

 アカサはそこまで考えてから恐ろしい事に気が付いてしまった。いや、遅かれ早かれ辿り着く単純な事。


 …………これって、かえって僕が足手まといなんじゃないか…。


「どうしたん、アカサ」


 しばらく思考に浸っていたアカサを現実へ引き戻す声が聞こえた。辿り着いた答えに茫然自失になりかけたアカサにも愛の言葉は届いた。


「なんか顔色悪いよ?」

「どこか具合でも?」


 意識は取り戻しつつも返事のないアカサを怪訝に思った愛とアルフアが心配そうに見ていた。アウンとアーシスも何も言わないが気にしてくれているようだ。


「ん、とね。大丈夫…なんだけど…ごめん、正直に言うと…怖じ気づきそうになってた」

「え!なんでさ。私等きっと、チョー強いよ?心配ないって!」「そうですよ、兄様。万が一の為にこの二人にも来てもらうのですから」


 アカサの弱気な発言に二人は念を推すように捲し立てた。それをアカサは首を横に振って応えた。


「どういうこった、兄ちゃん」

「何か不安事でも?」


 アカサの反応に痺れを切らしたのかアウンとアーシスも入ってくる。四人の問うような視線を浴びながら、アカサは苦笑した。


「いえ、皆さんの力は…愛やアルフア、コーキュさんとティアントさんの実力は信じてますよ」

「ならさ、なんでさ」


 愛は追求するようにアカサに寄った。


「僕が僕自身に不安があるんだ。皆と違って戦闘職業じゃないし、ましてや戦闘経験者でもない。一介の開墾者で、獣さえ…そんなに相手にしたことの無い人間だからさ」


 アカサは愛に諭すように思ったことを述べた。四人の実力が本物であれば尚更足手まといになるのは目に見えている。勿論、アウンやアーシスに頼んだのもそれを見越してのことだったが…それでも自身が情けない事に変わりは無い、アカサはそう考えていた。


 無論、だからと言ってアンリミーの依頼を受けない訳ではないのだが…弱気になってしまうのは仕方のないような気がしていた。


 なぜなら怪獣に遭遇する可能性による恐怖、ではなく。非力な自身が足手まといになる恐怖がアカサを包んでいたのだから。


「役に立てないんじゃないかって」



「なぁんだ、そんな事か…」



「そうなんだ。そんな事……って、愛!?」


 つられるように返したアカサだったが、途中で自身の不安が〃そんな事〃扱いされたのに気が付き慌てて愛を呼ぶ。しかし愛当人はそ知らぬ顔で安堵したように座り直した。


「怖じ気づいたって言うからさ、ビックリしたじゃん。行きたくなくなったのかと思った」

「行くよ?行くけど…」

「あのさ、アカサ。自分は戦いじゃ役に立てないって言うけどさ」


 アカサの言葉を遮り、愛は両手をいっぱいに広げて三人を示す。



「出来る事出来ない事、誰にだってあると思うよ。…でもさ、だからこその団体ギルドじゃん?そのために私達が居るんじゃん!」


 今度は愛がアカサを諭すように言い放つ。その表情は自信で満ち溢れていた。アカサは自然と四人を見た。


 視線が合うとそれぞれが任せてくれ、と言わんばかりに強く頷いた。


 本当に情けない。


 アカサは覚悟が決まっていなかった自分自身を恥じた。そして、再び全員に頭を下げた。


「すいません、弱気なこと言って。…明日はよろしくお願いします」


「おっけぇ!」「勿論です」「ああ、任せとけって」「頑張りマショうね」


 こうして和やかな夜の茶会に戻った。


「しかし兄ちゃん。昨日も似たような事を言ってたよな。そんなに不安ならアタシとアーシスが一緒に寝てやろうか」

「なるほど、そうデスネ。一人で抱え込むよりは良いかと思いマス」


 くくく、と喉を鳴らしアウンが言えば、優しくアーシスが同調する。アカサは草臥れたように、


「だからそう言う冗談はやめてください。…ティアントさんまで一緒になって」


 と苦笑して返した。二人も軽く肩を揺らした。


「じゃさ、私等が…ねぇ、アルフア」

「そそそそうだな…それが」

「本気でやめてください」


 アカサは真顔で返した。「本気でって、アカサひどっ!」「に、兄様が私達に敬語だと…」と、愛とアルフアは互い違いに愕然としていた。


 そうこうしているうちにアカサは布団の貸し出しの事情を思いだし、ある程度空腹が紛れたところで運び出しをする事にした。アウンと愛がそれを引き受けてくれたため早目に解決した。


 残る問題は最後にして最大。明日のターズ大森林の攻略計画だけである。


 出立時間、必要品、道順等を一頻り話をしたあと、


「なんとかなるっしょ…ってかしなきゃね」


 と愛の一言で締め括られた。


「そうだね」「…まあ、な」「分かりやすくっていいぜ」


 と了承をそれぞれが告げ、最後にアーシスが、


「ハイ。そして、美味しいご飯を食べに行きマショうね」


 と言い、こうして一日が終わった。





「おーい、アカサ…寝た?」


 夜。もぞもぞ動きながら愛が部屋の一番端を陣取ったアカサを呼ぶ。「ん、なに」寝ぼけたようなアカサの声が返り愛はニヒヒと声を漏らした。


「そっち行っても…」「愛。この距離はね、僕の貞操を守るためではないよ。君の常識を守るためなんだよ」

「…………ぶぅ」






 ─────






 明け方、今日は戻れない可能性もある事を受付のに伝えるに行くと今日は男性だった。それでも構わず尋ねると前払いしてくれるなら部屋は取っておくとの事で纏めて昨日と含め二日分支払いをしてアカサ達は早目に宿を後にした。


 昨日の夜、必要品として挙げられた物を朝の広場で揃えられるだけ揃えた。携帯食たべもの水筒のみものを丸一日分。愛は腰の万能帯にそれらをぶら下げて「なぁんか遊びに行くみたい」と言ってはしゃぎアルフアに怒られていた。しかし携帯便所の役目を果たす地の人工法霊石の説明を聞くと「リ、リアルって…」と減なりしていた。


 クライアントタブレット自体が入許証となっていた為、とりあえず愛の気分的要素はともかく、アカサ達の準備は整った。


 後はアンリミンーの指示通り、現在主流となっているメインベルホからではなく、サウスベルホの西側経由で向かった。道成は普段は木の成長がメインベルホ寄りよりも遅いため、調整と呼ばれる年に数回行われる広範囲伐採以外で余り人が訪れにくいこともあり多少荒れていたが問題なく進むことが出来た。気がつけば森の影響を受けた思われる木が疎らながらも伸び始めた場所に足を踏み入れた。


「もう直ぐ、森だ」


 アカサは見通しの悪くなる遠方を眺め呟いた。さらに少し進むと途中、木に隠され護られるように残された御屋敷のような廃墟を通り過ぎた。


 そして、その先、森は深まった。




 ────





 そして深まる森の中。


 住居として使用している木根の下にくり貫かれたような洞窟を出て、セーラは木々で殆ど見えない青い空を見上げ小さな鼻を引くたつかせた。


 雨上がりの重たい空気だが、風が運ぶ森の香りの中に間違いなく獣達とは違う臭いがした。それはおそらく近くの町の人間達だろうと判断した。それだけなら人数の多少はあれどいつもの事と割り切れただろう。しかし、不思議な点が一つだけあった。


 いつもの人間達なら町に一番近く、よく使われる東側の境界線(いりぐち)からある一定の範囲に集まっているはずだった。


 だが、違うのだ。


 この人間達は東南側ちがうほうからセーラ達の洞窟 (こちらがわ)へ真っ直ぐに目指してきている気がしたのだ。


「…………セーラ?どうかしたの」


 いつもなら外に出たとたんはしゃぐように木々の隙間を駆け巡るセーラと違う反応に訝しみ、カンナは首を傾げた。セーラはカンナの声に振り向き、「んー」と口を結んだ。


 カンナに続いて出てきた巨体の怪獣はセーラと同様に鼻を空に掲げるように引くつかせた。


「やっぱり?」


 セーラに顔を向け一度低い唸り声をあげた。セーラもそれに頷き返し、見えない遠方を見据える。


「カンナちゃん、私達行ってくるね」


 セーラは小さな体で身軽そうに巨体の怪獣の背中に登った。そして、カンナに一言伝えると、


「行こ、ダーディ」


 怪獣に呟いた。怪獣も小さな唸りをあげると一歩、一歩と進み始めた。


 それを見送りながらカンナは両手を重ね、


「…………危ない事はしないでね、二人共」


 精一杯の声でセーラと怪獣の身を案じた。

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