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孤独の中でも

 イセン国。


 それがその国の名前。

 トリア大陸の北に位置するその国は、好戦的な王のもと、戦を繰り返し北部全土を統一した。

 短期間で大きくなったその国は、膨れ上がる人口に伴い、目まぐるしく町並みを変えた。

 今は工業を主流とし、町のいたる所に工場が立ち並び人も物溢れ返っている。

 発展と向上を掲げ、その実、大きくなりすぎたその国には混沌が広がっている。

 希望と絶望が入り混じる場所。

 それが、ラウラが連れて来られた国だった。


「まだ帰って来ていないです……」


 ラウラはそっと息を吐く。

 シィンと静まり返った屋敷には主の気配はない。

 ユーゴ・アリオスト。

 ラウラを引き取ったこの屋敷の主。

 国の政を司る宰相の部下であるユーゴは、朝早くに出かけ、夜も更けてから帰宅する。

 日によっては、帰れない日すらある。

 ラウラが屋敷に来てからの数日間は、日に一度は様子を見に来ていたものの、最近ではいることさえ忘れているのではないかというくらいに姿を見せない。

 ユーゴからは自室を与えられている。

 ラウラには身に余るほどに広く整えられた部屋は、数日経った今でも落ち着かない。

 衣食も、使用人が面倒を見てくれている。

 屋敷内であれば、自由に出歩いていいという許可ももらっている。

 拍子抜けするほどの待遇の良さ。


「ラウラは、どうしてココにいるんだろう」


 連れて来られた時の恐怖は薄らいだ。

 けれど、独りきりだという寂しさと悲しみは日増しに強くなっていく。


「みんなに……会いたい」


 呟きあふれ出す涙。

 ここにはそれを見咎めるものは誰もいない。

 人間を警戒するラウラに配慮してか、決められた時間以外に使用人が訪れることはない。

 不定期であるユーゴの訪れも途絶えて久しい。

 大きすぎるベッドの端で体を丸める。

 村では、小さなベッドにみんなでもぐりこんで、一緒に眠ることがよくあった。

 一人で泣いていたって、誰かが聞きつけてすぐに駆けつけてくれた。

 いつだって誰かの温もりが側にあった。

 平凡で当たり前の日常は、眩暈がするほどの幸福だったのだと、今更ながらに気が付かされる。


(ラウルたちを捜さなくちゃ)


 溢れ出す涙をふき取り、ラウラはきつく唇を噛みしめる。

 あの後、ラウルたちがどうなったのか。

 その生死は未だ分からないまま。

 盗賊たちは、若い耳長族を捜していた。

 そうであれば、捕まったとしても生きている可能性もある。

 仲間と再会すること。

 それがラウラの今の唯一の希望だった。




 ユーゴの屋敷に来てから一月。

 相変わらずユーゴは姿を見せないものの、緩やかに平穏な毎日は続く。


「あの! き、今日もいらっしゃらないのですか?」

「えぇ。お忙しい方ですから。本日は泊まり込みと聞いております」

「そう……なのですか」


 給仕にやって来たメイドに思い切って声をかけたものの、返ってきた言葉は、残念なくらい予想通りのもの。

 あの悪夢の夜の出来事を、ラウラは“盗賊に襲われた”ということしか知らない。

 仲間を探す上で、あの夜のことを知ることを避けては通れない。

 だからこそ、詳しい話を聞きたい。

 けれど、ユーゴと話をするどころか、顔すら会わせない。


「ユーゴ様がお戻りになられたら、ラウラさんがお会いになりたがっていることを、お伝えしておきます」


 分かりやすく落ち込むラウラを見かねたのか、メイドはそう言葉を続けた。


「! あの……よろ、よろしくお願いします」

「はい。必ずお伝えします。……それと、差し出がましいかもしれませんが、少し気分転換をされてもよろしいのではないですか? 部屋に籠りきでは気分も滅入りますから」


 気遣わしげなメイドの言葉に、ラウラは驚き目を瞬く。


「……私も戦で家族を亡くしています。気持ちは少しだけ分かります」

「……」

「ごめんなさい。余計な話でした」


 黙りこんだラウラの様子に気分を害したと判断したメイドは、小さく頭を下げる。


「あ! ち、違うのですっ。えっと、あの、き、気にかけて下さって……あ、ありがとうなのです」


 ラウラのたどたどしいお礼を聞き、メイドは「どういたしまして」と答え人懐っこくほほ笑む。


(初めてじゃないのに初めてみたい)


 屋敷に来てから、ずっと顔を合わせていた相手。

 けれど、まともに視線を合わせ、会話をしたのはきっと初めて。

 彼女には、ラウラへの気遣いが見て取れた。

 “人間”と一括りにしていたものが、今日初めて彼女という存在を認識した。

 孤独で押しつぶされそうな胸がほんの少し軽くなる。


(今度顔を合わせたら、名前を聞いてみようかな)


 ほんわかと温かなくなった胸に手を当てて、そう心の中で呟いた。


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