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ファーストコンタクト


「ん……」


 意識を手放していたのは、どれだけだったのか。

 気が付いたその時には砂馬が引く荷台の上だった。

 カタカタとひどい揺れの中、ラウラは横たえていた身を起こす。


「お! 起きたぞ」

「へぇ。本当に瞳の色は紅なんだな」

「おいっ。あんまり近づくな。怯えているぞ」


 荷台にはラウラだけでなく、数人の軍服姿の男たちがいた。

 皆、物珍しそうにラウラを見ている。


「ひっ」


 一体何が起きているのか意味が分からなかった。


「大丈夫か?」

「い、いやっ!!」


 自分を取り囲むのは人間の男。

 ただでさえ、人間なんて見たこともないのに、一度にたくさん、しかもこんなにも至近距離にいる。

 その事実に軽いパニックに陥り、荷台から身を乗り出す。

 ともかく逃げて、村に戻らなければという思いだけが支配していた。

 半身体を外に出したところで、後ろから腕を掴まれ引き戻される。


「は、離してっ。帰る! みんなのところに帰るっ」

「あなたには、もう帰る場所はないですよ」


 暴れていたラウラは、淡々としたその声に動きを止める。


“帰る場所はない”


 耳に届いた残酷なその言葉の意味を図りかね、それを口にした相手を振り返る。


「あ……」


 背の高い冷たいダークブルーの瞳の男。

 黒みがかったブラウンの髪に、耳には金色のピアス。

 細身に纏うのはやはり軍服で、けれど繊細な容姿のその男は、粗野な雰囲気がなく、どこか周りとは違う雰囲気を醸しだしている。


「覚えていませんか? あなたは、大時計に隠れていて盗賊の襲撃を免れた。私たちがあなたを保護しました」

「!」


 悪夢としか言えない昨晩の事態を思い出す。


「私たちはイセン国の警ら隊です。盗賊は根絶やしにしましたが、あそこに気を失ったあなたを置き去りにはできませんので、連れてきました」


 言葉なく茫然とするラウラに、男は淡々と簡潔に事実を告げる。


「嘘……。だって、昨日までは何もなくて……」

「何もなかったわけではないでしょう。あそこは人里離れた砂漠の村。ああも大規模な襲撃を企てたということは、事前にあの村の場所を知っていた可能性があります。何か、前触れがあったのでは?」

「そんなの……!」


 知らない、そう言いかけて思い出す。

 

『僕、人間を見たんだよっ。しかも言葉も交わした! すごいだろっ。いいだろー』


 ラウルが出会った道に迷ったという人間。本来であれば、人が立ち入ることのないその区域。

 なぜ、そんなところに人がいたのか。

 もし、耳長族の村を探していたとしたら? 


「道に迷った人を……た、助けて送り届けたって……」

「ふむ。その時、付けられた可能性がありますね。まぁ、今となっては、真実は分かりませんが」


 投げつけられた言葉はあまりにも絶望的なもの。

 人間にかけた情けが、こんなにも大きな悲劇につながるなど、想像もしていなかった。


(ひどい……どうして?)


 人間を助けたのだと、嬉しそうに話していたラウルの姿を思い出し、初めて恐怖よりも怒りが勝る。


「しかし、あそこはひどい有様だったな」

「何もあんなに殺すことはねぇのによ」

「高く売れそうな若い奴らの居場所を聞き出そうとして、無差別に殺したらしいな」


 荷台の上で交わされる人間たちの会話が耳に届く。

 その声量は密やかで、普通の人であれば、その会話が聞こえることはない。

 だが、ラウラは耳長族。

 小さなその声もラウラの耳は鮮明に拾い上げてしまう。

 怒りと悲しみが入り混じり、震えだす体を強く握り絞める。


「耳長族の子供一匹捕まえれば、三年は遊んで暮らせるらしーぜ」

「マジかよ!? じゃあ、あの子はすごいお宝ってことか」

「!!」


 自分に向けられているだろう視線が恐ろしくて、顔を上げることが出来ない。


「顔色が悪いですね」

「ひっ」


 先ほど自分を引き留めた男が、変わることのない無表情で自分を覗き込んでくる。

 手を伸ばせば届くその距離にひきつった声が漏れる。


「別に何もしません」


 ラウラの怯えを感じとり男は数歩後ろへと下る。


(人間なんて大嫌いだ)


 大切な人たちを奪った種族。

 小刻みに震える体を抱きしめて、唇を噛みしめる。


「!?」


 男は無言で体に巻きつけていたマントを外し、距離を保ったまま、器用にそのマントをラウラへとかける。


「ないよりはマシでしょうから」

「……」


 寒いから震えているわけじゃない。

 そう言いかけたものの、不思議とそのマントが掛けられ震えは止まった。


(優しい……匂い)


 男の瞳には情と呼べる何かを見出すことは出来ない。

 その行為は打算なのか憐みなのか。

 だが、そのマントに残るぬくもりは確かに優しく温かくラウラは混乱する。


「私はユーゴ・アリオストです。あなたの名前も一応、うかがってもよろしいですか?」

「……ラウラ・リュリュ……」


 ラウラの言葉に小さく頷き、ユーゴは事務的に言葉を紡ぐ。


「何かあれば声をかけてください。ラウラ」


 それが、ラウラとユーゴの出会いであり、ラウラが初めて会話した“人間”だった。


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