開かれた扉
裏庭にある粗末な小屋。
乱雑に置かれた荷物の中にある、古ぼけた大きな時計。
小さな頃の隠れ場所の定番。あの頃よりも大きくなったけれど、小柄なラウラは、今でもそこに入ることが出来る。
「みんなは本当に大丈夫?」
「うん。大丈夫。悪い奴が来たら戦うさ」
「そんな……」
耳長族は争いを好まない。
だから戦いかたなんて知らないし、戦うすべもない。
「もしだよ! もしも来たらの話」
「……でも……うっ。ひっく」
言いたいことはたくさんあるはずなのに、涙が溢れだした言葉にならない。
「そんなに泣くなよ。ここを開けるまでさ、目を閉じて耳を塞いでればいい。すぐに嫌な時間は終わるから」
あぁ、また。泣くように笑うその顔は、まるで別れの合図みたいで不安になる。
「ラウル」
「またな。僕の可愛い妹」
ニッと笑うその顔は、あどけなく幼くて。
ラウラはいつも兄というよりは弟みたいだと思う。
きっと、ラウルが聞いたら怒るだろうけど。
大きな時計の中で、ラウラは耳を塞ぎ目を閉じた。
………………
…………
……
永遠のように長い時間。
ガチャリ。
時計の扉は開かれる。
光がまぶしくて目が眩む。
「あぁ。なるほど。コレの為に……か」
どこか考え深げに呟かれた声は聞いたこともないもの。
光を背に見える高いその影はラウルとは似ても似つかない。
そもそも、頭の上にあるはずの長く黒い耳がない。
「にん……げん……」
ラウルの約束は守られなかった。
そして扉を開けたのは人間。
その二つは理解したと同時にラウラは意識を手放した。