物語の終わり
「終わりなのです……え!? あ、あのあの……」
話を終え、リルディを見たラウラはオロオロと狼狽える。
「ひっく……」
すっかり話すことに夢中になっていて気づかなかったが、リルディは盛大に泣いていた。
話を終わった今もボロボロと涙がこぼれている。
「わ、私、そんなことがあったなんて全然知らなくて。つらい話をさせてしまってごめんなさいっ」
「いいえ。大丈夫なのです。ラウルたちがいないのはとても悲しいのですが、今はユーゴ様も姫様も、ネリーたちも一緒で寂しくないのです」
ラウルたちがいなくなり、たった独りきりだと思っていたあの時から考えれば、今は信じられないくらいに幸せだ。
「ユーゴ様は、独りになった私のために、他の耳長族の集落を捜していてくれたのです」
激務である自分の仕事と並行して、ラウラの居場所を探す為に寝る間も惜しんで尽力をつくしていた……と知ったのはずっと後になってからだ。
「でも、今もイセン国にいるっていうことは、見つからなかったの?」
警戒心の強い耳長族は、居場所を悟られないようにひっそりと暮らしている。
それを探しだすのは、相当に骨が折れることだろう。
「いいえ。見つけ出してくださいました。けれど、ラウラは此処に残ることを決めたのです」
その時のユーゴの様子を思い出し、思わず苦笑してしまう。
『あなたは、自分が何を言っているのか本当に分かっていますか? 正気の沙汰とは思えません』
そう言い放ち、それこそありとあらゆる言葉で、ラウラを説得しようとしていた。
けれど、ラウラはそれをついに受け入れることはなかった。
後にも先にも、ユーゴの言葉をまったく聞かなかったのは、あの時だけだ。
「でも、どうして?」
「あの事件の後から、ラウラはユーゴ様のお屋敷で働くようになったのです。失敗ばかりで、きっとあまりお役には立てていなかったと思うのですが」
けれど、もともと面倒をみてくれていたメイドを始め、屋敷の住人は根気強く指導してくれた。
一括りにしていた”人間”には、色々な人がいるのだと分かった。
決して、忌み嫌う存在ばかりではないのだと。
「ラウラはユーゴ様に恩返しがしたいのです。大それた願いではあるのですが、少しでもユーゴ様のお側にいたい」
ユーゴはラウラを救ってくれた。
それは保護してくれたからというだけではない。
悲しみに囚われ、大切なことを見失っていた心も。
もし、ユーゴの言葉がなければ、今自分はここにはいないだろう。
最悪、命を絶っていたかもしれない。
一生かかっても返しきれないかもしれない大恩だ。
それを返し終わるまで側を離れない。
そうラウラは決めていた。
「ラウラ!」
リルディは思い切りラウラを抱きしめる。
「はぅ。姫様?」
「私はラウラに出会えてよかった。ラウラのこと大好きだよ」
「……はい! ラウラも姫様が大好きなのです」
ユーゴの側にいて得られたかけがえのない大切な人たち。
種族も生まれも関係なくいられるこの場所を、心底愛おしと思うのだ。