物語の始まりは
「どうぞ。姫様」
「う~。慣れないな。ラウラには今までどおり“リルディ”って呼んでほしいのに」
麗らかな昼下がりティータイムの時間。
お茶を差し出す愛らしい耳長族の少女に、不満げに口を尖らせて抗議する。
「それはダメなのです。ユーゴ様のお言いつけですから」
「こういう時間だけでもいいと思うのよ? 私にとってラウラは友達なんだから」
小国エルンの姫君であるリルディ。
けれど、訳あってメイドとして働いていたことがある。
ラウラはその時の同僚で、今はリルディ付きの女官の一人でもある。
「ありがとうございます。すごく嬉しい……です。だけど、“けじめ”は必要だとユーゴ様が……」
嬉しそうに柔らかなほほ笑みを浮かべながら、生真面目にそう口にする。
「何だか妬けるわ」
前からユーゴに憧れている節があったラウラ。
けれど実は、昔からユーゴに庇護されている存在であり、メイド時代はユーゴの命で、リルディの側にいたのだという。
後から知り合ったのは自分なのだが、ラウラを取られたような気がして面白くない。
「姫様?」
頬を膨らませる様子を見て、ラウラは不思議そうに小首を傾げる。
「ね! ラウラとユーゴさんって、どうやって知り合ったの?」
“氷の君”とあだ名されるほどクールな男と、警戒心が強い耳長族の少女。
あまりにもミスマッチな二人。
聞けば、ユーゴの主であるイセン王ことカイルも、詳しい経緯を知らないと言う。
そのため、その関係性は未だに謎なのだ。
好奇心いっぱいの瞳をラウラへと向ける。
「……姫様にならお話してもいいかな」
ボソッと誰かに……多分ここにはいないユーゴに許可を求めるように呟かれる。
「話してくれるの?」
「長い話です。その、あまり楽しくない話なのですが良いですか?」
「うん! 聞かせて」
身を乗り出して瞳を輝かせる。
「はい。……ラウラが生まれたのは、耳長族の小さな集落でした」
少女は静かに語り始める。
たくさんの優しさと、そして大きな悲しみが詰まった物語を。