はじめてのろりこん
「お兄さんは私が処女で安心しましたか?」
「あ、ああ。思った通りだ。いや、それ以上だ。色々な意味でな……」
「それは良かったです♪」
(……処女でも少女でもどっちでもいいんだよ! 当たり前だろうが!!)
このままでは本当に捕まる。早く話題を切り替えねばならない。速やかに久遠は本来の段取りである自己紹介に入った。
「な、なあ、璃梨。お兄さん、じゃ呼び辛いだろ。自己紹介していいか?」
「は、はい。ぜひ!」
璃梨は喜んでこの話題に乗ってきた。最初に自己紹介など当たり前だが、この小娘が当たり前の行動をしてくれるだけで随分と気が楽になる。
久遠は財布から学生証を取り出した。久遠の本名、露里久遠と書いてある。
「ほら、これが俺の高校学生証だ。読み方は」
「ロシアの『ロ』、千里の道も一歩からの『リ』、ですね」
「へえ、よく読めるな」
小学二年生でロシアの露が読めるのは意外だ。奇想天外な行動をする割に、頭は良いのかもしれない。
「名前は『クオン』ですね。遙か遠い悠久の彼方。素敵な名前です!」
「大したもんだな。だから、俺の名前は」
「ロリ・クオンさんですね。よろしくお願いします。ロリコンさんッ!」
「違うッ! ツユサトだ、ツ・ユ・サ・ト! ロリコンじゃねえッ!」
久遠の大きな声が喫茶店内に響き渡った。
「いいか、これだけは最初に言っておく! 俺の名前はツユサト・クオン。ロリコンじゃねえッ!! 断じてロリコンじゃねえッ!!」
「ゴ、ゴメンなさい。私、てっきり久遠さんはロリコンさんだと思って……」
「い、いや、怒鳴って悪かったな」
(……っていうか、コイツ。話が通じてねえ!!)
耳を良く傾けると、確かにロリ・クオンと発音しているようだが、話の中ではロリコンとしか聞こえない。璃梨は自分が何言っているのか分かっていないのだ。
「でも、外国の人っぽくて愛称ならいいと思うんです。ロリコンさんって呼んでいいですか?」
「ダメだ」
「では、名前と名字を逆にして、コン・ロリさん! 略してコロリ」
「すぐ死にそうな名前だな」
「じゃじゃまる! ぴっころ! こ~ろり~」
「それは『にこにこぷん』だろ! やめろやめろ!! 俺の名前はクオン! 他には無い!」
「なら、ロリ……」
「そのロリから離れろ! 俺はロリコンじゃない。ツユサト……」
「あ、あの、お客様……」
「えっ?」
気がつくと、すぐ隣に店員が来ていた。
「申し訳ございませんが、周囲のお客様がご迷惑しておられますので……」
「あ、す、すいません。し、静かにしますので……」
「あと、こちらのお嬢様とお客様はどのようなご関係でしょうか?」
「えっ!?」
処女発言とロリコン発言で要注意客判定されたようだ。店員はあからさまに疑惑の視線を久遠に向けている。
(……ど、どうする!? 何て答える!? 俺!?)
ここで正直に『見合い中』などとは答えるのは常識的にありえない。だが、嘘で誤魔化すにしても、何と答えれば納得するか?
(……と、友達の妹!? これしか無えッ!)
「コ、コイツは友達の……」
「友達じゃありませんッ! 私たちは今日が初対面ですッ!」
「え?」
久遠が応対しているのを遮って璃梨が割り込んできた。
「璃梨、説明します!! 私がさっき、一人でそこの花屋の前にいたら、久遠さんが『迷子か?』と話しかけてくれたのです! それから喫茶店に行こうって話になって、二人でここに来ました!」
「お、おい……!?」
「最初は私、久遠さんのことをロリコンさんだと思ったのですけど、久遠さんはロリコンさんじゃないそうです! じゃあ、ここで何しているのかって? もちろん、婚活ですよ、コ・ン・カ・ツ! 久遠さんは結婚相手を探しているのです! それで今、久遠さんは私とお見合いをしているのです! 私は処女ですッ! 私、凜咲璃梨は久遠さんと結婚します! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚! 結婚!」
「こ、こら。や、やめ……!?」
「あっ、結婚すれば、私は露里璃梨ですね。ロリリリって呼んで下さい」
「やめろ」