はじめてのかくにん
ヒロイン登場で、いよいよ本番です。
「さあ、お見合いしましょう! 結婚しましょう!! さあ、さあ、さあッ!」
「お、おい、ちょっと待てよ……おいおい……」
(……え、こ、これ、マジか!?)
見合い相手と名乗る少女、凜咲 璃梨は、久遠の手を強く引いてどこかに連れて行こうとする。しかし、いくらなんでもこのまま見合い開始はあり得ないだろう。
「ちょっと待て!」
「あひゃわわわわっ!?」
ちょっと軽く力を入れて引っ張り返してみたところ、璃梨は体格相応に非力で軽く、簡単に引っ張り戻せた。
「おい、違うだろ!」
「えっ?」
璃梨は一瞬、クルッと首をかしげて意味が分からない様子だったが、すぐに合点がいったように笑みを浮かべて、
「そ、そうですよね。こういう時は、女の子は男の人にエスコートして貰うものですよね。分かりました! 璃梨、連れ去られますッ!!」
「違う!」
「きゃあッ!?」
久遠が一喝すると、璃梨は怯えた子猫のように頭を押さえて蹲ってしまった。
(……ちっ、俺は別にそんな短気ってわけでも無いが、顔が不良だからそう見えるんだ。ああ、面倒くせえ!)
今度は恐がらせないよう、久遠は膝をついて璃梨と目線を合わせ、落ち着いて話しかけた。
「な、なあ、璃梨ちゃん。もう一回確認させて欲しいんだけど、俺の見合い相手のはずだったお姉ちゃんは、来ないのか?」
「は、はい。どうしても嫌だって言うので……」
「そ、そうか……」
ガクッと膝が折れるように力が抜けた。まさか、合う前から断られるとは! 自分という存在全部を否定されたような気がして非常にショックであったが、まあ、無謀な見合いをしないで済んで、むしろ良かったかも知れない。
「お姉ちゃんが来ないなら、見合いは無しだな。璃梨ちゃんは、真っ直ぐ家に帰ってお姉ちゃんに伝えてくれ。俺は別に怒ってなかった。良い旦那さんを見つけて下さい、と言っていたってな」
久遠は大人の対応を見せた。不良顔や普段の悪い口振りを考えれば、この紳士的な対応は意外である。一方、璃梨は本当に子供だ。
「そ、そんな! そんなの申し訳無いです。せっかく来て下さったのに。わ、私ではお姉ちゃんの代わりになりませんか!?」
(……なるわけないだろう!)
と一喝したかったが、久遠はやはり大人だった。
「なあ、璃梨ちゃん。俺と璃梨ちゃんは初対面だよな?」
「はい!」
「お父さんか、お母さんに教えて貰わなかったか? 知らない人に付いて行っちゃいけないって。俺が悪い人だったらどうするんだ? ……? おい、璃梨ちゃん?」
「…………」
急にボーッと上の空になって、話を聞いていない!
「璃梨ちゃん!」
「え、ああ、は、はい。言ってました。璃梨はちゃんと躾されているのです。変質者に誘拐されてはいけないのです!! でも、お見合いはOKなのです!」
「何故だ?」
「出会い系サイトと婚活の違いは、事前に業者が婚活する人の素性を調査していることなのです! 出会い系サイトには誰が来るか分かりません。でも、婚活でお見合いする相手はちゃんと審査が通った大丈夫な人だけなのです!!」
(……え、そ、そうなのか!?)
そんなこと考えてなかったが、確かに筋が通っている。婚活業者というのは入会時に書類審査があって、その時に身分証明や職業証明を要求される。久遠の場合は学生証のコピーを提出している。そして、万が一にトラブルが発生しても業者が仲介に入ってくれる。出会い系サイトと婚活業者の違いは、セーフティーの違いなのである。だから、婚活なら身の安全が保証されるというのは理に叶っている。
(……って、実際に今、ここに書類と違う得体の知れないガキが来てるじゃねえか!)
と反論しようと思ったが、璃梨に先手を取られた。
「それとも、お兄さんは変質者なのですか?」
「え、ち、違うけど……」
「大丈夫です! ここはホテルの中です!! いざとなったら、璃梨、人を呼びます!! せーのっ、変態ッ! 痴漢ッ! 少女誘拐ッ! 拉致監禁ッ! 下着泥棒ッ! 鬼畜ッ! 住所不定無職ッ! 性的錯綜ッ! 身代金ッ! 強姦魔ッ!」
「こ、こら! や、やめっ!?」