はじめてのであい
集合時間の三分前。久遠は集合場所であるホテルの花屋の前に着いた。花屋のショーウインドウには夏らしい明るく生き生きとした花が飾られている。ここは結婚相談所のエージェントより指定された場所だが、これから新しい出会いをするかもしれない男女の出会いの場所としては適した場所であると思う。やはり婚活のプロということか、段取りが非常に優れていた。
(……ま、まだ来てないみたいだな)
見合い相手であるA・Rという女子高生は写真でしか見ていないので、実物と出会ってもすぐに当人と分かるかどうかは、ちょっと自身が無かった。だが、周囲を見渡してもそこにいるのは子供一人のみ。女子高生に相当する年齢の者はいない。どうやらA・Rはまだ来ていないようだ。
(……まぁ、時間まであと三分あるし、そのうち来るだろ。こんな緊張した気分で待たなきゃならんのか。誰かいっそ俺を殺してくれ……。まぁ、それはそれとして、だ。このガキは何だ?)
見合い前ともなれば、誰だって落ち着かないものだ。ソワソワと落ち着かない久遠の目に入ったのは、待ち合わせ場所の正にそこにいる、小学校低学年と思われる少女だ。キョロキョロキョロキョロ、あっちを見たり、こっちを見たり、久遠と同じようにソワソワと落ち着きが無い。明らかに誰かを探している。
(……何でこんな所に女子小学生が? 親はどこにいるんだ? 迷子? いやぁ、それにしても可愛い娘だな。こんな可愛い娘、見たこと無いぜ)
目の前にいる少女は、これはまたテレビに出ている子役と比較しても遜色無い位に素晴らしく可愛いかった。目は大きくパッチリしていて、ほっぺたもプニプニしていて突っつきたくなる。身長体格は年齢相応で特記事項は無い。髪型は三つ編みツインテールで、髪の先は赤いリボンで結んである。フリルの付いた白いワンピースに薄手の淡いピンクのカーディガンを羽織っており、胸元の赤いリボンがアクセントになって映える。子供っぽさを残しつつも、全体的大人びた印象の服装だ。これなら今すぐにでも結婚式にでも出られるという位に綺麗に調えられた服装である。
(……そうか、このホテルは結婚式もあるからな。親と一緒に結婚式に来て、そのまま迷子になった。そんな感じか。仕方無ぇな)
外で一人ぼっちになるのは初めてなのか、ソワソワとどうにも落ち着きが無い。子供として見てもかなり天然な方に入りそうな雰囲気の少女だ。実に危なっかしい。迷子になったのなら速やかにホテルマンに預けた方がいい。そう思い、久遠はこの少女に声を掛けた。
「おい、お嬢ちゃん、迷子なのか?」
「あっ……」
話しかけた少女は、何か呆気に取られたようにポカーンと口を開けて、久遠をまじまじと見つめてきた。そして。
「おっ、お見合いにいらっしゃった方ですよね?」
「えッ!?」
(……な、何で知ってんだ?)
「あ、あの、このお見合い、本当はお姉ちゃんが来るはずだったのですけど、お姉ちゃん、どうしてもお見合いなんて嫌だって言うんです……。でも、それだと相手の人に申し訳無いと思って。だ、だから、今日は妹の私が来ました! 凜咲 璃梨、八歳です! ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
璃梨はペコリと行儀良くお辞儀をした。
(……ア、アホ、かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!!!!!)
ここまでで第一章「とうろく編」はおしまいです。
次回からは第二章「おみあい編」が始まります。八歳女子小学生、凜咲 璃梨と、十七歳男子高校生、露里久遠のお見合い開始。
本来見合いに出るはずだった姉も乱入します。
ある程度書いてからUPするので、更新は少し先になると思います。
乞うご期待!!