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はじめてのこんかつ  作者: 大橋 由希也
とうろくへん
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はじめてのまちあわせ

(……本当に来ちまったぜ……)

 もうすぐ夏休みに突入しようとしている七月の土曜日、午後十四時前。久遠は都内のホテルの前に立ち、頭上を見上げた。ホテル・ロイヤルプリンス。ここは都内でも有数の高級ホテルで、スイートルームにでも泊まれば一晩で何十万するかも分からない。庶民である久遠には全く馴染みの無い場所だ。

 結婚相談所に登録した事で見合いをすることになった久遠。見合いの集合場所として指定されたのは、このホテル一階の花屋の前だ。

(……しかし、暑いな)

 季節は夏真っ盛りだ。今日は土曜日なので高校も休みだが、久遠は制服を着ている。それも長袖ブレザー、長ズボン。ネクタイも締めている。見合いをする時、男はスーツを着るのが鉄則だ。だが久遠はスーツを持っていないので制服を着て来ている。高校では緩めて締めているネクタイも今日だけはキッチリ締めた。

(……くそっ、暑苦しい。特にネクタイが苦しい! でも、服装を整えるのは段取りの最初だからな。仕方無いか。さっさと中に入ろう)

 ホテルの中は空調が効いているはずだ。そう思って中に入ると、期待通りに涼やかな冷風が久遠の体を冷やしてくれる。急速に汗が引いていくのが肌で感じられた。

(……さて、次の段取りは、最終チェックだな。トイレトイレ……と)

 ホテルに入った久遠は、最初にお手洗いを探した。用を足すのが目的ではなく、鏡を求めてのことだ。額に汗が浮かんでいないか、見えない所で服装が乱れていないか、髪型が乱れていないか、そういうことをチェックするのである。

 お手洗いは分かりやすい所にあったのですぐに見つかった。中に入って鏡の前に立つ。額と首元に少し汗が乾いていない所があったので、ハンカチで拭き取る。ネクタイも普段の癖で知らないうちに緩めてしまったのか、少し崩れていたので改めて締め直した。これで段取りは全て整った。最後に、総括として自分の他者から見た印象を考えてみよう。

(……不良だな!)

 改めて自分の顔をマジマジと見ると、やっぱり自分は不良面だなぁ、と思う。生まれつきなんだから仕方が無いが、久遠は普通の人よりも犬歯が大きく鋭いのだ。口を開く度にチラリチラリと犬歯が覗く。そして目つきも悪い。いつも誰かを睨み付けているような眼光をしている。そして、トレードマークである肩に掛かる程長いウェーブを効かせた黒髪が全体的に『黒』を目立たせるイメージに仕立て上げる。この三つが合わさった結果は、正に狂犬そのもの。危険、凶悪、不良的印象を相手に与えてしまうのである。

(……これはどうしようも無ぇな。髪型は変えたくないし。で、でも、今回の見合い相手って絶対お嬢様だよな。お嬢様と不良って一番ダメな組み合わせじゃねえか。い、今からでも髪型くらいは変えた方がいいか? い、いや、ダメだ。もう時間が無い)

 腕時計を確認すると、すでに約束の時間の五分前だ。

(……このまま行くか。くそ、帰りたくなってきた。よくよく考えたら、碌に女と喋ったことも無いのに、見合いなんて出来るわけねえ! しかも相手は超可愛いお嬢様。俺と見合いじゃあ、全然釣り合いが取れてねえし。寒~い雰囲気になって俺の人生に黒歴史が一枚作られるだけだろ。欝だ……)

 しかし、数分前になってドタキャンするわけにもいかないだろう。ここまで来てしまったのであれば仕方が無い。

 待ち合わせ場所である花屋は、お手洗いを出て一、二分程の所にある。最後に髪型をチラリと確認した後、久遠は少し肩を落としつつ、約束の場所へ向かった。

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