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はじめてのこんかつ  作者: 大橋 由希也
だんどりへん
37/39

はじめてのちゃくすい

 時を遡ること五秒前。

「久遠さん。短い間でしたが、大変ありがとうございました。久遠さんは……将来ちゃんと良いお嫁さんを見つけて、幸せな結婚して下さいね」

「や、やめろって! 璃梨ッ!!」

(……いや、ダメだ。コイツは自ら手を振り切って一人墜落を選ぶ。もう墜落は避けられねえッ! だが、閃いたぜ。墜落しても、死ななきゃいいんだ! 骨の二、三本は覚悟の上だ!)

 追い詰められた久遠の勘が冴え渡る。何故、璃梨と愛梨を固定していた安全バーだけが外れ、久遠の安全バーは外れていないのか? 単なる偶然の故障? それも十分あり得るが、もう一つの可能性として負荷も考えられるだろう。つまり、痩身である久遠の体重より、女と言えども璃梨と愛梨の二人を合計した体重の方が重いのだ。一○○キロを超える巨漢がジェットコースターから転落したというニュースを見たこともある。璃梨と愛梨の安全バーだけ外れたのは、単純に重さ。負荷が原因ではないか?

(……俺の勘が当たってれば、この安全バーは老朽化している! だからちょっとのトラブルで壊れたんだ。だったら! ぬうううあああああッッッッッ!!!!)

 バキバキッ……ガパッッッッッ!!

(……正解だ!)

 久遠の直感の大的中だ。両足に全力で力を込めて立ち上がろうとしたら、あっけなく久遠を拘束していた安全バーが壊れて外れた。空中で逆さ吊りになっていた久遠が真っ逆さまに転落する。その直後。

「それでは、さよならです。お姉ちゃん。……久遠さんッ!」

 愛梨と繋がっていた左腕を振り切り、璃梨も同じく転落する!

「おらっ!」

「く、久遠さ……ッ!?」

 璃梨が信じられないとばかりに驚愕する。それもそうだ。安全バーで固定され、文字通り安全を確保していたはずの久遠が落下してきたのだ。空中で久遠に引っ張られて、力強く胸に抱きしめられる。久遠は全身で璃梨を包み込んだ。そして体を捻って、璃梨を上に、久遠が下となって背中から落下していく。身を呈して璃梨を守るガードの体勢だ!

(……これで璃梨は死にはしない。だが!)

 なるほど、確かにこの体勢なら墜落してもダメージの大半は久遠が引き受けることになる。璃梨も怪我はするかもしれないが、致命傷は避けられる見込みだ。しかしこれでは久遠が墜落死を免れない。璃梨には、両親が犠牲になって自分だけ助かったという過去があり、それが心の傷になっている。これで更に久遠が犠牲になって璃梨だけ助かるという結果になったら、果たして璃梨の気持ちはどうなってしまうだろうか?

(……そんなミスはしないぜ! 俺の信条に従って行動すれば、そんなミスはありえねえッ! この俺の信条。この世で一番肝心なこと。それは……それは……それは……)

 この土壇場で久遠が閃いた起死回生の道とは!

(……段取りを踏むことだッ!!)

 ドガシャァッッッッッ!!!!!!!!!!

「ぐはっ!?」

「きゃあっ!?」

 久遠と璃梨、二人分の質量の落下がジェットコースターを揺るがす!

 久遠は転落の瞬間、コースターを蹴って斜めに飛び出していたのだ。久遠と璃梨の落下地点は360度一回転のループであった。もちろん、本当にレールが輪投げの輪のように真円であったら前後のコースと接続出来ない為、実際は捻りの入った円を描いている。つまり、一直線に地上まで転落するのではなく、斜めに落下して途中ですぐ下のレールにぶつかる。段取りを踏んで落下することでダメージの分散を計ったのだ。

(……ぐっ。でも、これ、やっぱりダメージが……ッ!?)

 背中に大きな衝撃を受けた久遠は、思わず息を止めて硬直する。本当の事を言えば、多段式で落下するよりも、ここでレールを掴んで停止することが理想であった。しかしやはり、一気に地上に落ちるよりはマシとは言え、鋼鉄製のフレームへの直撃はダメージが大きく、体が動かない。弾き飛ばされて落下が継続する。しかも弾き飛ばされた衝撃で体が回転し、璃梨が久遠の下に入ってしまった。

(……ヤ、ヤバい!?)

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッ!?!?!?!?」

 ドガシャァッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!

 ジェットコースターが複雑に立体的な構造であることも計算に入っていた。再転落の先にも再びレールがあったのだ。獣のような咆吼を上げて、寸前の所で何とか久遠は体を捻り、横向きに璃梨を庇う体勢で更に下のレールに直撃する。

「ガッハッッッッ!?」

 直撃した瞬間、バキボキと骨が折れたような音がした気もするが、今は落下の真っ最中だ。痛みを気にしている場合ではない。すでに重傷を負って体が動かない久遠は、このタイミングでもレールを掴むことが出来ず、再度弾き飛ばされて落下していく。

「うぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッ!?!?!?!?」

 ドッバァァァァァァァンッッッッッッ!!!!!!!!!!

 そして最後、断末魔の咆吼を上げて久遠と璃梨は頭から地面に着水した。このジェットコースターの名前はスプラッシュコースター。一番下は池なのだ。

(……い、生きてる!?)

 ブクブクと地面に沈んでいく久遠だったが、朦朧としつつも意識はまだ残っていた。自分の胸には璃梨の小さな体の感触がある。最後の力を振り絞って、久遠は両腕から璃梨を解放した。

(……よ、よし、行け、璃梨。俺はもう限界だ。泳ぐ力は残ってない。お前は浮き上がって助けを呼んで来い。行け!)

 しかし、胸の中の璃梨に動く気配は無かった。

(……え、ま、まさか、気絶!? ちょ、おいおい。何やって……。お、俺はもう、意識が………………………………………………)

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