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はじめてのこんかつ  作者: 大橋 由希也
だんどりへん
34/39

はじめてのじぇっとこーすたー

「全く。つまり、お姉ちゃんは最初から居たってことですか?」

「そ、そうなの……」

「やっぱ小学生を俺一人で連れ回すのはマズいからな。姉にも来て貰ったんだけど、何故かコイツ隠れちまって」

「璃梨のデートの邪魔しちゃいけないと思ったからよッ!」

「全くもう」

 散々なオチであったが、何とか久遠が仲裁に入って場を整え直した。

「まあ、別に良いのです。私と久遠さんは運命の赤い糸で結ばれているのです。お姉ちゃんがどれだけ久遠さんを誘惑しようと、私達の糸は切れないのです」

「だ、だから、私はそんなんじゃ無いったら!」

 愛梨は必死になって否定するが、その顔は赤いままだった。

「ま、まあ、これでようやく三人揃ったことだし、な、何か乗るか?」

「そ、そうね……」

「ただ、時間ももう夕方だし、これが最後だな。観覧車か?」

「いえ。観覧車は混んでいるのです」

 久遠は最後に乗ろうとしていた観覧車を提案した。三人で乗れて、最後に話して終われる観覧車が良いかと思ったのだが、それは璃梨が却下した。

「ズバリ、ジェットコースターですッ!」

「えっ?」

 ジェットコースターと聞いて愛梨の顔色が青くなった。

「ん? な、何だお前? ジェットコースター苦手なのか?」

「そ、そんなこと無いわ!」

「前にお母さんから聞いたことがあるのです。お姉ちゃんは昔、ジェットコースターに乗って怖くておしっこ……」

「やめやめやめやめやめやめやめやめ! の、乗ればいいんでしょ、乗れば!」

「ふふふふ。罰ゲームなのです」

 どうやら愛梨がジェットコースターが苦手なのは本当らしい。

(……コイツ、本当に色々とヘタレだなぁ)

 久遠にしてみれば、実に愛梨らしいと思った。

「なら、最後はジェットコースターにすっか。行くぜ!」


 三人がジェットコースターに来ると、ちょうどタイミング良く行列も短い。これなら数分で乗ることが出来そうだ。

「ちょっと待てよ。璃梨、お前、身長制限に引っかかるんじゃないか?」

「大丈夫なはずです。ジャジャン!」

 ジェットコースターの入り口に備え付けてある身長計で測ってみると、なるほど。確かに制限値よりも僅かに高い。身長制限クリアだ。

「あ、あら? 意外と背伸びてたのね?」

「璃梨だって成長しているのです!」


 そして、列が進んで三人が乗る順番になる。

 ここのジェットコースターは、名前をスプラッシュコースターと言って、丸太を切り出したようなデザインの船に四人が乗り込んで順次発射するシステムだ。上下逆さに一回転するような場所もある立体的なコースだか、スプラッシュの名の通り、コースの最下段では池を切り裂くように走行する。当然、激しく水飛沫が上がるので降りてくる時には全身ビショ濡れになっているという、夏でなければ乗ってられないアトラクションだ。

「さあ、お姉ちゃんは私と一緒に前に乗るです。前の方が怖いですよ」

「ひ、ひぃぃぃぃぃ……」

 前部座席に璃梨と愛梨、後部座席は久遠一人で乗り込み、船が出発した。


 ガタンゴトンガタンゴトン……。


 ジェットコースターというのは、総じて最初はゆっくり進み、一番上にまで登ってから急降下する。このスプラッシュコースターも例外ではない。

「ようやく乗れたのです♪」

「何だ、最初から乗りたかったのか?」

「はい♪」

 すでに愛梨は震えて声も出ない状態だが、逆に璃梨は楽しそうだ。どこまでも根性が座っている娘である。

「……そう……、ようやく乗れました……」

(……???)

 だが、楽しそうに話していたのも束の間。すぐに声のトーンが下がった。璃梨はふーっと一息つくと、空を見上げる。

(……やっぱり怖くなったか?)

 璃梨とて所詮は小学二年生だ。威勢が良いのは最初だけで、すぐに怖くなってしまったのだろうと久遠は思った。しかし。

「長年の夢でしたから」

「長年?」

「はい。昔……、私が本当のお父さんとお母さんと来ていた頃は、身長が足りなくて乗れませんでしたから」

「えッ!?」

「り、璃梨ッ!?」

(……今、『本当の』お父さんお母さんって言ったか!?)

 久遠はもちろん、震えていた愛梨も顔色を変えて璃梨の方を見る。

「そんなに驚かないで下さい。全部、お姉ちゃんが久遠さんに話した通りなのですから」

(……さっきの話、全部聞いてたのかッ!?)

 余りに予期せぬタイミングで話を切り出されたので、久遠も愛梨も何と返事をして良いか分からなかった。

「り、璃梨……」

「お姉ちゃん、久遠さんに説明してくれてありがとうございました。私じゃあ……、ちゃんと言えませんでしたから。そして久遠さん。黙っていてごめんなさい」

「い、いや……」

 落ち着きつつ、少し困ったような笑みを浮かべて話す璃梨だったが、それを聞いている久遠と愛梨は気が気ではない。

「そうです。私はあの事件の……。世の中に沢山の不幸な人を出してしまった。でも自分だけはちゃっかり幸せに暮らしている……そういう娘です。私を憎んでいる人、恨んでいる人は、数え切れないくらい沢山いる。そこから逃げるには……結婚すれば、名字が変わる。それが、私が結婚したい理由です」

 璃梨は淡々と、己の過去と冷たく暗い本心について打ち明けていく。

「璃梨。確かにお前の親父はマズったのかもしれないけど、でもそれは娘のお前が背負うことじゃ無いぜ?」

「ありがとうございます、久遠さん。でも久遠さん。気付いてました? さっき、私たちの前に居た、私と同じ名前の女の子」

「あ、ああ。居たな。家族仲良さそうだった」

「目が見えてませんでした」


 ―――――――――――。




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