はじめてのめりーごーらうんど
「よし、着いた……が……」
メリーゴーラウンドの前に着いた久遠と璃梨だったが、その入り口の前には長蛇の列が出来ていた。
「さ、三十分待ち!? こ、こんな炎天下で……」
「遊園地で三十分待ちは普通なのです。ここは小さな遊園地ですけど、混んでいる時は二時間待ちくらいになります。もっと大きい遊園地なら七時間待ちなんてこともあるのです」
「な、七時間!? 何でそんなに混むんだ!?」
「大きな遊園地で、注目の新規アトラクションがオープンした時、それがゴールデンウィークとか夏休みとかだと、七時間を達成出来るのです」
「い、いや、そうじゃなくて、何で七時間も待つヤツがいるんだって話だよ。朝に並び初めても、出てくる時は夕方だろ。一日終わっちまうじゃねえか!」
「好きな人と一緒に、楽しみにしていたアトラクションに乗る。それが女の子の夢なのです。私は久遠さんと一緒だったら七時間でも、徹夜でも並びます。一生並び続けます!」
璃梨は胸の前で手を組み、目をウルウルして祈りを捧げた。
(……そんなわけねえ! コイツが日中に七時間なんて並んだら熱中症で倒れるに決まってるぜ。徹夜も無理だ。途中で眠くなって、俺が抱っこして持って帰るのがオチだ!)
こういう風に浮かれて勢い余っているヤツが行列を長くしているんだな、と久遠は悟った。
「さあ、さっそく並びましょう! さあ、さあ!」
「あ、ああ……」
三十分くらいならいいか、と久遠は璃梨に手を引かれて並ぶ。二人が列の最後尾に着くと、一つ前には父、母、娘の三人連れの家族が並んでいた。
「パパ~。肩車して~」
「あらあら、もう疲れちゃったの? お父さん、頑張って!」
「し、仕方無いな。ほら!」
「わーい♪」
どこにでもいる、中の良さそうな家族連れである。
(……子供の面倒って、マジ肉体労働だよな。ベビーカーとか持ち上げて階段登ったりとか超大変……ん?)
「…………」
ふと璃梨の方を見ると、先ほどまでの異様なハイテンションが影を潜め、また顔色を青くして、我を忘れたように立ちつくしていた。
「お、おい、璃梨!?」
「え? あ、は、はい?」
「お前、だ、大丈夫か? き、今日は暑いからな。少し日陰で休むか?」
「い、いえ、だ、大丈夫です! 璃梨は負けません! た、ただ、ちょっとここは並んでいるので、もう少し空いている所に行きましょう」
そう言って、また璃梨に手を引かれて、二人はメリーゴーラウンドの列を離れた。メリーゴーラウンドはまた後で様子を見てから来ればいいだろう。しかし久遠が手を引く璃梨の様子を伺うに、やはりまだ顔色が悪い。視線が定まっておらず、頭もフラフラさせて、思考が遠い世界に旅立ってしまっているかのようだ。
(……だ、大丈夫なのか!? 子供って元気そうに見えて急にバターン! とかありそうだからな。無理矢理でも水を飲ませるとかした方が……お?)
判断に迷う久遠だったが、歩いていて偶然、都合の良い建物が見えてきた。赤、青、黄色と、四角い玩具のプラスチックを組み合わせたような色彩の、ブロック状の建物。ミニゲームコーナーだ。建物の中にミニゲームがいくつか入っているらしい。
(……室内アトラクション! ここなら中は冷房が効いているはず。トイレも自動販売機もあるだろう。ここが一番無難だな。よし!)
「おい、璃梨! ここ入ろうぜ、ここ!」
「ひゃわッ!?」
どんどん前に行ってしまう璃梨を引っ張り返して呼び止める。璃梨は体重が軽いので腕一本でも少し体が浮き上がってしまった。
「これ、中は何が入ってるんだ?」
「輪投げとか、玉入れとか、そういうミニゲームが入っています」
「よし! なら勝負だ。俺は手先は結構器用な方だからな。その手の軽いゲームは得意なんだ。俺に勝ったら何でも言うこと聞いてやるぜ」
「ほ、本当ですか!? な、なら、私が勝ったら即結婚しましょう! 約束です!」
「え、ちょ、そ、それは……」
「さあ、行きましょう!」
口を滑らせて迂闊な約束をしてしまったかな、と少し公開した久遠だったが、
(……ま、元気が戻ったみたいだし、これでいいか)
また璃梨に手を引かれて、二人は室内アトラクションの建物に入っていった。




