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はじめてのかみんぐあうと

「く……。ま、まだよ。まだ……」

 大喜びする久遠と、少し頬を赤くして膨らませる愛梨、二人の様子を見たキャリーが死力を振り絞って立ち上がってくる。

「こ、この勝負は三本勝負だったはず。ま、まだ一本残ってるわ。まだ……」

 しかし、立ち上がったとは言えキャリーはフラフラで、とても戦えるような状態に無いことは誰の目にも明らかだ。

「キ、キャリー先輩。もう勝ち目無いです。ここはもう、諦めた方が……」

「ダメよ! あなたたち、ここでこの変態に愛梨を取られてもいいのッ!?」

「そ、それなんですけど、何か話を聞いているうちに、この人って結構いい人なんじゃないかって気がしてきたっていうか」

「別に全然、何の心配も無さそうな……」

「ぐぐぐぐ……」

 すでに周囲の後輩達も戦意を失っており、キャリーにはもう為す術無しだ。しかしそれでもキャリーは諦めない。

 この様子を見て、やれやれとばかりに久遠が話しかける。

「なあ、あんた。そんなにこの姉が心配なのかよ?」

「そうよ! 私と愛梨は中学時代からの、一番の親友なの! あなたみたいな変態と関わってたら何があるか分かったもんじゃ無いわッ!」

「キ、キャリー。べ、別に私たちは付き合ってるとかそんなんじゃないから……」

 愛梨も再度なだめようとするが、興奮したキャリーには余り効果が無い。

(……やれやれ、全く、仕方無いな)

 このままでは埒が明かないので、仕方無く久遠も温存しておいた切り札を使うことにした。

「分かったよ。じゃあ、証拠見せてやるよ、証拠。これが三本目だぞ」

「えっ、証拠? そんなのあるの?」

 そして、久遠はゴソゴソとポケットの中を探る。

「本当はそんな見せるもんじゃないんだけどな。でも、このまま俺がバックレてお前らの友情に禍根が残ったら後味悪いし。ほら、見ろよ。これが証拠だ」

 久遠が取り出したのはスマホだった。

「コレが何なの?」

「証拠ってのはだな、俺にはもう彼女がいるから、今更他の誰かと新しく付き合ったりしないっていう」

「「「え、ええええええッッッッッッ!!!!!!」」」

 これには一同騒然だ!

「彼女いるのッ!?」

「彼女っていうか、何ていうか……。ほら、とにかくこのメール見ろよ」

 そして、久遠はスマホの画面にメールを一つ映し出した。

『久遠さん、おはようございます! ゆっくり眠れましたか? 私は夜中の間、ずっと久遠さんのことを考えていて全然眠れませんでした。初めて久遠さんと会う時は本当は心配もあったのですけど、少しお話したら久遠さんはとても優しい良い人だと思いました。久遠さんも私のこと好きって言って貰えて、私の今までの人生で一番嬉しいです! 私も、久遠さんのこと、大好きです♪』

 ……。

 …………。

 ………………。

「な、何これぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッッ!?!?!?!?!?」

 開いた口が塞がらないような、衝撃的なラブラブメールであった。

「ほ、ほら、もういいだろ。じゃあ、これで……」

「ち、ちょっと貸しなさいよ! ほ、他も見てみなきゃ!」

「あっ、お、おい……」

 すぐにスマホを仕舞おうとした久遠だったが、興奮したキャリーに奪い取られてしまった。すぐさまキャリーは前後の他のメールも確認していく。

「ち、ちょっと。こ、このメールって、もしかして……」

「後で説明するから黙ってろって!」

 愛梨は文面から送信者が誰か察したようだが、そこは久遠が制止した。その間にキャリーの後ろには後輩達が集合して、みんなでメールを閲覧していく。

『今日は、学校の帰り道に高校生のカップルが手を繫いでいるのを見ました。私もあんな風に久遠さんと手を繫いで歩いてみたいなぁ……』

『今、流れ星を見ました! ちゃんとお祈りしました! 久遠さんと結婚出来ますように……。久遠さんと結婚出来ますように……。久遠さんと結婚出来ますように……』

『晩ご飯にオムライス作りました! 私は料理も得意なのです! ケチャップで文字を書きますね。くおんさんLOVE』

『久遠さんちゅきちゅきちゅきちゅきーーーー♪』

「こ、これは……」

 どのメールも全部芸術的なラブラブ文言で埋め尽くされている。

「す、凄い……」

「こんなことってあるんだ……」

「わ、私もこんな風に恋したいのに……」

 この剣道部員達はみんな彼氏がいないどころか、女子校なので男と話した経験も少ないような者ばかりだ。夢でしか見たことないような話の実例が目の前に現れ、その衝撃は計り知れないものであった。

「キ、キャリー先輩。こ、この人、やっぱり本当に彼女がいるみたい……」

「う、浮気の線は……?」

「これだけラブラブなら、浮気なんて……」

「む、むぅぅぅぅ……」

 流石のキャリーもこれに反論は出来ない。

「た、確かに、本当に彼女はいるようね……」

「だ、だろ? これで分かったろ? お前が心配するような事は何も無いんだって。分かったらもうスマホ返せって」

「くっ……。し、仕方無いわね……」

(……やれやれ、やっとか)

 ようやく、この疑り深いキャリーも折れてくれたようだ。久遠はちょっと愛梨に用事があってこの女子校に来ただけなのに、まさかんな騒ぎになるとは全く想定外だった。心身共に疲れ果ててしまったが、どうにか目的は遂げられそうだ。と、一息ついたその時、

 ピローン。

「あら?」

 新しくメールが着信した。

「どれどれ?」

「あっ、お、おい……」

 さも当然の如く、キャリーは今来たばかりのメールを開いた。後輩達も一斉にスマホのディスプレイを凝視する。リアルタイムのメールは臨場感がある。みんな興味津々だ。

『明日はいよいよ遊園地でデートですね! この一週間、ずっとそれが楽しみで楽しみで夜も眠れませんでした。ところで、あの遊園地は動物のコスプレで入場するのが流行なのをご存じですか? 私は黒猫で行こうと思います。ネコミミと鈴です。本当は明日まで秘密にしておきたかったのですけど、我慢できないので先に写真を送っちゃいます。もし私が遊園地で迷子になったら、こんな黒猫ちゃんを見つけて下さいにゃん♪ 久遠さんを大好きな璃梨より』

 そして、メールの下部には頭に黒猫のネコミミを被り、首元には黄色い鈴を結び、色っぽく上目遣いな視線をした実に可愛いらしい八歳の女子小学生の写真があった。

「げっ!?」

 ドガァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!

「ぐわぁっ!?」

 キャリー怒りの一撃が問答無用で久遠の頭上に振り下ろされた。

「あんたッッッッッ!!!! これッ、愛梨の妹の璃梨ちゃんじゃないのッ!!!!!!!!!!」

「小学生に手を出すなんて!」

「何が結婚よ!」

「ロリコン!」

「変態!」

「ち、ちょっと待て! 俺はロリコンじゃないし、俺が手を出したわけでも無い! 別に何も問題は無いんだ! まずは落ち着いて話を……な?」

 その後、久遠が怒り狂ったキャリーや周囲の後輩達により、問答無用で滅多打ちにされたことは言うまでも無い。

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