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はじめてのつれだし

「うがああああああ! いい加減にしろッ!!」

「きゃあッ!?」

「気をつけて! こいつ凶暴よ!」

 所詮、獲物は竹刀だし、振るっているのも女の細腕だ。しかも先週の愛梨の一撃と比べると随分弱いので、久遠には反撃する余裕があった。一喝すると女子生徒達も怖くなったらしく、久遠から少し距離を取って身構えた。

「おい、ここに凜咲 愛梨って剣道部員がいるだろう? 呼んできてくれ!」

「あんたみたいな変質者と会わせられるわけ無いでしょ!」

「俺は変質者じゃ無い!」


 一方その頃、騒ぎになっている校門前からグラウンドを挟んだ所にて、当の姉、凜咲 愛梨が帰路に着こうとしていた。その横には同じく竹刀を持った女子が一人、並んで歩いている。愛梨は女子高生としては身長の高い部類に入るが、その横に並んで歩くもう一方の女子は、何とその愛梨よりも背が高い。しかも髪が金髪だ! 非常に目立つ。

「これから長い夏休みね。愛梨は夏休みは予定あるの?」

「お盆におばあちゃんの家に行くくらいね」

 隣を歩くこの少女は、愛梨の中学時代からの同級生だ。名前はキャロライン・東郷。名前の通り、アメリカ人とのハーフである。普段はキャリーの愛称で呼ばれることが多い。

 愛梨は女子高生としてはかなり長身であるが、キャリーは西洋人とのハーフという血統もあって、その愛梨よりもさらに高く、平均的な男子高校生と同じくらいだ。発育も非常に良くて、トレードマークのウェーブを効かせた長い金髪も合わさり、遠くから見てもすぐに分かるくらい非常に目立つ。

 性格もかなり快活で、剣道部のムードメーカーである。

「おばあちゃんの家だけって、それじゃ小学生と同じじゃ無い。愛梨ももう高校生なんだし、そろそろ大人な経験もしておかなきゃ。ねえ、やっぱり私と一緒にロサンゼルス行かない?」

「ダメよ。私は勉強と剣道で忙しいし」

「それだけ?」

「後は、家事手伝いして、終わったら本読んだり……」

「ほとんど引きこもりじゃない!」

「引きこもりってのは一年中自分の部屋から出ないような人の事を言うの! 私は休みの日に家にいることが多いだけ!!」

「それでも健全な若者から見たら十分引きこもりよ! 全く、いくら愛梨が可愛くたって、私みたいに学生のうちに遊んでおかないと、男の人からつまんない女って思われて将来結婚出来なくなっちゃうよ?」

「どーせ私はつまんない女よ。これでいいのよ。学生の本分は勉強と部活! これだけちゃんとやってれば将来困ったりしないんだから」

「そういう固い女に限ってコロッとつまらない男に引っかかっちゃうのよ。でも、大丈夫よ。そんな時は私が守ってあげる。だって部長が道を踏み外しそうになった時に助けるのが、副部長の役目なんだからね!」

「きゃっ!?」

 突然、キャリーが愛梨の肩に手を回して力強く抱き寄せてきた。キャリーの方が一回り体が大きく、それに伴って腕力も強い。その両胸も非常に豊満で、ちょっと抱き寄せられただけでも肩にフカフカした感触が広がり、女である愛梨でも意識せずにはいられなかった。

「ほらほら。愛梨がこれくらい大きくなるのはいつの日かしらね~?」

「もう、キャリーったら! 私は胸なんて別に……あら?」

 愛梨がふと前を見れば、校門前で後輩の一年生達が集まって大騒ぎになっている。

「な、何かしら、あれ?」

「さ、さぁ?」

 キャリーも愛梨と一緒に足を止め、何事かと思って様子を見ていると、輪になっていた後輩の一人がこちらに気がついたらしく、走ってこちらに寄ってきた。

「せせせ、先輩達! た、た、助けて下さい!!」

「ど、どうしたの、一体?」

「こ、校門前に変質者がいるんです! しかも凄く凶暴で! 私たちじゃ手がつけられないです!!」

「はぁっ?」

 夏休み突入早々から忙しいことだ。愛梨は開いた口が塞がらない。

「全く、どんな男か知らないけど、とんだ身の程知らずがいたものね! 寄りにも寄って私と愛梨のいるこの学校に押しかけてくるなんて!」

「全くだわ! 女子校に侵入してくるなんて、変質者にしても程があるわね」

「気をつけて下さい! あの変質者、凜咲先輩を狙っているみたいです!」

「え、そ、そうなの?」

「で、でも、先輩さえ来てくれれば私たちは勇気百倍です! いざとなったら全員でタコ殴りにしてやります! 頑張ります!」

「心配いらないわ。そこらの男に愛梨が負けるわけないし。愛梨が脳天に一発かましたら、私がふん縛って警察に突き出してやるわ!」

「そうよ、心配無用! そんな変質者に遅れを取る私じゃないわ。白昼堂々と女子校に侵入して淫行を働く変態男。この凜咲 愛梨が斬首して、五条河原に晒してやるわ!」


 その頃、久遠はどうなったかと言うと。

「おい! 俺が何したって言うんだ! 何もしてないだろッ!!」

「してるわ!」

「してる!」

「顔が犯罪だわ!」

「テッ、テメェェェェェッッッッッ!!」

(……畜生! 女じゃなけりゃ絶対キレてるんだけどな!!)

 余りに酷い罵詈雑言を浴びて流石の久遠も激怒しているが、相手が女の子ではそうそう乱暴には出られない。対応に困って立ち往生していた所に、女子軍の増援が現れた。

「先輩達を連れてきたわ!」

「やったわ!」

「これであなたも一巻の終わりよ!」

(……な、何だって!?)

 一巻の終わりとは、また随分と物騒な言葉だ。周囲を取り囲んでいた剣道部員達が一斉に身を引いて久遠の正面に人が通れるように道を作る。

(……ちっ、一体どんなヤツが……。ん、あ、あれ!?)

 満を持してどんなボスキャラが登場か、と一瞬身構えてしまったが、そこから現れたのは、何てことは無い。正に久遠が探している愛梨その人だった。

「ちょっと、この変質者! よくも白昼堂々と……あ、あら?」

「よ、ようやく見つけたぞ、姉!」

 どうやら愛梨も久遠の顔は覚えていてくれたようだ。忘れられていたらどうしようかと思ったが、これで一安心だ。

 しかし、これに驚いたのは周囲の剣道部員の方である。

「え、せ、先輩。こ、この不良変質者と知り合いなんですか?」

「い、いえ、ち、ちょっと……」

 愛梨も先週の騒ぎのことは秘密にしていたらしく、答えに窮しているようだ。

(……ああ、もう、めんどくせえな!)

 さっさとこの場を切り抜けたいので、久遠が処置することにした。

「ちょっとした知り合いだよ。最近知り合ったばかりだ。騒がせて悪かったな。コイツに用事があったんだ。おい、姉。この前の話、まだ続きがあった。ちょっと来てくれ」

「え、ええ……」

「「「ッ!?」」」

 周囲の後輩剣道部員達にとって、愛梨と久遠が知り合いであったこと以上に衝撃的であったのは、久遠が「ちょっと来い」と言っただけで、愛梨がノコノコと付いて行こうとしたことだ。みんなの憧れであるこの女子校最強の剣士が、こんな不良変質者の言いなりになってしまっていることが、女子部員達にとっては天地が引っ繰り返る程の衝撃だった。

 呆気に取られて動けない部員達を尻目に久遠はさも当然の如く愛梨を連れて立ち去ろうとする。だが。

 ドッ!

「ゲボォォォォッ!?」

 何と、いきなり金髪の女が正面に現れ、すばやく踏み込み間合いを詰め、竹刀の柄で久遠の鳩尾を強烈に打突した! 低い重心からの鋭く気の籠もった一撃だ。しかもこの金髪女は非常に体格が良く、慎重は久遠より僅かに高い程だ。久遠は痩身なので、体重でも負けているかもしれない。そんな大柄な女が全体重を一点に乗せて突きを放ったとすれば、相当な威力であることは疑うべくも無い。

「ゲホッ、ゴホッ……。な、何、だおま……ウッ……ゲホッ……!?」

「え、ち、ちょっと、だ、大丈夫!?」

 いくら久遠が男でも、これはとても耐えきれない。久遠は膝を突いて崩れ落ちてしまった。心配した愛梨が慌てて駆け寄り久遠の背中を擦ろうと手を伸ばすが。

 ビシッ!

「痛っ!?」

 横から竹刀が飛んできて、伸ばした手を軽く打たれた。その竹刀の根元の方を見ると、そこには金色に輝く鬼がいた。

「キ、キャリー!?」

「あなた達、まさか、付き合ってるんじゃないでしょうね?」

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