はじめてのあね
そこから先の見合いは実に順調に進んだ。
「はは、そうか。お前もどうぶつやってるんだな」
「はい! メルヘンでラブリーな家を作ってます」
「俺はゲーム家具とかSF家具だな」
「なら、お互いに遊びに行けばカタログが揃いますね!」
「そうだな。俺の友達はやってないから困ってたんだよ。俺は一人っ子だから兄弟もいないしな。こんなことなら持って来れば良かったぜ」
二人は見合いらしく、お互いの誕生日、好きな食べ物、趣味や学校での暮らしぶりなどについて話して情報交換を行った。璃梨が年齢不相応に大人びているせいか、十七歳と八歳という年齢差とは思えない程に話が合った。しかも二人には同じゲームをプレイしているという共通点があり、随分と話が盛り上がった。
(……ん?)
ふと気がつくと、太陽が傾いて低い確度から窓越しに陽が入ってきている。腕時計を見れば十六時を回っている。知らぬ間に随分と時間が経ってしまっていたようだ。
「もうこんな時間か。お前は小学生だし、そろそろ帰らないとな」
「えっ、えっと、あの、あの……」
久遠から話を切り上げようとしたので、何かマズいことを言ったのかと心配したのだろう。璃梨は不安そうに慌て始めた。
「心配すんなって。今日は楽しかったぜ。お前ならきっと将来、良いお嫁さんになれるぜ」
「あ、あの、久遠さんは、あの……」
「お前が十六歳になっても独身だったら、考えてやるよ」
「は、はい……」
やはり璃梨はすぐにでも結婚したかったらしく、少し落ち込んでいる様子だったが、大人しく席を立って後を付いてきた。そのまま横に付き添ってキュッと手を握ってくる。
「さて、会計は……ん?」
二人が会計を済ませようとレジに向かうと、店の出入り口のすぐ外で、誰かを探すようにキョロキョロと周囲を見回している女がいた。あのキョロキョロという落ち着かないそぶりは初めて会った時の璃梨にそっくりだ。
身長は久遠とほぼ変わらない。服装は学生服だから、女子高校生と見て間違い無いだろう。女性にしてはかなり背が高い部類に属する。髪型はショートで、凛と整った顔立ちはどことなくボーイッシュな印象を漂わせる。背筋もピンと通っており、無駄の無いスタイリッシュな体型だ。その左手には長い布包みを持っており、木刀か竹刀が入っているのだろう。おそらく、剣道の有段者なのではないだろうか? 動きが素人と違う。キョロキョロと周囲を見回すだけの些細な動作にしても、随分とキレのあると言うか、動と静がクッキリした所作をしている。近づいた瞬間に抜刀してきそうだ。『隙が無い』って言うのはこういうことを言うんだ、と万事納得の姿である。ド素人の久遠が見てもそう思うくらいなのだから、相当な高段者ではないかと思う。
そして、久遠はこの少女を知っている。
「あっ、アイツッ!?」
「お、お姉ちゃん!?」
「璃梨ッ!?」
姉と呼ばれた少女は、璃梨の呼びかけでこちらに気付いた。だが、璃梨の方を向いていたのもほんの一瞬だ。すぐに可愛い妹と馴れ馴れしく手を繫いでいる、見知らぬ不良男の方へと意識が向いた。その顔にはすでに鬼が宿っており、全身から吹き上がる闘気はまるで地獄の炎のようであった。
そしてゆっくりと流麗な動きで竹刀を正眼に構え、その切っ先を久遠に向けた。
(……え、いつの間に抜いたんだ!?)
何と、つい一瞬前まで確かに竹刀は布包みの中に入っていたはず。なのに今は包みはどこかに消えて、中から竹刀が出て来ているではないか! 久遠が迫力にビビッて気を取られている僅かな隙を突いて、筒袋から竹刀を抜いたらしい。
「ちょ、お、おい……!?」
この時、少女と久遠の距離は数メートルも開いていた。
これが素人の悲しさだ。ド素人の久遠は間合いというものを全く分かっていない。腕の長さと剣の長さを足した距離が間合いだと思っている。だから、数メートルも距離が開いていれば完全に間合いの外であり、いくら相手が抜刀しているからと言えども、まだ必殺の距離ではない。後二、三歩踏み込んでくるだろうから、その間になだめて落ち着かせれば危険を回避出来る。そう久遠は思っていた。
もちろん、この少女の腕前がそんな甘いモノであるはずもなく、瞬きする余裕も無いうちに間合いは詰められ、閃光のような一撃が久遠の脳天を直撃した!
「ぐわああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっ!?」
「きゃああああああっっっっっ、く、久遠さんッッッッッ!?!?!?!?」
「このっっっっっ、ロリコンッッッッ!」
大の字に倒れる久遠に竹刀を突き付け、少女は声を大にして叫んだ。
「無垢な少女の体を狙う、変態鬼畜ロリコン異常性欲強姦魔ッ! この凜咲 愛梨が斬首して、五条河原に晒してやるわッッッッッッ!!!!!!」




