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道化師と疑心暗鬼

吐き出し。魔王サイドです



 我が輩は魔王である


 最近、というより先日のスケルトンの葬式事件以来、私は一つの不安要素を抱えながら過ごしている。


「魔王様? 随分と暗い表情ではありませんか。何かありましたか?」

「いや、なんでもない」


 何だか親しげに話しかけてきたこいつが不安要素そのものである。


 奴の名はピエール。通称『道化師ピエール』である。


 呼び名の通り、道化師のような華やかな模様と装飾の服に身を包み、目元を隠す仮面を被る魔物である。

 魔王の部屋は基本的には四天王と一部の魔物しか入れないが、こいつはその一部の内の一人である。

 

 正直、なんでこいつが此処に入ってきているのかは分からない。何か知らんが勝手に入ってくるようになった。


 私からしたら見知らぬ人が私の部屋に勝手に入ってくるという、言葉にすれば大体の人間が恐怖するような状況なのだが、勿論それも理由のひとつであるが、私がこいつを不安要素と呼ぶのには色々と訳がある。


「もしかしてこの前のドッキリについてまだ怒ってます?」

「もう怒ってない」


 まずひとつ。

 何でか知らないが、こいつはスケルトンとただ一人共謀して、四天王やその他の魔物を含む私達にドッキリを仕掛けた。割と洒落にならないドッキリで、私は正直まだ怒っている。やっていいドッキリとやっちゃいけないドッキリの区別を、いまいち死の重要性を理解していないスケルトンが分かっていなかったのが悪かったのだが。

 何はともあれ、それに対して怒っているだけで、こいつを不安要素と呼ぶわけではない。


 何でか知らないが、四天王と通じているこの魔物の浸透っぷりに私は不安を覚えている。


 私、こいつのこといまいち知らないのに、何で四天王と仲良くしているんだ。しかも、ドッキリを唯一共謀って、それよっぽど仲良しだぞ。

 私の身近に自然に侵入してきたこいつが怖い。


 こいつ、あれだ。絶対にボスである私を裏切るタイプのやつだ。


「え~、でも不機嫌そうな顔してますよ~?」

「不機嫌じゃない」


 こいつが絶対に裏切るタイプのやつだと思う理由は他にもある。


 四天王も含め、基本的に魔王軍の魔物は全員『魔物魔物してるタイプの魔物』である。要は、何か化け物みたいな姿してる奴ばっかりである。

 ラミアンは蛇女だし、ゴルゴイルはどう見ても生き物っぽくないし、スケルトンは骨だし、そんな感じで上位の四天王でも魔物魔物してるタイプの魔物なのだ。


 しかし、こいつ、人型である。


 人が仮面つけてるようにしか見えない。道化師っぽい服を着てるだけの人にしか見えない。人型魔物が特殊かというとそうでもないのだけれど、ただ勇者達が戦いにくいだろうから魔物魔物してる魔物ばっかりなのだろうけど、人型魔物とか魔界のそこら辺にいるっちゃいるんだけど。


 こいつ、絶対にボスである私を裏切るタイプのやつである。


「絶対怒ってますって! 私のこと凄い目で見てますもん!」

「怒ってない……!」


 そもそもこの何処かふざけた雰囲気。


 絶対にボスである私を裏切るタイプのやつである。


「声が怒ってますもん! ごめんなさいって魔王様~! 勘弁してくださいよ!」

「怒ってねぇ……!」


 そもそも魔王である私にやたらと馴れ馴れしく話しかけてくる辺りも怪しい。この何かしつこく言い寄ってくる恋人みたいな絡み方、私を相当怒らせたいと見える。

 私を怒らせてもいいや、と思ってる奴は四天王以外には十人居るか居ないかである。なのに、こいつ、私を怒らせにくるタイプのやつである。


 絶対にボスである私を裏切るタイプのやつである。


「もー! 魔王様本当にごめんなさい! スケルトン様が手伝え手伝えしつこかったからお付き合いしただけなんですって~!」

「それはもう聞いたし……! 怒ってないって言ってるし……!」


 我が輩は魔王である。

 しかし、別に力に溺れてがっはっはしてるタイプの魔王でもないし、冷酷に部下を切り捨てて行くタイプの魔王でもない。ただ椅子に座って勇者を待っているタイプの魔王である。しかし、途中一度だけ、イベント戦闘で勇者達の元に出向く機会がある。勿論、イベント無敵付きだ。

 先に顔を出す機会のある魔王。


 ほぼ確実に裏切られるタイプの魔王である。


 がっはっはしてたら危なかった。絶対裏切られてただろう。第二形態になって、やられたのに何故か勇者を追い込んでいるみたいな雰囲気になってて、勇者に力を見せつけて、これで終わりだー、と言った所で後ろからブスリされて、「魔王の力は私が戴きましたよー!」と言われてこいつに裏切られる。

 このセリフが妙に脳内再生しやすい。


 絶対にボスである私を裏切るタイプのやつである。私の力を横取りして、「この時を待っていましたよー!」とか言っちゃうタイプのやつである。


 それにこいつ、妙に賢い。四天王より大分賢い。この前の中間試験で一番の成績を取っていた。ラミアンにも言い負けないし、大概ロドリゲスも言い負かしている。いや、あいつは一般の魔物にも言い負けるが。


 絶対にボスである私を裏切るタイプのやつである。


「……本当に申し訳ありませんでした。何でもしますので許して下さい」

「許したって言ってるし……! 全然怒ってないし……!」


 急に声が震えだしたけど、どうせ演技だろう。

 ここで私がにっこりして「もう気をつけろよ?」とか言ったら、『ドッキリ大成功』の看板を使い回しで持ってくるのだろう。多分、そこら辺にスケルトンも隠れている。下手したら四天王全員が出てくるかも知れない。

 四天王全員に裏切られる魔王。四天王四体合体。混沌とした見た目のラスボス降臨。

 やばい。疑心暗鬼が止まらない。

 

 やられると分かっていて黙っている訳にもいかない。しかし、やられると思って手を先に出したら凄く小物っぽく逆に死亡フラグが立ってしまう。

 八方塞がり。詰みだ。

 

 世の中不公平だ。勇者に詰みはないのに、魔王は生まれた時から人生詰んでいる。

 だってやられ役だもの。

 しかも、噛ませだと?

 椅子に座ったまま人生が終わるだと?

 

 納得いかない。この世界に神がもしいるのなら、私は神を引き摺り下ろして嬲り殺しにしてやりたい。

 おっと、怒りの炎が燃え上がってきましたよ~

 テンションも上がって参りました。

 もうヤケクソだ。

 ここらで冷静キャラをやめて、狂気の暴走キャラに走っていいかもしれない。

 そしたら裏切り者達を先に攻撃する口実もできる。


 そうだ。やるしかない。

 やられる前に、やるしかない。


 きっと今の私の顔は鬼のような形相になっているだろう。そう、魔界三丁目に住んでいる鬼おじさんのような顔だ。


 私はまずは目の前の小生意気な不審者を血祭りにあげることにした。










「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

「!?」


 それはあまりに予想外な裏切りだった。

 突如大声を出したのはピエールだ。

 ちなみに私はまだ何もしてない。

 どうしたのだ、と戸惑う私の前で、ピエールは仮面を外し、その素顔を露わにした。


「いっだい、なにを、ずれば、ゆるしてくれるんでずがあああああっ! わだじだっで、ずげるどんざまが、どーじでもっでいうがらっ! おでづだいしたのにいいいいいいいっ!」


 マジ泣きである。

 鼻水ズルズルで涙をボロッボロと零して、大口開けて泣き喚いている。

 しかも……


「え? お、お前女だったのか?」

「ぶわあああああああああああああああっ! ずげるどんざまが、まおうざまはうづわがでっがいがら、ぢょっどやぞっどぢゃ、おごらないっでいっでだのにぃぃいぃぃぃぃっ! げきおこだぁぁぁぁぁぁっ! ごごろがぜまぃぃぃぃぃぃぃっ! ざずがは、あぐのごんげ、まもののおうざまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 褒めてるのか、貶してるのか。

 そんな事よりこいつが女だという事実に驚きである。

 しかも結構可愛い。タイプかも知れない。

 

「お、落ち着けピエール。怒ってない。怒ってないぞ。だから泣くな。な?」

「うぞだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ざっぎ、三丁目の鬼おじさんみだいながおでわだじをにらんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! だれが、だずげでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 ヤバイ。

 絵面的にヤバイ。

 マジ泣きしてる女の子に助けを呼ばれてる。

 これ、ここに人が来られたら私が何か悪い事をしたみたいな空気になってしまう。


 ヤバイ!


「泣くな! 頼む! 泣くな! せめて大声を出すな! 人が来る!」

「うわあああああああああああああっ! ひどがぎだら、こまるようなことをされるううううううううううううううううううっ!」

「しないよっ!? ねぇ、しないよっ! 何もしないから! ね!?」

「うわああああああああああああああああっ! 絶対に何かする人の言い分だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ごめんなさい! 俺が悪かったです! ごめんなさい!」


 ヤバイ!

 この光景を、例えばラミアンなんかに見られたら……!


「何事ですか!」


 バン、と扉が開かれ、噂の女が現れた。


「ピエール!?」

「ラミアン様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 助けてぇぇぇぇぇぇ!」


 ピエールが部屋に入ってきたラミアンに飛びついた。

 ラミアンの冷たい視線が私を刺す。


「魔王様……どういう事ですかこれは」

「違う! 違うんだ! 誤解だ!」

「はてさて、誤解されているとどうして思ったんでしょう? 後ろめたいことでもあるのでは?」


 冤罪だ。こうして冤罪は起こるのだ。

 てっきりこれをネタに強請ゆすられると思っていたら、ラミアンの反応が随分と違う。

 こちらを蛇睨みして、何やら本気で軽蔑しているかのような目だ。


「まおうざまがっ……! まおうざまが、ごのまえのどっぎりのごど、ゆるじでぐれないんでずっ!」

「……まだ根に持ってるんですか魔王様。もう済んだ事でしょう。そのしつこさは流石は陰湿な魔族の王。あ、これ褒めてません。貶してます」

「違う! 俺は許すと言ったのだ!」

「じゃあ何でこの子がこんなにも泣いてるのですか。可哀想に」


 なんかラミアン、ピエールと仲良くない?

 頭撫で撫でしてるし。あの外道の権化のような女の対応には見えない。

 

「だから誤解だと言っている! 勝手に俺が怒っていると勘違いして、ピエールが泣き出したのだ!」

「そんな都合のいい言い訳、信じられると思いますかこの外道。あ、魔族に対する褒め言葉じゃないですよ? むしろ魔族もドン引きするレベルの外道と貶しているんです」


 お前にだけは言われたくなかった。

 

「ピエールは素直な良い子なんです。私の妹分のような子です。この子と魔族の王、どっちが信用に値するか分かります?」


 確かに魔族の王の信用は最底辺と言ってもいい。いや、せめてお前ら魔族は信用しろよ。

 しかし、あのラミアンが妹分と呼ぶ程に仲良しなのかピエール。

 何なんだコイツ本当に。


「とにかくこのことは四天王全員を交えて話し合いましょう。いいですか魔王様。たとえ魔族と言えど、その王と言えど、越えちゃ行けない一線があるという事は分かっていますか?」

「お前は一体俺が何をしたと思っているんだ……!?」


 あと、お前に色々と言われるのはすっごい癪だ。

 しかし、このままでは魔族全員の信用を失うことになる。

 本当に四天王全員にボコられる事になる。


 最早、私にはプライドなどなかった。


「頼む! 信じてくれ、ラミアン! 何でもする! だから、四天王には黙っていてくれ!」


 私は土下座した。

 誤解を解けないのなら諦めよう。

 せめて、これ以上の誤解の拡散を防がねばならない。


「そうだ! 世界を征服した暁には、お前に世界の半分をやろう! だから、頼む!」


 ラミアンは押し黙った。

 強欲なこの女の事だ。簡単に乗ってくる筈だ。


「現実的じゃないですね。……魔王様の現在の財産の二割でどうです?」


 なんて強欲な女だ。

 しかも、二割とかいう数字が生々しい。

 しかし、チャンスだ。世界の半分は、本来ならば勇者との交渉材料に取って置きたかったので、願ってもない事だった。


「分かった! 飲もう!」

「そうですか。ではこちらの契約書にサインを」


 ラミアンは懐から一枚の紙を取り出した。

 私は迷わずサインした。

 

「……確かに。では、このことは我々だけの秘密と致しましょう」

「すまん……恩に着る」


 私はようやくほっとした。

 ラミアンは契約書をそそくさと懐にしまい込むと、ピエールの肩を抱き寄せ背中を向けた。


 この女は外道だが、約束は守る女だ。


 ……だよね?


「では行きましょう、ピエール」

「ラミアンさまぁ……」


 ……いや、ちょっと待て。


 私はひとつ疑問を抱いた。

 ラミアンが出した契約書、なんであんなものをあいつは持っていたんだ?

 おかしい。準備が良すぎる。


 まさか……!


 私は恐る恐る顔を上げる。


 扉が閉まるその瞬間、私は確かに見た。






「フッ」

「……ひひっ」


 ほくそ笑む、二人の女の横顔を。




 こいつら絶対、ボスである私を裏切るタイプの奴だ。






道化師ピエールは笑えない冗談がお上手



【登場人物紹介】

・ピエール

通称『道化師ピエール』。道化の格好に仮面姿の人型魔族。

魔王様でさえどうして魔王城に出入りしてるのか分からない謎多き女。

四天王とは良く飲みに行く。魔王様でも誘われない飲み会でも割と誘われる。

魔王様にとっては全く笑えない冗談しか言わない。

絶対に裏切るタイプの奴。


装備:毒ナイフ・道化の服・道化の仮面

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