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魔法使いとお父さん

書き溜め分吐き出し。結構あるけど勇者サイド、魔王サイド一話ずつくらい定期で出してきます



 我が輩は勇者である。


 今、町を旅立ち次の町へと向かう道中にいる私達は、思わぬ事態に足を止めている。

 新しい地方に来て、新しい魔物とエンカウントするようになって、つい先程結構やばい魔物との戦いを終えた所で事態は起きた。


「魔法使いよ。そんな目で私を見るな」


 私の目の前には、一匹の魔物を抱きかかえた魔法使いの姿。ちなみに今のパーティーは、僧侶、盗賊、魔法使い、そして私の四人である。

 小柄な魔法使いの上目遣いに、流石の私も参っていた。


「お願いします勇者様。この子を連れて行かせてください」


 どうしてこうなった。


 つい先程の戦闘で、私達は新しい魔物とエンカウントした。

 今までも出てきたミドリゴリラという魔物と一緒に出現したマンイーターと私達は出会ったのだ。

 マンイーターは小柄ながら、かなり凶悪な見た目をしている。

 牙がずらっと並んだ身体の半分ほどもある大きな口。ぎょろりと開いた不気味な単眼。刃物のような角に、悪魔のような紫色の怪しい翼。

 しかも、マンイーターって何だよ。人食いって何だよ。


 しかし、私達もそう弱くはない。

 かなり手強いこの魔物を何とか倒した私達だったが、倒した筈のマンイーターが立ち上がった所からおかしな事になってきた。

 魔法使いがマンイーターを抱きかかえて、「仲間にしたい」と言い出したのだ。


 正直パーティーメンバー全員困惑である。


「駄目だ魔法使いよ。魔物は飼えない」


 魔法使いは動物好きである。

 パーティーにいる犬も、魔法使いが捨てられていたのを拾ってきたのである。

 しかし、流石に犬は許せても魔物は許せない。


「どうしてですか」

「魔物を馬車に乗せていたら、いつ寝首を掻かれるか分からないだろう」


 しかも、マンイーターだ。寝首掻かれるどころか食われる。


「そんな事しませんよ!」

「どうしてそう言える?」

「だって、マンイーターは仲間になりたそうにこちらを見ていた!」


 何言ってんだこいつ。

 仲間になりたそうにこちらを見ていなかったよ。むしろ恨めしそうにこちらを見ていたよ。今だって、私を睨みながらシャーシャー言ってるし。

 そして、魔法使いは泣きそうな目でこっちを見てくるし。どうするんだこの板挟み。


「魔法使いよ。しかしだな、私にはパーティーメンバーの安全を確保する義務がある。ほんの僅かでも危険を侵す事は避けたいのだ」

「危険じゃないです! この子は凄く優しい子です!」


 嘘おっしゃいよ。

 この子、さっきめっちゃ私に噛みついてきたから。1ターンに二回くらい私に噛みついてきたから。私の服の下、今も歯形残ってんだぞ。

 しかも、今もヨダレ垂らしながら私を見ている。こいつ、私を食い物としか思ってないよ。


「魔法使いよ。お前の心優しい性格を私は良く知っている。しかし、世の中には、ままならない事が多々あるのだ」

「お願いします! お願いします!」


 聞き分けがない。

 あれか。犬を拾ってきた子供を窘めるお父さんはこういう気持ちなのか。

 元居た所に捨ててくるだけでも相当不安だぞこの魔物。


「何をしているのです勇者様。根暗なんて放って置いて、早く殺してお金にしましょう」


 またそういう野蛮な事を言う。お前は本当に僧侶なのか。

 また魔法使いも怯えているではないか。


「僧侶さん。そこまですることはないでしょう。でも、私も流石に魔物を連れて行くのはどうかと……」


 盗賊もやはりそう思うか。彼はなかなか理性的だし、信用できる。

 こうなると魔法使いはとうとう孤立無援になったというわけだ。

 涙ぐんでいたかと思えば、既にわんわん泣き出しそうな雰囲気。参ったな。魔法使いに泣かれると、何だか罪悪感に苛まれる。

 だが、そろそろ諦めてくれるだろう。僧侶も珍しく味方してくれてるし。この女のパーティー内での権力は相当に強い。魔法使いも彼女には滅法弱い。

 だがしかし、魔法使いは珍しく強い口調で言い放った。


「絶対にこの子を連れて行くんです! 置いてけないです!」


 ぎゅっとマンイーターを抱きしめて、魔法使いはくるりと身を翻した。そして私達から離れるように走り出す。


「待て、魔法使いよ!」


 魔法使いが家出してしまう。そんなの父さん許さんぞ。

 それに、マンイーターと魔法使いを二人きりにするのは危険だ。

 僧侶は絶対走らんだろうし、馬車のメンバーは基本降りてこないし、私と盗賊で何とかするしかあるまい。

 私は重めの鎧つけてるから走るの遅いし、頼みの綱は盗賊だ。


「魔法使いさん! お待ち下さい!」

「待てぬ!」


 この子の言葉遣いは時折おかしい。何処で学んでくるんだこんな言葉。

 いや、そんな事を気にしている場合ではない。

 魔法使いはパーティ内でも一二を争う高火力を持っている。

 とはいえ所詮は子供。素早さでは忍者と双璧を成す盗賊に足で勝てる訳がない。

 結果は目に見えていた筈だった。


 早々に足を止めた私の目の前から、魔法使いがどんどん遠ざかっていく。

 あれ? と思ったら盗賊は足を止めているではないか。


「……盗賊よ。どうしたんだ」

「勇者様……やっぱりここは私ではなく貴方が行くべきです」


 こちらを振り向き、盗賊は言った。

 それ以上は何も語らない。

 そうだった。彼は凄く真面目な奴だった。

 曲がった事が大嫌い。人の家に上がり込んで壺を叩き割って金品を取る事なんて絶対に許さない。魔物に対する「盗む」コマンドでさえ、まるで刀で斬られたかのような壮絶な表情で、泣きながら「ごめんなさい」と繰り返しながらやっとの事で実行するくらいだ。

 だったら盗賊やめたほうがいいんじゃないか? 僧侶とジョブ入れ替えたらいいんじゃないか?

 とか言ったら本気で傷付いてパーティから飛び出して行ってしまいそうなくらいに真面目な奴なのだ。いや、本当に一度飛び出していった。あと、僧侶に本気でぶん殴られた。

 それ以来彼女が怖くて仕方がない。


 いや、今は盗賊や僧侶の話ではない。サブタイトル的には魔法使いがメインだ。


「……分かった」


 何だか厄介事を押し付けられた感が拭い去れないが、父性のようなものに無理矢理納得させられた。

 私は一心不乱に、重い鎧を着たまま走り出した。

 脱いで走れば楽だったのだが、マンイーターが怖いので剣も担いで行った。




 そして、今に至る。

 シャーシャー言ってるマンイーターを抱き、木の陰に隠れて、魔法使いは涙目でこちらを睨んでくる。

 いつもにこにこしている魔法使いにそんな目で見られるとちょっとへこむ。

 その内この子も「勇者様。洗濯ものは別々でお願いします」とか言うのだろうか。

 胸が痛い……


「魔法使いよ。話を聞いてくれ。アメあげるから出てきなさい」

「取引には応じぬ!」


 何という固い意志。此処まで強い魔法使いの意見を私は聞いた事がなかった。

 私ははぁ、と溜め息をつき、腰を下ろした。


「ならばそのままでいい。魔法使いよ。お前は生き物を飼う、という事がどういう事か分かっているか?」

「知っておる! 私は既に犬を飼っている!」

「朝の餌やりは私がやっている筈だが」


 うぐ、とばつが悪そうに魔法使いが目を逸らした。

 それよりその言葉遣い何とかならんのか。


「お前はマンイーターが何を食べるのか知っているのか?」


 多分人だけどな。


「マンイーターがどれだけ散歩が必要なのか知っているのか? マンイーターがどんな環境で快適に過ごせるかを知っているのか?」

「そ、そんな事知りません……だって、魔物を飼い方の本なんて見た事もない……」


 魔法使いがどんどん視線を落としてきている。


「知らないでは済まないぞ。もしも、ほんの少し寒い地方に行って、マンイーターが寒さに弱い魔物だったとしたら……もしかしたらマンイーターは死んでしまうかも知れないんだぞ」


 魔法使いがびくりと震えた。

 あのミドリゴリラよりもHPが高くて凶暴だったこいつが寒さ程度で死ぬとは思えないが、一応雰囲気は出てきた。


「いいか魔法使いよ。生き物を飼うということは、命を預かるという事なのだ」


 魔法使いははっとした。


「お前はまだ幼い。幼いからこそ教えておく。命は重い。お前にそれが、ふたつも背負えるか」


 言い淀む魔法使い。

 私はすかさず言った。


「即答しないという事は、お前もその重みを理解できているようだな。もしもお前が何も考えずに、すぐにできると言っていたら、私は無理矢理にでもお前からそいつを引き離していただろう」


 ぎゅっと魔法使いがマンイーターを抱き締めた。

 

「考える時間がいるだろう。時間を掛けてもいい。だが、必ず聞かせてくれ。命を背負う覚悟はあるか。その答えを」


 仕方がない。

 焦ってどうにかしようとすると話がこじれる。

 少しここらで足を止めて、時間を掛けて魔法使いに言い聞かせるしかないようだ。

 私は長期戦を覚悟した。

 唸っていたマンイーターも、目玉をぎょろりと魔法使いに向けて、優しく諭す。


「せやで、嬢ちゃん。あのあんちゃんの言う通りや。命ってのはな、重いんや。嬢ちゃんの優しさは身に染みるほど分かっとる。だからこそ、よう考えて欲しいんや。わしは人食いや。嬢ちゃんに、人殺してわしに貢げなんていうのは、心が痛む。優しい嬢ちゃんに、手を汚して欲しくないんや」





 やっぱり人が主食だったのか!?

 

 じゃない。


 お前喋れたのか!?

 さっきからシャーシャー獣みたいに唸ってたのは何だったんだ!?

 しかも、人食いを除けば意外と良い奴じゃないか!?

 流石の私も!?マークを多用せざるを得ない。


 魔法使いはマンイーターを抱く腕の力を緩め、小さい身体を地面にそっと降ろした。

 

「お行き」

「嬢ちゃん……」


 地面に降ろされたマンイーターが、魔法使いの顔を見上げた。

 思わぬ助け船に戸惑いはしたが、魔物をパーティに入れないで済み、私はほっと胸を撫で下ろした。

 

「魔法使いよ。もういいのか?」


 私は優しく魔法使いに問うた。

 魔法使いは私の方に駆け寄り、今度は私の顔を見上げた。 








「……なんか、喋ると結構気持ち悪かったので……いいです」


 魔法使いの顔が酷く引き攣っていた。

 私はそっとマンイーターの方を見る。

 マンイーターは切ない表情でこちらを見ている。


 私は、どういう表情をしていいのか分からずに、何を見るでもなくそっと呟いた。


「せやな」


 子供って残酷だ。

 この子が「勇者様きもい」とか言い出す日を思い浮かべて胸を痛めながら、私は深くそう思った。





魔法使いはお年頃の女の子



【登場人物紹介】


・魔法使い

パーティのメイン火力。後衛からの激しい火力は肉体自慢にうってつけ。

でもまだまだ小さな女の子。パーティ内では娘や妹のように愛でられている。

普段は大人ぶった口調だが、時折何かがおかしい。


装備:魔法の杖LV3・黒のローブ・黒の帽子



【モンスター図鑑】

・ミドリゴリラ

でかいが割と弱い。


・マンイーター

主食は人。魔界語の他に日本語、英語、中国語、ロシア語等々、計10カ国の言語をマスターしたマルチリンガル。

しかし、キャラを保つ為にあえて「シャー」しか言わない魔物の鏡。

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