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魔王と四天王

魔王サイド


 我が輩は魔王である。

 魔物の中でも上位の家系に生まれた私は、つい数年前までは自宅に引き籠もり、特に働かずに生きていた。

 母に「そろそろ働け」だとか、「バイトでもいいから始めろ」だとかあまりにも言われるもので、しかしこちらとしては自分に合った職を探して、自分の持っているスキルを存分に発揮して世間の脚光を浴びたかった訳で。

 そんな感じで自分探しをしていると、ある時から「家業を継げ」としつこい父。

 何とかだまくらかしていたのだが、とうとういい年にもなってきて、家業の魔王を継がされた次第である。


 魔王とか、今どき何をするでもない、実につまらない職業である。


 魔物達のリーダーとして、ある程度の活動こそあるものの、基本的には自宅で待機。手下の魔物達の報告を聞きながら、時折イベント戦闘に出向く程度。

 基本的には手下達が自主的に行動するので、指示を出す事もなし。私はもっと人を動かしたり、自分の凄さを知って貰えるような仕事がしたかった。


 ……とまぁ、今の状況を語り出すと愚痴っぽくなるのでやめておこう。


 そんなこんなで魔王の玉座に着く私は、最強の四人の部下、四天王に呼び出されて魔界一の人気の喫茶店『クロノワール』を貸し切りにして話に応じる事にした。

 ひとつのテーブルを囲んで、四天王と対峙する。


「……さて、ゴルゴイル。今日、俺を呼び出した訳を聞かせて貰おうか」

「魔王様。私はゴルゴイルではありませぬ。私はゴードンです」


 そうだった。

 ゴルゴイルはこいつの色違いみたいな、魔界に入ってからエンカウントする普通の魔物だった。だって、この青色の岩石男、あの魔物と色しか違わないんだもの。茶色と青の違いしかないんだもの。

 しかし、ゴードンは特に気分を害した訳でもないようで、話を続けた。


「申し訳ありませぬ。この度はこのような場所までわざわざ出向いて頂いて……」

「構わん」


 割とこの店のザッハトルテは好きなので、此処を話し合いの場所に指定された事自体は不満ではなかった。魔王が出向くと騒ぎになるのでなかなか来れないが、お忍びで訪れた事は度々ある。

 早速、注文しようとしたその時、四天王の一人、エミリーがけらけらと笑い出した。


「それが魔王様ー。ラミアンのやつがさー、貸し切りでザッハトルテ食べたいから、魔王様ここに呼ぼー、って駄々こねたんすよー。超ウケますよねー。魔王様呼んだら奢って貰えるだろうしって……」

「こらエミリー! それは言うなと言っただろう!」


 ゴードンが慌てて制止した。

 成る程。私はお財布という訳か。


「すみません。ザッハトルテ五つ」

「ラミアン! お前も普通に注文するな!」


 蛇の様な女、ラミアン。いつでも冷静な女だ。

 今も冷静なのは若干問題があると思うが。

 流石にこれは私も怒った方がいいのだろうか。そう思っていたら、バン、と机を叩いて、龍の鱗を持つ男、ロドリゲスが怒りの声をあげた。

 

「何を勝手に注文しているのだラミアン! 俺は甘いものが苦手だー! 俺はサンドイッチがいいぞー!」

「ロドリゲス! そういう話ではない!」

「安心しなさいロドリゲス。これは全部私の分です」


 ゴードンは四天王で一番真面目である。

 見た目は一番手抜きデザインだけれども。

 苦労人だなぁ、と思いつつ、私はゴードンにも気を楽にしてもらおうと声をかけた。


「ゴードン。お前は何が飲みたい?」

「は、魔王様……有り難う御座います。では、私はコーヒーで」

「魔王様太っ腹ー! 大好き! あたしはカフェオレー!」

「私はショコララテで」

「うおー! 俺はカレーライスだー!」

「我はお冷やを所望す……」


 出来る上司な私は、華麗に部下に奢るのだ。

 どうせ支払いは魔界の税金から出される事になるので、私の懐は痛まない。


「さて。注文も終わった所で……本題に入ろうか」


 テーブルに肘をつき、手を合わせる。我ながらなかなかの威厳である。


「はっ。魔王様。今回お呼びしたのは他でもありません。我々四天王についてお話があるのです」


 ゴードンが話し始めた。

 魔王軍最強の配下、四天王。奴らは魔物の中でも群を抜いた力を持っている。どのくらい強いのかというと、イベントの手間や各個人の強烈な個性的必殺技によって、人によっては「あれ? 魔王のが楽勝じゃなかった?」とゲームクリア後に言ってしまうくらいに強いのである。仕方あるまい。魔王には第二形態があるから、四天王以上にHPを高く設定すると面倒臭い事になるから調整が入っているのだ。その結果、第二形態もHP少なめで四天王より弱いとか言われる事になってしまったが、それは私ではなく調整ミスした人に言って欲しい。

 でも、私でも最初にやられるゴードンよりも強い自信はある。

 話が逸れた。話を戻そう。


 ゴードンは四天王の顔を見回して、ごくりと息を呑んだ。


「魔王様……」


 次のゴードンの言葉の意味を、私は一瞬理解できなかった。


「どうして我々は四天王なのに、五人居るのでしょうか?」


 五人?

 耳を疑った。四天王なんだから、四人に決まっているだろう。私はそう考えながら、机の向かい側に座る四天王を一人一人チェックする事にした。

 私の様子から何かを察したのか、ゴードンが気を利かして立ち上がる。


「私は四天王、全てを砕く魔王様が槌、『憤怒のゴードン』でございます」


 自己紹介有り難い。そう言えばそんな名乗り向上があったな。

 隣に座る、ゴスロリ少女も立ち上がる。


「あたしは四天王、全てを魅了する魔王様の顔、『色欲のエミリー』!」


 魔界はロリコン比率が非常に高いので、エミリーは魔王軍の立派な広告塔である。そう、エミリーは間違いなく四天王の一人だ。

 エミリーの逆側、ゴードンを挟むようにして座る大人びた雰囲気纏う女が口を開く。


「私は四天王、魔王様のお金を管理する魔王様の財布、『強欲で暴食で傲慢なラミアン』」


 こいつ、座ったまま横着しやがった。

 しかも何という欲張り。変な名前の上につけるやつを三つもつけている。しかも、ザッハトルテ五つ一人で頼んで、しかも比較的値の張るショコララテを頼んだ。どんだけチョコが好きなんだ。この図々しさ、四天王に間違いあるまい。


 そこで私は重大なミスに気付いた。


 私だけ飲み物もザッハトルテも注文していない……!

 今更、この空気で注文するのも気が引ける。まだ四天王の自己紹介も終わっていないのだ。

 参った。みんなが飲み食いしてる時に一人だけ何もないとか気まずすぎる。


 私の焦りなどつゆ知らず、勇ましい筋肉達磨が立ち上がる。


「うおー! 俺は……あ、違う。四天王、俺は魔王様を守る鋼の盾! 『嫉妬のロドリゲス』だぞー!」


 お前が嫉妬か。どういうチョイスだ。ラミアンが三つも持ってくから、ロドリゲスが嫉妬になってしまってるぞ。一番無縁そうだぞ。しかも、ゴードンがひそひそと「名乗り向上が違う」と説教している。おバカキャラかこいつは。そういえば飲み物は、と聞いたのにこいつカレーライス頼んでたぞ。やっぱり馬鹿なのかこいつは。

 しかし、この隆々とした筋肉。強そうだ。四天王に違いあるまい。


 最後に立ち上がる左端の男。真っ白なガリガリボディはよろよろと立ち上がった。


「我は四天王……地獄の底より蘇り、世界に再び闇を取り戻す為に悪魔に魂を売り、暗黒の力をこの身に取り込んだ魔王様が漆黒の右腕、『怠惰のスケルトン』……」


 何か漢字ばっかり使ってて強そうだ……凄い四天王っぽい……。

 見た目はガリガリで、どう見てもストーリー序盤で登場する雑魚魔物、スケルトンにしか見えないのだが、ゴルゴイルという雑魚魔物にしか見えない四天王の一例がある。

 やっぱり、何か強そうな事を言っているからこいつも四天王に違いないのだろう。


 しかし、こうなると困った。

 全員四天王っぽい。いや、むしろ「四天王が五人居る」と言い出したゴルゴイルが一番四天王っぽくない。「憤怒」なのにやたらと大人しそうだし、真面目そうだし。

 しかし、こんな真面目そうな彼に「お前四天王じゃなくない?」というのも忍びない。


「魔王様。どうです。やはり四天王が五人居るでしょう。以前までは確かに四人だった筈なんです」


 ゴルゴイルが不安そうに尋ねてくる。やめてくれ。君を疑わしく思うのが心苦しくなってくる。

 ……というか、前までは四人だったのかよ。気付かない内に誰か増えてたのかよ。気付けよ。同僚の顔くらい覚えとけよ。

 こうなってくると本当にゴルゴイルくんが四天王ではないのではないかという不安を覚える。色違いの敵キャラとか、ボスじゃなくて普通にいっぱい出てくるし。


 苦渋の決断。

 ゴルゴイルくんに冷酷に真実を言い渡すか。それとも……

 私は人間が出来ているので、当然そんな選択は取らなかった。


「ゴルゴイル」

「ゴードンです」

「ゴードン。四天王が四人だと……一体誰が決めた?」


 ゴードンは何故かはっとした。


「四天王が三人でも五人でもよいだろう。さして問題ではあるまい」


 私は適当な事を言った。


「……魔王様! 流石です! この世界において、ルールとなるのは魔王様! 故に四天王は五人でも構わないと、そう仰るのですね!」


 ゴードンはむせび泣いていた。

 何でこいつは泣いているんだろう。適当な事を言っただけなのに。

 しかし、丸く収まりそうなので私は深く頷いた。


「その通りだ」


 何だか馬鹿っぽいし、やっぱりゴードンが四天王ではないんじゃないかなぁ、っと思い始めた。


「お待たせしましたー」


 店員が注文した品を運んでくる。

 しかし、まあ、これにて一件落着という事でいいだろう。

 今日も魔界は実に平穏である。


 そしてこの後、うっかり五人前のザッハトルテのひとつに手をつけた私は、ラミアンに思いっきり殴られた。




勇者サイドと魔王サイド、大体交互にやってきます。




【登場人物紹介】


・ゴードン

勇者達が最後に訪れるであろう地、『魔界』に入ってすぐにエンカウントする魔物、『ゴルゴイル』のカラーだけを変更したように見える四天王五人目の魔物。ちなみに彼と戦うのは魔界に入る前。ゴルゴイルよりもHPは高い。通称『憤怒のゴードン』


装備:鋼の拳・鋼の身体・鋼の精神

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