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魔王とアイドル

魔王サイド。



 我が輩は魔王である。


 今日、私は四天王の一人、エミリーに連れられショッピングに出向いている。

 いつも私の前だと「超ウケルー」とか言ってけらけら笑ってるエミリーだが、彼女は四天王であると同時に魔界のアイドルである。

 小柄な身体にぱっちりとした猫目。瞳はルビーのように赤い。

 シルクを思わせるような白く艶やかな肌は、触るともちっとしており、子供っぽさを際立たせる。

 ふわっとした金色の髪の上には、悪魔の角をつけたカチューシャ。彼女のお気に入りだとか。

 ゴシックロリータの真っ黒ファッションが、宝石のような顔のパーツ達をより一層際立たせている。

 オシャレに決めて、どこか大人びた印象を与えつつも、ちょっとしたアクセントとなっているのが小さな悪魔の羽を生やしたリュックサック。

 小さな見た目によく似合う、子供っぽさがそこにはあった。


 ……いや、何か違うな。取り敢えず口下手な私では上手く表現できないから完結に言おう。


 めっちゃ可愛い。


 魔界はロリコン率が高い。

 そんな魔界に不安を覚えた事もあった私であったが、正直この子は可愛すぎる。

 この子に夢中になってるお兄さん達の気持ちがよく分かる。


 私はパーカーのフードの下で、にへらとらしくない笑みを浮かべた。


 一応、我が輩は魔王である。

 だからあまり外に出歩くのはよろしくない。

 地味なパーカーに地味なジーンズという変装で、今私は歩いているのである。

 ちなみに、他の四天王はいない。エミリーは私だけに着いてきて欲しいと言ったのだ。


 ……まぁ、お財布としてだろうけどな。


 エミリーのラミアンに負けず劣らずの魔物らしい本性を知る私は、ふっと自嘲の笑みを浮かべた。

 対してエミリーはと言うと、にっこにこの笑顔で私の袖を引く。


「わー! 来たかったんだ-! 魔界モール! 今日はいっぱい楽しみましょー! ねっ! 魔王さ……って、おっといけないいけない……」


 そう。私は魔王である事を隠してきているのだ。

 魔王様ってモロに呼ぼうとしたがそれはアウトだ。

 流石にエミリーも気付いたようで、口に手を当てた。

 そして、にんまりと笑って見せて、私の顔を見上げてこういった。


「じゃあいこっ! お兄ちゃん!」


 そう、私は今日、エミリーのお兄ちゃんという設定なのである。

 耳の残響にぼんやりと意識を任せながら、私は思った。


 堪らんな。


 流石は「お兄ちゃんと呼ばせたいアイドル魔界No1」に選ばれたアイドルだ。

 私の腕を抱えるように引っ張り、エミリーは走って行く。

 走る後ろ姿もちっちゃくて可愛い。

 ちなみに、私は決してロリコンでもシスコンでもない。


「まおっ、……兄ちゃん! アレ見てアレ!」


 エミリーが何かを見つけた。


「くま! でっかいくまがいる!」


 熊の着ぐるみが歩いていた。

 あれは魔界モールの看板キャラクター、「あくまくん」だ。

 どこにでもありそうな普通の熊の着ぐるみで、悪魔要素は何処にもない。

 しかし、結構人気である。

 あくまくんに駆け寄るエミリー。


「ハハッ! ようこそ魔界モールへ!」


 その笑い方はやめろ。


「まお……兄ちゃん! 見て見て! 可愛い!」

「有料ですが写真撮れますよ」


 夢のない事いうなこのマスコット。あと、その裏声やめろ。

 あくまくんの腕にしがみつきながら、エミリーはその一言にぴくりと肩を弾ませた。

 少し目を伏せた後に、もじもじとしている。

 写真を撮りたいのだろうか。しかし、写真撮るだけで金を取られる事に引け目を感じているのだろうか。

 魔王様、お願ーい♪ とか言われたら私、払っちゃうのに。

 何故今更遠慮するのか。

 そう思って見ていると、エミリーは上目遣いでこちらを見上げて、首をほんの少しだけ傾けて言った。


「…………だめ?」


 駄目だ。いや、撮っちゃいけないという意味じゃない。これはもう駄目だ。

 写真なんかにそんなお金出せません! というスタンスで見ている私。

 でも、写真撮りたい。

 怒られそうなのでお願い、とは言い辛い。

 だから、一言だけ。「…………だめ?」。悪い事言っているような後ろめたさを臭わせつつの、控えめなおねだり。

 

 もう、ロリコンでいいや。


「……仕方ないな」


 私は財布を取り出した。仕方ない、と雰囲気的に言ってはいるが「はい、喜んでぇ!」という心境だ。

 恐るべし、魔界No1アイドル、エミリー。

 私は割と洒落にならない金額をあくまくんに手渡し、持ってきていたカメラを取り出した。


「よし。撮るぞ」

「待って魔王様!」


 エミリーはとてて、と駆け寄り、私からカメラをひったくる。

 驚く私を他所に、エミリーは近くを歩く家族連れのお父さんに駆け寄っていった。


「あの、すみません。写真撮って頂けませんか?」

「あ、はい。いいですよ」


 快く引き受けるお父さん。

 カメラをそのまま手渡すと、エミリーは私の方に駆け寄ってきて、腕を掴んであくまくんの方へと引っ張った。


「おい、エミリー……なんだ一体」


 すると、エミリーはあくまくんの横に、私の腕を掴んだまま立ち、こちらを見上げて太陽のような笑顔を向けて、言った。


「魔王様もいーっしょ!」


 もう、ロリコンでもシスコンでもいいや。

 あと、既に魔王様と呼んじゃってるけどもう、うん、いいや。

 

 私は隠す事無く満面の笑みを浮かべて、カメラに向かってピースした。


 もう集られてもいいや。悔いは無い。私は深くそう思った。




 そしてこの後、滅茶苦茶散財した。





魔界のロリコン率は異常。



【登場人物紹介】

・エミリー

四天王の一人、通称『色欲のエミリー』。

年齢的にも容姿的にもガチロリータ。

四天王といる普段はギャルっぽいが、それ以外は割と子供っぽい。

もしかしたら、性格ブスのラミアンと居る時は大人ぶってるんじゃないだろうか。きっと子供っぽいのが通常の彼女で、本当は素直で純粋な子なんじゃないか。そう考えると、割と今回の散財も私が張り切り過ぎちゃっただけで、エミリーは腹黒い子とかじゃないんじゃないかな。あ、ちょっと待ってラミアン、今のなし。冗談だから。やめて。鞭はやめて。マジで。痛い。じんじんする。本当にやめて。謝る。謝るから。痛っ、痛い痛い痛い痛い! 金なら払う! 金なら払うから! 痛いッ! 安い女とか思ってないから! 金で動くとか思ってないから! これはただの謝意で誠意だから! ちょ、ゴルゴイル助けて!


……魔界一のアイドルであり、魔王軍の広告塔。

彼女のお陰で人間の協力者も割と増えている。

異性の行動を封じる魅了状態を操る四天王屈指の関門。


装備:マジックネイル、デビルドレス、魅惑のクリスタル

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