魔王と忠臣
魔王サイド。
我が輩は魔王である。
「おい、ゴルゴイル」
「ゴードンです」
「ねぇ、ゴルゴイル」
「ゴードンです」
青色の岩石男は、声を掛けられる度にそう答えていた。
奴の名はゴードン。魔界に入ってから割とすぐに出てくるゴルゴイルという茶色い岩石魔物の色違いみたいな奴だ。いや、みたいじゃない。色違いだ。
無骨な見た目とは裏腹に、物腰は柔らかく、いつでも主君を立てるように立ち回るというクールな男だ。
それでいて、四天王の一番手である事に責任を感じており、週に一度は自分が倒された時のセリフを周囲の者達に練習させている。
「ふふふ、ゴルゴイルを倒したか。だが所詮、奴は四天王の面汚しよ」
「ゴードンです。しかし、よろしい。良く覚えましたねロドリゲス」
脳筋馬鹿の四天王、ロドリゲスでも立派な台詞回しを覚えた。これもゴードンによる訓練の成果だ。
面汚し呼ばわりされても、眩しい笑顔。
四天王の一番手の鏡と言えよう。
しかし、最近私は奴の事が少々気に掛かり始めていた。
「ゴルゴイルー! ゲームやろうよー!」
「ゴードンです。エミリー。口上の練習が終わってからです」
魔界のアイドルにして四天王、エミリーもゴードンにはよく懐いている。
面倒見が良いからだろう。
「ゴルゴイル。この前話していた東の大陸の黒騎士についてですが」
「ゴードンです。何か新しい情報ですか、ラミアン」
四天王随一の外道、ラミアンも、隙さえあれば外道な行いしかしないラミアンも、ゴードンと話すときだけは真面目である。私でさえも舐めきられているのに、ゴードンに対してだけは四天王らしい一面を見せるのだ。
そう。私はこいつをモブキャラか何かと思っていたが、実はこいつが一番四天王の中でまともなのだ。
私の事もちゃんと慕ってくれるし(重要)。
ここで話を戻そう。
ゴードンがそれ程に出来た奴だという事は既にご理解頂けたであろう。
少々気に掛かると言ったのは、奴を見る周りの目についてだ。
ゴードンは、魔界に入ってから出てくる岩の身体を持つ魔物、ゴルゴイルと瓜二つ、というかただの色違いである。
そう。それが問題なのだ。
「ゴルゴイル様! 大変です!」
「ゴードンです。何事ですか」
部下にも慕われるゴードン。
何 で お 前 ら 彼 を ゴ ル ゴ イ ル と 呼 ぶ
彼は量産型の魔物のゴルゴイルではない。唯一無二の四天王の一角、憤怒のゴードンだ。
しかも自らゴードンと訂正しているのに、誰一人直す素振りを見せない。
それも、ここ最近急速に広まってきて、今では彼をゴルゴイルと呼ばない者はいない。
あんまりじゃないか。
あまりにもあんまりじゃないか。
それでも健気に皆の期待に応えている彼の姿に、私は胸を打たれた。
彼をゴルゴイル呼ばわりする奴を私は許さない。
私自らお説教してもいいが、ゴル、ゴードンよりも舐められている私の事だ。きっと徒労に終わるであろう。
ならば、私に出来る事はないか。
最早ゴルゴイルとなりつつあるゴードンに、私がしてやれる事は。
私は思った。
せめて、私だけでも彼をゴードンと呼んでやればいいんじゃないか、と。
皆がお前をゴルゴイルと呼ぼうが、私はお前をゴードンだと思っているぞ。
私はそんな想いを込め、一人黄昏れるように机に向かうゴードンに話しかけた。
「ゴードンよ」
「ゴル……ゴードンです」
ゴードンよ……既にお前は……
BADEND
【登場人物紹介】
・ゴルゴイル
大体こいつのせい。
攻撃力と防御力はゴードンを上回るという事実が彼の不遇に拍車を掛ける。
心ないプレイヤーからはゴードンに向けて「ゴルゴイルの色違い」という暴言が飛び出す事も。
製作スタッフからは「先に作ったのはゴルゴイルです」というコメントが出されているが、後にスタッフ自身ゴードンとゴルゴイルを間違えていたという事実が明かされる。