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僧侶とメンバー会議

ちょっとした新作。

ゆるゆるで、バトルもなし、熱い展開もなしですが、お付き合い頂けたら光栄です。不定期更新。突然完結するかもしれません。

他の作品も更新していきますので、ご勘弁を。




 我が輩は勇者である。

 王様に攻撃力がいまひとつな剣と、買い物すらままならない寂しいお金を持たされて、世界を恐怖のどん底に陥れた魔王を倒す為に旅に出た、世界の救世主である。

 今ひとつ私が旅に出されるのには納得がいかなかったが、王様は「いいえ」という限り城から出してくれなかったので、仕方がなく「はい」と答えたらこの始末である。「よく聞こえんなぁ」と言っていたのに、「はい」は一発で聞き取りやがったあの老人。


 そんなこんなで斡旋所で雇った(有料)頼れる仲間を引き連れて、旅に出た私だったが、順調に思えた道中にて、私はトラブルと直面した。


 城下町から二つ目の町に辿り着いた頃の話だ。

 魔物も順調に倒せるようになり、少し強そうな魔物、所謂ボスも一匹倒した私達勇者一行は、トラブルの解決の為に酒場で机を囲んでメインパーティー一同で臨時会議を開いていた。


「さて、今日、自由時間をなしにして、メインパーティーのみんなに集まって貰ったのは他でもない。パーティー内に生じた問題について話し合おうと思ったからだ」

「勇者様。私は溜まったお金で気になっていたアクセを買いに行きたかったのです。勿論、この拘束時間の分の時給はお支払い頂けるのでしょうか?」


 不満げに口を開いたのは僧侶(女)だ。

 我がパーティーのヒロインポジションでありながら、今回の問題の中心人物である困った女だ。色白で空色の長髪の似合うそこそこに美しい女なのだが、この通り多少……いや、大分性格に難がある。


「勇者一行は時給制ではないと何度言ったら分かるのだ。魔物を倒して得た金銭は、平等に分配しているだろう。それに、今回の集まりはお前の為のものなのだ」

「どういうことです? 私にお誕生日パーティーでも開いてくれるのですか?」

「お前の誕生日は来月だろう。その時はちゃんと開いてやるが、今はそういう話ではない」


 戦士が私をぎろりと睨み付けた。

 我がパーティーの前衛を務め、屈強な肉体から放たれる火力は攻撃の要となっている。

 彼も今回の一件で、僧侶に不満を持っている一人だ。中でも彼は特に大きな不満を持っているのだ。話をなかなか切り出せない私を咎めるのは仕方がない。しかし、屈強なお前に睨まれると結構怖い。戦士は正直、迫力だけならこの前倒したミノタウロスより怖いのだ。


「僧侶よ。此処までの旅路を経て、お前にひとつ聞きたい事がある」

「何でしょう」


 僧侶が私を真っ直ぐ睨んだ。

 何故、私ばかり睨まれるのか。

 しかし、今回ばかりは僧侶に非がある。私は臆せず物申す。


「何故、お前は私達に回復魔法を使ってくれないのか」


 そう。僧侶は私達に回復魔法を使ってくれないのだ。

 戦闘では、私は基本的に自由行動を認めていない。道中の弱小な魔物相手でも、作戦「命令させろ」で丁寧に指示を出しながら戦うタイプだ。

 なのに、この僧侶、回復魔法を使う様に指示を出しても物々しいメイスで魔物を殴りに行く。言う事を聞け、と文句を最初の頃は言ったが、その度メイスを構えて睨んでくるから次第に言い辛くなっていった。

 しばらくは薬草で自己回復を行う事で我慢してきたパーティーメンバーだったが、一度のボス戦を経て、遂に不満が爆発したのだ。

 前衛で傷付きやすい戦士が今回特に異議を申し立ててきた。私に。あまりの剣幕に私は二つ返事で「はい」と言った。だから、僧侶に妥協してもいられない。こうして、今回この問題について話し合うに至ったのだ。


「お前が回復を行っていれば、俺達は手数を増やす事が出来るのだ。そうすれば、この間の牛の魔物の時ももう少し早く決着をつける事が出来た筈だ」


 戦士が私に続いて口を開いた。

 確かに純粋な通常攻撃の攻撃力ならば戦士が一番、次いで私が高い。僧侶が殴るよりも、私や戦士が殴る方が効率がいいのは当たり前の事だ。

 この前のミノタウロス戦では、むきになって自己回復をしない戦士に、私が必死になって薬草を使う事により、私は攻撃が全然できなかった。

 僧侶は表情ひとつ変えずに言葉を返す。


「牛の魔物ではありません。ミノタウロスです名前くらい覚えなさい脳筋。それに、ラストアタックは私が貰った」


 どや顔で首にぶら下げたアクセサリを見せつける僧侶。

 我がパーティーでは金銭以外の戦利品は拾った者のものになるのだ。だから必然的に魔物にとどめを刺した者が、魔物の落とし物を拾いやすい。僧侶はきっちりとどめを取り、素早く魔物の落とし物を拾った。

 あれはミノタウロスのレアドロップアクセサリ「角のネックレス」である。物理攻撃力を少し上げるものだ。まだ物理アタッカーを貫くつもりなのか。

 戦士がわなわな震えている。しかし彼は口下手なので言い返す事ができない。言葉を探している途中なのだ。私は仕方がなく、口を開いた。


「そういう問題ではない僧侶よ。いいか。これはパーティーでの旅なのだ。何より協調性がものを言う。互いに支え合わないで、これからの旅を乗り切れると思うのか」

「殴るだけの勇者様が何を言うのです。それに、これからも今の体制で何ら問題はないと私は考えます」

「魔物を甘く見るな僧侶よ。それに、私は殴るだけではない。必死でお前達にも薬草を使っている。私のアイテムポーチは常に薬草でいっぱいだ」

「ならば回復薬はあなたで十分ですね、勇者様。私は今後も敵を殴る」


 この女、ああ言えばこう言う。とんだお転婆だ。

 私は仮にも勇者だ。どっちつかずのステータスだが、薬草抱えて回復役を務めるなんて御免だ。私にもプライドがある。それに、薬草の確保で財布がかつかつになりがちな現状も変えていきたい。私だけ初期装備なのは納得がいかない。


「僧侶さん。いい加減にしなさい。あなたは僧侶でしょう。パーティーの命綱の自覚はないのですか」


 魔法使いが口を開いた。


「黙れ、後衛。あなたに治療の必要はないでしょう。黒い帽子に黒いローブで、全身真っ黒の根暗が」


 魔法使いは負けた。泣いている。しまった。魔法使いは口喧嘩が弱い。

 困った。味方が頼りなさ過ぎる。もっと口喧嘩の強そうなメンバーを馬車から連れてくれば良かった。私は後悔したが、今更もう遅い。

 仕方あるまい。私が一人で僧侶を説得するしかない。

 私はおもむろに立ち上がった。


「僧侶よ。何故、頑なに回復役を拒むのだ。私達が納得する理由を言え。そうすれば、私達とて無理にお前に回復を強いたりはしない」

「私は物理アタッカーが良いのです。敵の頭蓋をかち割るのが好きなのです」

「何だこの女恐ろしい」


 しかし、ここで引く私ではない。

 

「僧侶よ。回復役というものはな、様々なRPGにおいて重要な役職なのだという事を知っているか?」


 この女に回復役を強制する事は不可能に近い。

 殴る前衛が好きだというのは若い未熟者にありがちな思考。ここは回復役の素晴らしさを説くのが最善手だと私は考えたのだ。


「回復役が回復やサポートに努めることで、他のメンバーは安心して戦う事ができる。命の懸かった戦いにおいて、安定性は何よりも捨てがたいものだ。そしてそのサポートというのは誰にでも出来るものではない。優れたサポートの技能を持つ者にしかできないのだ。その重要にして、選ばれし者にしか出来ない役職だからこそ、優れた技能を持つお前にそれを任せたのだが、それは私の見込み違いだったのだろうか」


 この手のプライドの高そうなやつには煽りが一番だ。

 案の定、僧侶は乗っかってきた。


「その程度、私には造作もない事です」

「ならば何故、殴りたがる? 殴る事など、魔法使いでもやろうと思えば出来るのだぞ?」

「だって、ドロップアイテムの取得が一番やりやすいから……」

「ならば、アイテム分配の制度も見直せば良かろう? 後衛には後衛に向いたアイテムを、前衛には前衛に向いたアイテムを平等にあてがう。そうすれば、アイテムを拾いに行けない後衛の回復役にもアイテムが渡るだろう?」

「私は全部欲しいのです。私が使えないアイテムはお金にできますし」


 何と強欲な女か。

 しかし、その程度で私は負けない。


「しかし、お前の攻撃力はパーティー内でも最低だ。このままでは、敵を最後に倒しやすい、攻撃力の高い戦士がアイテムをより多く獲得するのではないか?」

「うっ……」


 効いた。このままならばいける。


「もしもお前にぴったりなアイテムがドロップしても、もしかしたら戦士に取られてしまうかもしれないのだぞ。お洒落アクセサリを戦士が取ったらどうする」

「殺してでも奪い取る」

「残念だがそれは許さん。そもそも、殴り合いで戦士に勝てるものか」


 私だって勝てないのだ。一応私よりもか弱い僧侶が勝てる筈がない。不意打ちしようにも戦士はかなり固いので、一撃では沈まないだろう。

 僧侶もそれは分かっているようで、ぐっ、とお転婆な言葉を飲み込んだ。


「分かったか? パーティーは助け合いだ。戦士がお洒落アクセサリを拾ったら、お前にやるよう約束させる。だから、お前は後衛で回復役に努めてくれ。いいな? 戦士よ」

「……お、おう。俺はお洒落アクセサリとかいらん」


 どうやらこれで話は纏まりそうだ。

 泣いている魔法使いには、後でアイスでも奢ってやれば機嫌を直すだろう。

 これで旅は更に順調になるはずだ。これで当面は心配もあるまい。

 私はほくほく笑顔で腕を組んだ。


「よし。それならば今後は回復役を宜しく頼むぞ、僧侶よ」


 しかし、まさかあんな返事が返ってくるとは思いもよらなんだ。


「嫌です」

「おうふ」


 何を言っているんだこいつは。

 今の話を理解できなかったのか。


「どうしてだ。悪い話ではあるまい」

「アイテム分配制度には同意しました。しかし、回復役だけは嫌です」

「どうしてだ。お前にしか出来ない事なのだ。何が一体不満なのだ?」


 僧侶は真顔できっぱりと言い放った。


「私のMPがあなた達のHPに変わるのが気にくわない」

「おうふ」

 

 どうしてこいつは僧侶をやっているのか。

 とりあえずパーティーの回復役は私が続投する事となった。





こんな感じの下らないゆるゆる物語。

色んな登場人物がこれから登場していきます。




【登場人物紹介】


・僧侶(女)

勇者一行のヒロイン的存在。空色の髪に色白な肌、空色の瞳が特徴的。趣味はお洒落アクセサリ集め。強欲。


装備:鉄のメイス・白のローブ・角のネックレス

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