死神のナンバー
萌菜加の華奢な項が容赦なく締め上げられる。色白の頬が真っ赤になって苦しそうにもがいている。
「きゅ、きゅうたろう……携帯と……って」
「え、携帯って。だけど俺霊だから使えねえよ」
「念…じる…の。ナンバー…0…0…4…2」
机の上に萌菜加のピンクの携帯が置かれている。俺は必死で念じた。
携帯が光っている。
電話から声がする。
「はい、こちら死神協同組合です。成仏をご希望なのですね。はい、ではすぐに参りま~す」
まだ年若い女性の声だった。次の瞬間。保健室の白壁をぬるりと越えて、ボートを漕ぐオールみたいなのに腰かけた和服姿のセクシーなお姉さんが現れた。
「は~い♪お電話いただきました死神協同組合から派遣されて参りました。私幽子と申しま~す」
名刺が二枚投げられ、萌菜加の首を締め上げている幼女の袖に突き刺さると、幼女は白壁に飛ばされ、そこに貼り付けられて身動きがとれない。
「ありがとう、幽子さん」
萌菜加は咳を抑えてお数珠を取り出し幼女に巻きつけた。
「いえいえ~、なんのこれしき。大福寺の皆さまは大切なお得意様ですから」
オールに座ってお姉さんはひらひらと手を振って見せた。
「で、今回成仏なさるのはこのお二方でよろしいのですか?」
「ええ、そうです」
萌菜加はこくりと頷いた。
ああこれで俺も、とうとうこの世から消えちまうのかあ。そう思って愁傷気にあたりを見回した。隣でお数珠を巻かれたせっちゃんがしくしくと泣いている。
俺は俺の中でようやく過去の清算ができて、成仏もいいかなって思えたのだけど、こいつは全然そうじゃないんだ。
「すいません。あと1日だけ時間をいただけませんか?」
気がつくと、俺は死神のお姉さんにそう頼んでいた。
お姉さんはじっと俺たちの顔を見つめて、微笑んだ。
「わかりました。今回だけ特別にあなた方に24時間差し上げましょう。そのほうが萌菜加さんにとってもよいでしょうしね」
死神のお姉さんは茶目っ気たっぷりに片目をつむった。
俺はしくしくと泣いているせっちゃんをお数珠から外し、ひょいと肩に乗せた。
せっちゃんは肩の上できょとんとしている。
「俺とデートしようぜ。せっちゃん」