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せっちゃん

「新堂さん! 」

息を切らした萌菜加が駆け込み、懐からお札を取り出す。

「久太郎、新堂さんはあんたに任せる」

そういって何事かを呟くと俺にお札を貼り付けた。

懐かしく暖かいこの感じ。光の粒子が俺を包み、ふと見つめた俺の手は……透けてねえ。


「いやああああああ!」

正気に戻った真奈が絶叫する。

「真奈!」

手すりを離した彼女の手を握り、俺は必死に耐える。

「ちっくょう……真奈絶対離すんじゃねえぞ」

「祐……樹?」

真奈の乾いた唇が、掠れて俺の名前を呟いた。

「ああ、俺だよ。真奈」

彼女の体はどんどん重くなる。まるで人じゃねえみたいに。

「あはは、二人とも落っこちちゃえ」

「きゃあああああ」

真奈の足首にあの女の子がしがみついている。


「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時……」

萌菜加が経を唱える。

「いや、いや、いやあああああああああ」

少女は絶叫する。

そして泣きながら萌菜加の前に立った。

「せっちゃん。もうやめて」

萌菜加が真剣な眼差しで、少女を見つめる。

「嫌だもん。萌菜ちゃんは嘘つきだ。嘘つき萌菜ちゃんなんて大嫌い」

少女は頭を振って叫んだ。


きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい きらい


 禍々しい妖気を放つと、少女の顔がぽとりと落ちた。そのままころころと萌菜加の足元に転がる。その髪がものすごいスピードでうじゃうじゃとうねり、萌菜加の足首に絡みついた。

「キライで結構、メリケン粉! だわよ」

萌菜加のお数珠が容赦なく振り下ろされる。


 ぴしゃりという音がして、少女はその場に蹲った。

「うわ~ん。萌菜ちゃんの意地悪~」

 その場でしくしく泣き始める。

「絶対殺してあげるから」

凄みのある声色で萌菜加を睨みつける。

「痛っ」

 空を裂く何かが飛んできて、萌菜加の腕を掠めた。

 白い軟肌を伝う血が、雨に混じって血だまりを作っている。


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