真奈
萌菜加は友人どもと、なんでもない顔をしてカフェテリアで昼飯を食ってやがる。あんまし真剣な顔をしたから、俺はついつい真相を聞けないまま。
「で、さあ北川先生ったら眼鏡パカパカさせるんだよう」
「まじで? ウケル~」
それはまるで泣きだす前の子供が、めちゃくちゃにはしゃいでいるような、そんな感じがしたから、俺は少し離れてその光景を見ていた。
俺も大学は受かっていたのだから、もし生きていたらあんな風に友人とバカやって、好きな人とも……。
いつの間にか降り出した雨が窓ガラスに叩きつけ、細く枝分かれして流れ落ちる。
「ちくしょう……」
そこに俺の姿は映らない。
途切れた未来。
土砂降りの雨の中、不似合いなほどにはしゃいだ萌菜加の声が癇に障って、俺はカフェテリアを出た。
講堂に続く渡り廊下でぼんやりと中庭を眺めていると
「通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの細道じゃ……」
まただ、あの女の子。
おかっぱの髪を揺らして、着物を着ている。
モノクロの景色に、鮮やかな赤い毬が飛ぶ。
これだけ雨が降っているのに不思議とぜんぜん濡れてはおらず、楽しげに遊んでいる。
「ねえ、お姉ちゃんも一緒に遊ぼうよ」
少女に手を引かれた黒髪の女がふらふらと中庭に出てゆく。
涙に光る漆黒の瞳。
半袖の白いブラウスは、雨に濡れて華奢な身体のラインをくっきりと映し出していた。
「真奈!」
俺は声の限り叫んだのが、どうやらその声は届かないらしい。
中央塔の非常階段を虚ろなまなざしでのぼりはじめる。
少女の像が消え、人あらざる速さで移動していく。
「はやく はやく。こっちだよ」
少女は手招きする。
中央塔の最上階のバルコニーに真奈が身を乗り出す。
「危ねえ、真奈やめろ!」
なんとか止めさせようと久太郎が手を握ろうとするが、霊である久太郎にはそれができない。
「ちくしょう! お前の仕業か?」
久太郎が少女につかみかかろうとするが
「あんたなんか、大嫌い」
凄みを帯びた少女の眼力に吹っ飛ばされる。
真奈は柵を越えた。
「祐樹、今あなたのところに行くわね」
履いていたミュールが片方地面に落ちた。