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雨
交差点に流れるあのメロディー。
お馴染みの『通りゃんせ』だ。
その旋律に合わせて、幼女特有の澄んだ歌声が聞こえる。
「通りゃんせ 通りゃんせ ここはどこの坂道じゃ
天神様の坂道じゃ 用の無いもの通しゃせぬ
こどもの七つのお祝いに お札を納めに参ります……」
これはモノクロの記憶の断片。
細かい雨が降っていて、髪を、衣服を湿らせてゆく。
交差点の向こう側で揺れる、白いワンピースを捕まえようとするのだが届かない。
些細なことで口論になって、カフェを出て行った彼女を追いかけた。
交差点のど真ん中で、童女が楽しげに歌い、毬をつく。
「危ない!」
モノクロの空に、鮮やかな赤が散る。
「ああ、俺の血か」
それが最後の記憶だった。
「俺は、彼女に謝りたいんだ」
そう呟くと、萌菜加は唇を噛みしめた。
「なんだ? お前顔色すごく悪いぞ。大丈夫か?」
久太郎がその顔を覗き込む。
「ごめん……」
下を向いていてその表情は定かではないが、ひどく辛そうだった。
「あんたが死んだのは、私のせいだ」
「はあ? なに言ってんの?」