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大僧正

「まあ、そういうわけなんで紅よ、本殿への道を開いてくれないか?」

善守が紅にそう頼むと紅はなんだか訝しげな顔をする。

「なにか、ただならぬ事態が起きたのであろう? 伯を除く正五色が一堂に召集がかけられるなんて」

紅は懐から扇を取り出し、祝詞を口ずさみ舞い始める。

桜の花びらの舞い散る中、紅は艶に桜と舞いを舞う。

その幻想的な光景に、頭の芯が痺れ、やがて呑まれてゆく。

「開」

紅がそう呟くと、桜の幻想が消えた。

「ここが、本殿」

久太郎は思わず呟いて唾を飲み込んだ。

中庭の篝火に照らされた本殿が、なにかまるで巨大な怪物のように不気味に聳え立っている。人の気配はしないのだが、客人を迎える様に順に回廊を照らす釣灯篭に火がともってゆく。時折じじっと音を立て、鬼火のように揺らめいていた。

一行は桟橋の前で履物を脱ぎ、灯の先導に従って大僧正の鎮座する奥の間へと足を進めた。

噎せ返るような香の匂いがした。

「こちらでございます」

回廊の端に美しい少年が佇んでいた。

お稚児さんというやつなのだろうか、背に流れる黒髪を綾紐で縛り白い水干に身を包んでいる。

二間続きの奥の間に人の気配がする。香を焚きしめられた浄室には御簾が下ろされて中の様子は伺えない。

一行は萌菜加を先頭に一礼してから御簾の前に腰をおろした。

「ただ今戻りました。大僧正様」

萌菜加がそう挨拶すると、御簾がなんだか小刻みに震え出した。

「も…もなたんか?」


――――たんって――――


ひゅーひゅー、ぜーぜーと、息苦しそうな器官のつまったような音を立て、ミイラのような爺さんが出てきたかと思うと、萌菜加の膝の上に倒れこんだ。

「おお~、女体じゃ女体♡」

そういって萌菜加の胸に顔を埋めすりすりしはじめる。

「う~ん、相変わらずちっとも育たんのう……しくしく」

なんか俺の気のせいかもしれないけど、いま『ぷちっ』って音がしなかったか?

うん? 『ごごごごごごっ?』津波でも来るのか?


「北斗残悔拳。これは七百八ある経絡秘孔のうち頭維(四合)といってな。この指をぬいてから3秒後にてめえは死ぬ。その3秒間に自分の罪深さを思い知れ」


「待て、殺すな! 坊主が殺生してどうすんだ」

「うるさいっ、お前も死ね!」

「ひぃぃぃ、めちゃくちゃでござるよ萌菜加殿~」

「おいっ善守、お前も手伝え」

「我関せずを貫きます」


10分後、フルボッコにされたジジィと俺たちがいた。『我関せず』を貫いた善守も殴られた頬を撫でながら涙目になっている。


「で、本題じゃ。明朝何者かによってこの寺の五大秘宝の一つである婆娑(ばさら)羅刀(とう)が盗まれた」

ジジィが切り出すと、善守が驚愕の表情を浮かべた。

「そ…そんな。この階層は我々正五色が常に結界を張り巡らせている。その結界を破り秘宝を奪うなど、あり得ません」

「今朝は、正五色黄色の庄、銀杏(いちょう)が結界を張っていた。空気の異変を感じ駆けつけた時には、銀杏は御堂で倒れていた。幸い命に別条はないが、銀杏は記憶を失っている」

空気が重い。一同に苦虫を噛み潰したような顔を突き合わせ、唸る。

「金の髪の白袈裟の男と何か関係があるのかしら?」

「伯だ。萌菜加殿は伯をご存じなのですか?」

善守が食いついた。

「そう、魂魄を封じる刀、婆娑(ばさらとう)羅刀といったわ。その刀にせっちゃんの魂魄が封じられてしまったの」


せっちゃんが泣いている。

なんだかそんな気がした。


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