大福寺 萌菜加
「そうなんです。お風呂に入っていたら、誰もいないはずなのに妙な視線を感じて。だけどそのときは気のせいだって思って、洗面台で歯を磨いてたんです。そしたら……」
赤面し、女は下を向く。
「揉まれちゃったんです」
ふむ。その幽霊は相当エロイな。
大福寺萌菜加は、ソファーに組んだ自慢の脚線を組みかえる。
「わかりました。では私がそのスケベな幽霊とやらを除霊すればよろしいのね?」
すみれ荘204号室に女子大生が越してきた。
(自称)部屋の主は鼻息を荒くする。が、それを悟られまいと必死に気配を消す。
曇りガラスの向こう……女は衣服を脱ぎ捨て浴室へ。
物の怪は逸る期待を抑えきれない。
「顔とスタイルはまあ良しとして……胸がAカップなのはいただけない」
曇りガラスの向こう。女は怒りの鉄拳を握りしめる。
「だ・れ・が、Aカップなのよ!」
いや、女がその手に握りしめているのは数珠。
数珠が飛ぶ。
聖人の息吹を込めて作られたという霊験あらたかなる紫水晶。
「ひでぶうぅぅぅっ!」
物の怪は蹲ると、その姿をあらわした。
「いってえ、何しやがる! このAカップ女」
頬のあたりを押さえてうっすらと涙を浮かべている。
「訂正しなさい。私はBカップよ」
隠し所も隠さずに、全裸の女は腰に手を当てた。
「どっちにしろ、ぺちゃぱいじゃねーか」
そう呟いたが運のつき。
悲しき物の怪の悲鳴が、夜の街に響き渡った。
「すいませんでした。萌菜加様はプロポーション抜群です」
30分後、女の前で土下座させられている哀れな物の怪が一匹。
「わかればいいのよ。ところであんた名前は?」
「わからない」
「じゃあなぜ、死してなお現世に留まっているの?」
「それも……わからない」
萌菜加がお数珠を握りしめる。
「ギブギブ…嘘じゃねえ、本当にわからないんだ」
物の怪は後ずさる。
萌菜加はじっと物の怪を見据えた。
その額にそっと手を翳し、失われた記憶の片鱗を見ようとして、やめた。
「そっか、じゃあ決めた。あんたは今日から久太郎ね」
「はあ? 」
物の怪は思い切り顔を顰めた。