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総本山へ

「じゃあ、さっそく行くわよ! 久太郎」


萌菜加はすっくと立ち上がり、なぜだか革のブーツを履いている。


「なんで黒染めにブーツなんだ?」

「こっちのほうが、動きやすいのよ」


そういって紫の布に包まった長刀(なぎなた)を背負う。


「おいおい……仏教ってのは殺生はご法度なんじゃねーのかよ?」

「っていうか私たちが扱うのは、既に死んだ魂なわけで、殺生じゃないわよ」


霧雨の振る道を萌菜加がありえない早さで走り抜ける。

総本山へと続く石段の手前、俺は気分が悪くなって立ちすくんだ。


「ここから先は私たちを試す試練となっている。なにがあってもあんたは私のことを考えていて」


身体が重い。引きちぎられそうだ。くそっ!


「門下屈しの術者が結界を張っている。立っているのもやっとでしょうね」


萌菜加の額に玉の汗が噴き出す。

しかし萌菜加は歩みを止めない。

俺は歩めないままに、立ち込める霧が距離をおいた萌菜加の姿を隠した。


「ちっくょー」


濃霧は俺から視界の全てを奪った。

何もない白い空間。


一歩踏み出す度に、体中に激痛が走る。


――――狂う――――


どこか冷めた意識が警鐘を鳴らしている。

ここにずっといたら俺は狂う。


――――いやだ、恐い――――

――――こんなとこ、1秒だっていたくない――――


視界に赤い毬が過ぎる。

上のほうから、ぽーんぽーんと跳ねて、俺のほうに転がってきた。

楽しげに嗤う童女。


「せ……せっちゃん?」

「あはは~久太郎の意気地なし。あんたのせいで萌菜ちゃんは死んじゃうんだよ。死んじゃうんだ。死んじゃうんだ~」


木陰にぺたんと座りこんだ萌菜加が見えた。


「きゅ……久太郎…たすけて」


萌菜加がせっちゃんに首を締め上げられている。


「や……やめろ!」


石段を登る俺を見つめてせっちゃんが嗤う。

掌に赤いビー玉を乗せ、息をふきかけると、それは容赦なく俺の身体を貫通してゆく。

腕が引きちぎられ、足を吹き飛ばされ、身体の自由を奪われた俺はその場に倒れ伏した。


頬に当たる石段が冷たい。

俺なにやってんだろ。

他人のことなんてどうでもいいじゃん。

もう……疲れたよ。

今はただ、眠りたい。

ごめん、萌菜加。


――――久太郎! 負けちゃ駄目――――


途切れゆく意識の中で、確かに萌菜加の声を聞いたような気がした。


首にぶらさげた勾玉が光り、ハリセンへと姿を変える。

無くなったはずの手指の感覚が……ある。

ってことは今までの攻撃は幻術。

俺はハリセンを掴みゆらりと立ち上がる。


「せっちゃ~ん。おいたは許しませんぇ」

俺はせっちゃんを捕まえて、ハリセンで尻を叩いた。


「あ~れ~、やめてけれ~。(ぜん)(しゅ)さま勘忍~」


せっちゃんは、紙切れに姿を変えた。


「式神か……」


そう呟くと視界が開けた。

いままで鉛のように重かった身体も嘘のように軽い。


石段の中腹に先ほどの丸顔の青年がにこにこと笑顔で腰かけている。


「とりあえず合格というところですかね」


青年は黒染めに緑の袈裟を身に纏っている。光沢のある織目に亀の文様が刺繍されている。


「緑の袈裟ということは、門下正(せい)五色(ごしき)の者か」

「いかにも。門下正五色、緑の庄 善守と申します。以後お見知りおきを。大僧正候補殿」


善守が萌菜加に跪いた。


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