明日天気になあれ
「あんた、頭どうかしちゃった?」
萌菜加に真顔でそう言われ、俺の背後にムカっという擬音語な流れる。
「もう、いい。バカ萌菜加。さっさと寝ちまえ」
俺は背を萌菜加に背を向けて、リビングのソファーの上で不貞寝した。
「もう、そんなことで拗ねないでよ、久太郎。私は自分の親については何も知らされていないのよ。だけど実親が観音菩薩ってのは、さすがにあり得ないんじゃない?」
しれっと言いやがる。
ひょっとするとそれは萌菜加にとって、他人に踏み込んでほしくない領域だったのかもしれないと思い直す。俺は明日成仏する身、だったら尚更に癒すことのできない他人の傷口には触れてはいけないのだ。それよりも、明日は楽しい思い出をいっぱい作ろう。なにしろこの世最後の日なわけだし、俺にとっても、萌菜加にとっても、せっちゃんにとっても、最高の一日にしよう。
「別に拗ねてねえよ。それより明日晴れるといいな」
「そうだね、晴れるといいね」
萌菜加はカーテンの隙間から夜空を眺めた。いつの間にか雨はやんで星が瞬いていた。
5時半起床。
俺は早起きには自信がある。
そして炊飯器をチェック。
もふっと水蒸気があがり、ご飯の炊けたにおいがキッチンに充満し、 つやつやと粒のそろった米が照り輝く。
「よっしゃ、完璧」
俺は手早く、卵焼きやら、おにぎりに入れる具を作っていく。
たらこにおかか、梅干し……はせっちゃん大丈夫かな? って昔の子供だし、きっと大丈夫だろう。
「ふぁあ~、おはよ」
萌菜加がパジャマ姿のまま台所に入ってきた。
そしてマジマジと俺をみつめる。
「あんた……エプロン似合うよね」
そういって、切り分けている最中の卵焼きをひとつつまんで、口に放り込んだ。
「ん……おいひい」
「おい、こらつまみ食いはやめろ」
俺は萌菜加の頭を小突く。
そのとき、悲鳴が聞こえた。
「あ~れ~、助けてけれ~厠が、厠が大変なことになっとるんじゃあ」
萌菜加と二人であわてて駆けつけてみると、トイレが水浸しだった。
「せっちゃんが、用をたそうとしたら、厠から温泉が吹き出たんじゃ。びっくりした~」
せっちゃんは手で胸を抑え、大きく息をついた。
――――いや……せっちゃん。それウォシュレットだから――――