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運命な感じ

「鬼姫ねぇ……」


俺はちらりと萌菜加を盗み見た。とてもそんな風には見えない。実際の年齢より幾分幼く見えるのだけれど、黒目がちの瞳にすっと通った鼻筋や、キスしてみたいと男に思わせる、ぷっくりとしたさくらんぼうのような唇。美人といえなくもない……ていうか、充分美人の部類に入るだろう。


「私があのとき、せっちゃんをちゃんと成仏させていれば……」


萌菜加は瞳を伏せた。長い睫毛が形の良い切れ長の瞳を縁取る。


「俺は死ななかったって?」

「……うん」

「お前さあ、運命って信じるか?」

「運命?」

「そ、運命。『たら』『れば』で過去を後悔しても仕方ないじゃん。それにせっちゃん自身には人を殺めるだけの力はない。あのとき真奈とうまくいかなくなって、俺の心のどこかに死を願う気持ちが、確かにあったと思うんだ。そんな負の念が俺にこの運命を引き寄せたんだと思う。それこそ自縛霊なんて数えきれねぇほど存在するわけなんだし、いちいち気にしてたら、禿げるぞ」

一拍置いて、萌菜加が微笑む。

「ありがと」


どこか寂しげな、頼りないそんなアンバランスな感じがして、放っておけない気がする。ひょっとすると、俺が死してなお、現世に留まり続けたのは、こいつに出会う為だったのかもしれない。ふと、脳裏にそんな考えが浮かんだ。そして打ち消す。考えすぎだっつうの。俺は明日成仏するわけなんだし、なーに状況を勝手に飛躍してんだっての。


「あつっ」

萌菜加がテーブルの上の湯飲みを倒した。

「ばかっ、見せてみろ!」

萌菜加の手の甲が、うっすらと赤くなっている。

「べ……別にこれくらい、大丈夫だよ」

萌菜加が赤面して、手をひっこめた。

「ちゃんと処置しとかねえと、お前も一応女の子なわけだし、跡残ったら大変だろ?」

俺は冷凍庫にあった保冷剤を布に包んで萌菜加の手の甲を冷やした。


 刹那、キィィィンと耳鳴りがして、激しい頭痛が襲う。

「久太郎? ちょっとしっかりして! 大丈夫?」

俺はその場に立っていられなくなって、しゃがみこんだ。

脂汗が体中からどっと吹き出る。


――――彼女は、汝が命を懸けて守るべき、(あるじ)――――


俺の意識の中に、何者かが割り込んでくる。

「ちくしょう! 誰だお前はっ」

瞼裏に黄金の後光が見える。ゆったりとした柔らかい布を優しく揺らせながら、蓮の花の上に佇む美女が微笑む。


――――我が名は、観世音菩薩。我が娘をよろしく頼みましたよ――――


気がつくと、俺はソファーの上でおでこにアイスノンをのっけられて、寝かされていた。

「あっ、久太郎良かった気がついたのね。よかった~もう! 私ったら救急車呼ぶべきか、霊柩車呼ぶべきか迷っちゃったじゃない」


天井が白む。未だ意識はあんまりはっきりしてねえが、事実を知るにはひょっとするとこんくらいの鈍さが必要なのかも知れないと思った。

俺はむくりと起き上がる。


「なあ、萌菜加。お前って観音菩薩の娘なわけ?」


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