誰にでも受け入れられるわけではない
ライブ後の余韻で胸に熱を溜めていた中で、場を凍らせるような声が響き渡ってきた。
「うるせえぞ! 誰の許可を得て騒いでやがる!」
あまりの剣幕に一気に恐怖心がこんにちはしてくる。その大声の正体は、こっちにずかずかと歩いてくる大柄な男性のものだった。大きな大剣を持って黒い鎧を纏っている。見た感じかなり強そうなプレイヤーだ。
そのプレイヤーは、この大騒ぎの元凶である私の方に来る。すると、即座に他のプレイヤー達が間に入った。私の元には、ここに案内してくれたお姉さんプレイヤーが来て背後に庇ってくれる。
その中で真っ赤な鎧を着た金髪の男性プレイヤーが先頭に出た。そのプレイヤーが出た瞬間、黒い鎧のプレイヤーは一歩気圧されていた。
「赤狼騎士団……」
黒い鎧のプレイヤーがそう呟く。それに対して、赤い鎧のプレイヤーが肩を竦める。
「俺達の事は知っていたか。それで黒竜討伐隊の幹部が、こんなところで怒鳴り声を上げてどうした?」
「ああ? こんなところで騒いでんのがおかしいだろうが! うるせえんだよ!」
「今のお前の方が十分うるさいがな。それにこちらは街の許可を得て行っている路上ライブだ」
そう言って赤い鎧のプレイヤーがこっちを見てくる。許可を貰っているという事を確認しているのかもしれないと思って、激しく頷く。
「先に言っておくが、実際に街の役所で許可証を貰えるという事は確認されている。路上ライブは、その許可範囲内であり、基本的に街のどこでもライブは可能になる。ここで歌うのに、特別にお前の許可が必要になるのか?」
「…………」
黒い鎧のプレイヤーは苦虫を噛み潰したような表情になりながら赤い鎧のプレイヤーを睨んでいる。
「こっちは正当な手続きを踏んで行っている事だ。これ以上はそっちの分が悪いと思うが? 死に戻りした先で八つ当たりをする迷惑プレイヤーとして名を馳せたくはないだろう。ここは大人しく帰ったらどうだ?」
「ちっ……」
舌打ちをしてから、黒い鎧のプレイヤーは去っていく。途中で他のプレイヤーがこそこそと陰口を叩く。
「図星?」
「そんな自分が弱い事で八つ当たりされてもな」
「あの子が可哀想だよ」
「黒竜討伐隊って、大体あんな感じだよね」
「感じ悪い」
その声が聞こえていたのか黒い鎧のプレイヤーがそのプレイヤー達を睨むけど、それでビビるようなプレイヤー達ではなかったらしく、集団のプレイヤーからも圧が出ていた。
それを見て、更に舌打ちをして、黒い鎧のプレイヤーは去っていった。
「ったく、最近の黒竜討伐隊は迷惑プレイヤーの集まりに格下げしたなぁ。大丈夫? 怖かったよね」
「ちょ、ちょっと、びびびっくり……しました……」
「あんなプレイヤーばかりじゃないから安心して。ごめんね。これなら向こうでやった方がよかったね」
「い、いい、いえ……こ、この数は入れなかったので……」
確かに、ここでライブをしなかったら起きなかったトラブルだけど、この人数をあの小さな広場に押し込むのも、それはそれはで問題だと思うので、結果的にここで路上ライブになったのはよかったと思う。
あのプレイヤー以外は、特に気にせずにいたし。
「そうだ。自己紹介してなかったね。私はアクイラ」
名前を聞いてバッと顔を上げる。そして、アクイラさんと目が合って即座に下を向く。
「わ、私は、リ、リラです……」
「リラちゃん。まぁ、私は知ってたけどね」
「え……?」
「路上ライブで投げ銭する時に名前が出るから」
「そ、そなんですね……」
ちらっと投げ銭の履歴でアクイラさんを探してみたら、前回も前々回も投げ銭をしてくれている事が分かった。つまり、前回も前々回も聴いてくれているという事だ。
「それにしても、リラちゃんは凄いね。まさかゲームで路上ライブをやるプレイヤーがいるとは思わなかったし。私もベースやってるけど、ここでも演奏しようって発想は出なかったし」
「そ、そそそうなんですね……」
アクイラさんはベースをやっているなら、どこかのバンドに所属したりしているのだろうか。ベースをしていると言えば、私の姉もバンドでベースをしている。
ここで、そういう話に広げる勇気がないから、私はコミュ障なのだろう。
「まぁ、このゲームの趣旨が自由なプレイだから、こういう事が出来ても不思議ではないけどね。そうだ。あのマイクとスピーカーは持って帰ってね」
「え、え……?」
私が使わせてもらったマイクとスピーカーは、私が買ったものではない。だから、私のものじゃない。つまり、あのマイクとスピーカーをプレゼントされるという事だ。
「そ、そそっそんな……わ、悪いですよ……」
「貰ってくれないと逆に困っちゃうな。置いていくしかなくなっちゃうし」
「え、え? あ、アクイラさんのものじゃ……」
「うん。私じゃないよ。因みに持ち主設定を抜いたものだから、次に触ったリラちゃんのものになってたりして」
「うええええ!?」
衝撃の事実。既に私のものになっていた。こうなると、持って帰らない訳にはいかなくなる。そうなると、これをプレゼントした人にお礼を言わないといけない。
「更に更に言うと、実は刻銘済み」
「うえええええええええ!?」
確認してみると、本当にリラの名前が刻印されていた。これじゃあ、誰が持っても私か私と同じ名前をしたプレイヤーのものと言っているようなものだった。
「ど、どうしよう……お、お礼……」
「ぶふっ……」
オロオロとしている私を見て、アクイラさんは口を押さえて身体を震わせていた。何故か笑われてしまっているようだ。
「ふっははは! あ~、面白かった。別に気にしなくて平気だって。相変わらず、気にしいなんだから」
「え……?」
相変わらずと言われて、私はますます困惑する。相変わらずと言われる程の知り合いというわけじゃないから。いや、知り合いの可能性がある?
「全く声で分かって欲しいものだけど、薄情な妹」
「妹……お姉ちゃん?」
「は~い。大正解。あなたの大好きなお姉ちゃんで~す」
アクイラさんはそう言って、私の頬を両手で覆って揉んでくる。このスキンシップはお姉ちゃんの琴坂七美だ。お姉ちゃんは今大学院生で、メジャーガールズバンドの『サマートライアングル』でベースを担当している。
「じゃ、じゃあ、ここまでの用意もお姉ちゃん?」
「まぁ、大体はね。色々と申請もしてあるから何も問題なし! という訳で持ち帰りなさい。処分する方が面倒くさい」
「うっ……わ、分かったよぉ……」
お姉ちゃんにそう言われると断れない。ほとんど決定事項だから。
「お姉ちゃんがいるって事はお兄ちゃんもいるの?」
「私と馬鹿兄をニコイチだと思ってる? まぁ、いるんじゃない? ゲーム好きだし、配信も出来なくはないから」
一番上のお兄ちゃんは、バーチャルシンガーをしている。お父さんが普通にバンドを組んでいるから、自分は仮想世界で違う景色を見るとか言ってそっちの道に進んでいた。
私は詳しく知らないけど、滅茶苦茶人気で『税金がえぐい』とか言っていた。因みに私の部屋にあるパソコンとかは、お兄ちゃんが買ってくれたもので、何かスペックは高いらしい。作曲とかでしか使っていないけど。
因みにお兄ちゃんがどういう名義でやっているかとかは知らない。お兄ちゃんは『秘密があった方が格好良いだろう』とか言って教えてくれない。何か数人のグループで活動しているみたいという事だけ知っている。
お兄ちゃんもやっているなら、投げ銭とかで分かるかな。いや、名前知らないから無理か。




