無駄に良い運動神経
三回目のサイクルで、ガーディアンタンクの機関銃は全て落とされた。ミサイルポッドも三回破壊されたけど都度換装させられている。
一番厄介なのは主砲。機関銃やミサイルポッドと並行して使われないけど、この換装の隙を完全に埋める威力がある。アルシャさんも真正面から受け止めるのではなく、砲弾を逸らすことに集中することによって盾の消耗を抑えていた。
「ひとまず掃射は無くなりそうね。これが第一段階ってところかしら。相手の動きを見るわよ。不用意に動いたら蜂の巣だわ」
「はい」
ガーディアンタンクはその場から動かず、天井のハッチが開き、三台のドローンが現れた。ドローンが現れた瞬間に、シェリアさんは弓を引き絞った。
あのドローンが何にせよ、相手の攻撃手段や支援手段の一つである事は明白。何かをされる前に撃ち落とそうという事だろう。
シェリアさんが次々にドローンを撃ち落とすけど、落とされた直後にまた新しいドローンが補充される。
その間ガーディアンタンクに動きがないのを見て、フォルティさんが動こうとしていたけど、アルシャさんがそれを止めた。
「動かないのが逆に不気味だよ。罠かもしれない。まだメインの主砲は生きてるから、焦らずに見極めて動こう」
「分かりました」
確かにまだ主砲はあるし、ミサイルポッドの換装も終わっている。でも、動きを見せない。不気味であるという事は私にも分かった。
「ったく、キリがないわね。ドローンに何かさせないと一切進まない設定なのかしら」
「じゃあ、破壊をやめますか?」
「……いや、まだ数の問題かもしれないし、このまま続けるわ」
ドローンの数にも限界があると考えて、シェリアさんはドローンの破壊を続ける。その間、私は周囲の様子を観察し続けていた。
そこで気づいたのは、部屋の端っこの方にある扉と奥にある扉だ。奥の方は完全に閉じているからガーディアンタンクが倒される事で開くか私の歌で開くと予想できる。
でも、端っこの方にある扉は小さく開いていた。瓦礫に阻まれていてちゃんとは分からないけど、何かありそうだ。
「リラさん?」
私がガーディアンタンクやドローンとは別の方向を見ていたから、フォルティさんが気にして声をかけてくれた。
ただ、私は【付加歌唱術】の速度上昇の詞を歌っている最中であることもあり、私は声を出せない。だから、視線だけであの扉を教える。
「あそこが気になるんだね? アルシャさん」
「ん?」
「リラさんが、あっちの扉の向こうが気になるらしいので調べてきます。もしかしたら、ガーディアンタンクを倒す何かが見つかるかもしれませんし」
「確かに……うん。分かった。お願いね」
「はい!」
フォルティさんは、私にウインクをすると扉に向かって走り出した。フォルティさんが私達から離れていくと、ガーディアンタンクの上部のミサイルポッドが開いて小型ミサイルが発射される。
孤立した対象に向かっての攻撃が小型ミサイルらしい。動き続けないと多段ダメージという事もあり、結構いやらしい攻撃となっている。その点で言えば、フォルティさんは防御よりも回避が中心の戦闘スタイルなので、問題は余波による微弱なダメージくらいだ。
「私は時間稼ぎをしていれば良いわよね?」
「だね。フォルティちゃんが何かを見つけられれば、この状況を打開する方法も見つかるかもしれないから」
フォルティさんが扉の中に飛び込むと同時に扉が閉まった。
「一人専用ステージ?」
「何かあるのは間違いなさそうね……って、ドローンが増えた!?」
シェリアさんが驚くのも無理はない。フォルティさんが扉の奥に消えたのと同時にこれまで最大三台までだったドローンが一気に二十台くらい現れたから。
「リラちゃん、私の後ろにいてね!」
そう言われて私は、しっかりとアルシャさんの背後に移動した。シェリアさんは次々にドローンを撃ち落としていくが、ドローンの数は減らない。
ドローンは、私達にレンズを向けると、一気に集まってくる。それを見た瞬間に、アルシャさんが私を突き飛ばした。同時にドローンから電磁ネットのようなものが射出されて、アルシャさんとシェリアさんを捕縛する。
「あ、た、助けます……!」
「走りなさい!」
シェリアさんがそう言うのと同時にガーディアンタンクのミサイルポッドが開き、小型ミサイルが射出される。
私はすぐに駆け出しながら、【付加歌唱術】で速度を上げる。そして、背後から追いかけてくる小型ミサイルに対して、怒轟の振動波を浴びせかける。着弾だけが爆発する原因じゃない。
こうして誘爆のきっかけを与えれば、私に当たる前に数を大きく減らす事が出来る。そうして小型ミサイルの処理をしながら、軽くシェリアさんとアルシャさんを確認したけど、二人ともダメージは受けておらず、小型ミサイルの対象にも含まれていない。
どうやら一部プレイヤーを行動不能にして、残ったプレイヤーのみで対処しないといけない状態にさせられたらしい。そして、そのプレイヤーはフォルティさんが扉の奥に消えてしまったがために、私一人だ。
『反重力装置起動』
部屋全体にアナウンスのように声が響き、天井から何枚もの板が降り注ぐ。その板はまるで足場のように横向きで空中で止まる。これだとミサイルが避けやすくなっただけだ。
フォルティさんが何か見つけてくれたのかもと思ったのも束の間、床のタイルの隙間から丸鋸が飛び出してきた。
「うわっ!?」
唐突な丸鋸に驚き、私は空中に浮いている足場に乗りどんどんと飛び移っていく。【付加歌唱術】を再開して、走り幅跳びの要領で動きながら、小型ミサイルを振動波で破壊する。
足場が悪くなっただけでやる事は変わらない。速度上昇(中)の【付加歌唱術】のおかげで、一応立ち回れている。そこに今度はドローンが集まってきた。集まって何をするのか分からないので、怒轟からシンバルの鳴叫に持ち替えて、音楽を奏でるのではなく思いっきり打ち鳴らす。
鳴叫の振動波(強)と行動停止(強)の同時攻撃だ。ドローンは動きを止めて、煙を吹きながら爆発していく。
すぐに鳴叫から怒轟に持ち替えて、ガーディアンタンクを今度は振動粉砕(中)を打ち鳴らす。ガーディアンタンクのミサイルポットが私の振動粉砕の音に呼応するように震えて破壊されていった。ひとまず攻撃の相性は良さそうだ。
「リラ! 下!」
シェリアさんの声に下を向くと、床で走り回っていた丸鋸がこっちに向かって射出されていた。その丸鋸を身体を捻るようにして避けて、飛び地に着地し、再び移動を続けながら振動粉砕を打ち鳴らし続ける。
「本当に運動神経は良いのよね……」
そんなシェリアさんのそんな呟きが何故かしっかりと聞こえてしまった。事実過ぎて何にも言えない。




