唐突に用意された舞台
翌日。今日はお母さんが朝ご飯と昼ご飯を作ってくれた。昨日宣言した通りに、ログインしないといけないから少し早めの昼ご飯だ。
「私があげた曲はものに出来たの?」
「う~ん……出来たと言えば出来たかな。向こうで演奏してみないと分からないけど、少なくとも全部頭には入ってるから大丈夫。自分でも一曲作ったし」
「ああ、だから夜にゲームをしてなかったのね」
「うん。アイデアは溜まってたし、考えていた曲と似たような曲調を作ってあったから、すらすら出て来た。でも、次の曲はどうしようかなって」
曲自体は二、三時間でほぼ完成して、そこから少しずつ調整を重ねていき、ちゃんと人に聴かせられるくらいには出来たと思う。一応、お母さんにも聴いて貰う。
「うん。良いと思うわ。もう少し調整は必要そうだけれどね。それと次の曲もそんなに急がなくても良いと思うわよ。毎日ライブをしないといけないわけじゃないでしょ? 事前告知は厳しいだろうから、ゲリラライブが基本になるわけだから、先にそう言っておけば良いわよ。箱が用意出来るようになったら、告知用のビラでも配るとかね」
「箱っぽいのはあるらしいっちゃらしいけど、ライブで使えるか分かんない……」
「まぁ、そればかりは何とも言い難いわね。なければ運営が用意してくれるのを待つしかないわ」
運営が用意するかどうかは分からない。ホールってところが音楽ライブに使えるのかどうかが分かればって感じだけど、分かったとしても箱を用意しようとはならないかもしれない。
そんな集客出来る気がしないし。路上ライブは、あくまで聞こえている音楽に釣られてきたって人が大半だろうし。
「まぁ、そもそも箱を用意して、伊織がライブを出来るのかどうかって問題があるけれどね。出来るの?」
お母さんも似たような問題に気付いて私に確認してくる。
「でき……る……!」
「はい。頑張りなさい。まぁ、本当は一人でやるよりもバンドやグループを組めたら良いんだけどね。伊織は受け身はある程度マシだけど、攻められないタイプだから」
お母さんはそう言って私をジッと見てくる。これは暗に自分で動いて集めてみたらと言っている。積極的に自分から人とコミュニケーションが取れないからこそ、私は友達が出来ていない。
その一歩を踏み出す時ではないのかというのがお母さんの主張だ。
「が、頑張る……」
「まぁ、色々と冒険してみなさい。そうしている内に、自分に出来る事と出来ない事が分かってくるわ。自分が出来ないと思い込んでいたものもね」
「は~い。冒険かぁ。そろそろ普通に外に出た方が良いのかな……次の街に行く人も多いだろうし」
「街同士でテレポート出来るんでしょう? ずっと同じ街で路上ライブしているよりも、環境が変わるから気分転換にもなるんじゃない?」
「武器買うお金が手に入ったらかな……」
「何でも良いけど、そろそろ時間じゃないの?」
「わっ!? そうだった! じゃあ、行ってくるね!」
「いってらっしゃい」
食器をシンクに入れた私は、トイレなどを済ませてから自室に入りログインする。ユートアルパに来た私は、昨日路上ライブをした広場に向かうと、その途中で建物に隠れる事になった。
(なんじゃこりゃあああああああ!?)
昨日私が路上ライブをした広場には沢山のプレイヤーが集まっていた。昨日ここでまたライブするって言ったからリピートしてくれるプレイヤーが集まってくれたのかな。それにしても多すぎる。広場が完全にプレイヤーで埋まっていた。
(ど、どうしよう……)
ライブをした結果集まったのと、最初から集まっているのでは色々と違う。緊張が最大値に達しそう。
「あっ、いたいた!」
「っ!?」
建物の影から覗いていたら、綺麗なお姉さんのプレイヤーに見つかってしまった。お姉さんプレイヤーが声を掛けるから、全員の視線が一気に集中して一瞬失神しかけた。
「こっちに来て。あそこだと来てくれた人達が全部入りきらないの」
「ふえっ!?」
お姉さんに引っ張られていった先は中央区の広場。そこに小さなステージが出来ていた。ステージと言っても木の台に白い布が掛けられただけだけど。マイクとスピーカーも用意されている。
「ここでお願い出来ないかなって。出来そうかな?」
「どぅえ、でで、でき、できま……す……!」
「本当に大丈夫?」
お姉さんプレイヤーは、優しい笑顔でそう言う。まさか、こんな目立つ場所を用意されると思わなかったから、かなり困惑したし、緊張も凄くしている。
でも、私達の後を付いてきたプレイヤー達で、こっちの広場も埋まりそうになっているので、あの広場ではキャパシティが足りない。それを考えれば、ここに用意されるのも頷ける。
だから、私が頑張らないといけない。
「だ、だだ大丈夫……で、です……」
ステージに乗って、エレキギターの準備をする。アンプと繋げて軽く鳴らし、しっかりと演奏出来る事を確認しながらチューニングもしていく。
(どうしよう……ここだと今来てくれている人達以上にくるよね……でも、あの広場だと人が入りきらないし……あっ! キューちゃん!)
真っ直ぐ前を向いた瞬間に、遠くにキューちゃんを発見した。私はステージで高い場所にいるから、キューちゃんからも私が見えていた。キューちゃんは驚いた表情をした後に少し呆れた表情になってサムズアップする。
幼馴染みの私には分かる。あれは、『うわっ、伊織あんなところでなにやってんの? ああ、キャパ問題で無理矢理連れて行かれた感じか。そこで断れないのが伊織って感じだな。まっ、頑張れ』って言っている。
キューちゃんの援護は見込めない。なら、私はやるしかない。ここで逃げ出せば、今までの努力が水泡に帰する。恐らく中学生までの私なら逃げ出していた。傍にはいつも京花ちゃんがいたから。
でも、高校生の私の傍には京花ちゃんはいない。だから、ここで踏み出さないと。お母さんに押される訳でも、京花ちゃんに押される訳でもない。私自身が一歩を踏み出す。
軽くギターをかき鳴らしてから、深呼吸をする。
『あ、あ~……え、えっと……き、今日は三曲や、やります! よ、よよよろしくお願いします!!』
無我夢中で叫ぶと、プレイヤーの皆が盛り上がってくれる。私はそのまま演奏を始めて、『The Parallel Universe』『レリックシンフォニー』とお母さんが作ってくれた『合わない視線は空虚』を披露する。私が目を合わせて会話を出来ないという点から生まれている曲だった。その時の目が見ているのは、何も無い空間。瞳の中には空虚しかないって感じだ。
若干暗めな歌詞だけど、音調は盛り上がるものなので、プレイヤーの皆も盛り上がってくれていた。まぁ、それを乗り越えようっていうのが最後にあるからかな。
三曲止まらずに連続で披露した。本来なら曲と曲の間にMCとかを入れられたら良いのだけど、それが出来ればコミュ障陰キャなんてやってない。気の利いたMCなんてどうやってやれば良いのだか。
『あ、ありがとうございました! ま、また路上ライブはやり、やりますが、に、日程は決めてません! ゲ、ゲリラライブの形式です! も、もしタイミングが合えば、ま、また聴きに来て下さい!』
ちゃんと定期的にやるわけではないという事を伝えられた。歌った直後だったから、テンションが上がっている事も大きかったと思う。
すると、プレイヤー達から大きな声が上がる。声が混ざり過ぎて正確に何と言っているのかは分からないけど、断片だけでも肯定的な言葉がたくさん含まれているという事はわかった。
こうして喜んで貰えて、私も胸が熱くなっていくのを感じた。
(色々怖いけど、やっぱり私、これ好きかも……)




