自称コミュ障陰キャ琴坂伊織
私、琴坂伊織は、高校一年生になった。入学した高校は家の近くであり、徒歩十分くらいの場所だ。
はっきり言おう。私はかなりの陰キャのコミュ障だ。現実では家族や近しい人以外の人と上手く話す事が出来ない。中学までは幼馴染みがいたけど、卒業と同時に遠くに引っ越してしまった。
なので、高校からは頼れる人がいない。そうなったなら、自分がしっかりするしかない。高校デビューだと意気込んだけど、結局そんな事は出来ず、高校入学直後から孤立する事になった。
今も私は自分の席で、イヤホンを着けて音楽を聴きながら伏せって寝ているふりをしている。こんな状態が良い訳がない。でも、どうしもない。だって、知らない人と何を話せば良いのか分からないんだもん!
どう考えても私と共通するような話題がある訳がない。周囲の話が聞こえてきても、全然理解出来ないから。
「京花ちゃ~ん! また友達出来なかったよぉ!!」
家に帰って来た私は、幼馴染みの白鳥京花ちゃんにテレビ電話を繋げて嘆いていた。市松人形のように綺麗な髪と整った顔をしている京花ちゃんは、呆れ顔になっていた。
『うるさい。どうせ、席で伏せって音楽聴いてたんでしょ?』
「うぐっ……」
『その音楽の話題で話せば良いでしょ。伊織の守備範囲は広いし』
「だ、だって、相手の地雷ジャンルだったら……」
『たらればが多すぎ。だから、喋れないんでしょ。嫌われたくないからって、何でもかんでも最悪ばかり考えて行動できないんだから、一歩大きく踏み出しなさい。ゲームならちょっとマシだっていうのに……』
「だ、だって、ゲームはアバターだし……私じゃないって思えるから……それに話すの大体NPCだから……」
『はぁ……まぁ、パラユニで段々慣れていくしかないか。NPC相手でも、高度なAIが入ってるから、練習にはなるだろうし。いっそそのままの姿でキャラクリさせれば良かった』
「ひ、酷い……!?」
パラユニ。正式名称はパラレルユニバースオンライン。
『もう一つの宇宙。もう一つの世界』というキャッチフレーズで売り出されたこのフルダイブ型VRMMORPGは、戦闘が主体という訳では無く、様々な事が楽しめるゲームになっている。戦闘が出来なくてもゲームを楽しめるように、もう一つの世界でもう一つの暮らしが出来るという感じだ。それでも大体のプレイヤーは、戦闘を楽しんでいる。
私は戦闘は出来ないわけじゃないけど、上手くはないと思う。京花ちゃんにおすすめされた理由は、人に慣れるためというだけだ。京花ちゃんは随分前からやっていたらしい。販売から半年近く経っているって話だったかな。
キャラクリも色々と拘れるものなのだけど、普通は現実の自分と酷似するような姿にはしない。身バレしたら、色々な被害に遭う可能性があるから。
『全く、次電話してくる時は友達が出来たって報告を期待してるから』
「えぇ!?」
『それじゃあ、頑張れ』
「あっ! 京花ちゃん!?」
無情にも京花ちゃんは電話を切った。
「ま、まだ、無理だよぉ……」
自分でも情けないと思うような言葉が自然と出て来てしまう。変わりたいと思ってもそう簡単に人は変わらない。その大きなきっかけがない限りは……
携帯に充電ケーブルを挿してから、部屋の端っこに置かれたフルダイブ用のVRギアを見る。両親が買ってくれた高級仕様の座って使うVRギアだ。私にはオーバースペック過ぎるのだけど、私が使っていたゴーグル型のVRギアでは、パラユニをプレイするのに少しスペックが足りないという話をしたら買ってくれた。あまり人が沢山いるようなゲームをやりたがらない私が欲しがったからなのか、新型のゴーグルではなく、こっちになった。
両親はお金持ちだから、こういうところの奮発が凄い。
「せっかく買って貰ったし……京花ちゃんに電話するためにも……頑張ろう……!」
私はVRギアに座る。枕の形が私の頭に合うようなU字になっているため首が固定される。そんな私の頭を覆うように半透明のカバーが降りて来た。
しっかりと深く腰掛けて力を抜く。そして、右側の肘置きに付いている電源ボタンを押す。自然と瞼が降りていき、そのまま眠りに落ちるようにして、私はこのVRギアに唯一登録されているゲームであるパラレルユニバースオンラインにログインする。
私のアバターは、現実に近い体型で大体170センチくらい。無駄にスタイルが良いと京花ちゃんに言われるくらいには胸もある。正直そこまで要らないのだけど、京花ちゃん曰くゲーム中であれば、どんなアバターでも違和感をなくしてくれるけど、現実はそうじゃない。現実とかけ離れたアバターにすると、現実に戻った時に酔いが発生するかもしれないため、なるべくなら現実とほとんど同じくらいの体格が良いみたい。酔い自体は、慣れれば問題ないし、本来の身体であるためにすぐに治る。私がプレイした事のあるゲームは大体オフラインのゲームであり、アバターは自分の体格にあったものが勝手に選ばれるから、あまり関係なかった。
体格を同じにしても顔とかは変えてあるから、身バレとかはしない。顔はいつもの自分よりも少し可愛めにしてある。瞳もピンクにして髪は背中まで届くロングで、こっちもピンクだ。コミュ障を治すために、頑張って少し目立つような感じにしたのだけど、ゲーム内だともっと奇抜な人がいたりして、大して目立たなかった。しょぼん……
名前はリラ。
本当は、琴坂伊織の琴からこと座、織から織姫って事でベガにしようとしたのだけど、昔京花ちゃんから「悪の超能力者っぽく思われそうだから、別のにしたら」と言われてから、こと座の象徴である竪琴のリラから取ってプレイヤーネームにするようになった。
ログインした私がいるのは、初期スポーン地点っていう最初に生まれる場所だ。最初に生まれる街の名前はユートアルパ。最初の街だけど、何でもある大きな都市だ。
私がログインしたのは、まだ二回。一回目は、京花ちゃんとログインし、二回目は一人でログインしている。まだこのゲームに慣れていないので、色々とおぼつかない。
「えっと……こうしたらステータスが見られるはず……」
メニューを操作して、ステータスを確認する。
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リラ Lv3 職業:無職
HP:30/30
MP:10/10
力:5
防御:25
速度:5
器用:17
魔力:5
運:5
SP:30
スキル:【掃除Lv3】【整理Lv5】
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職業:職により様々な効果がある。
HP:数値が0になると死亡する。
MP:魔法などに使用する力。
力:物理攻撃力などに影響する数値。
防御:物理防御力及び魔法防御力などに影響する数値。
速度:移動速度及び攻撃速度などに影響する数値。
器用:攻撃精度及び生産などに影響する数値。
魔力:魔法攻撃力などに影響する数値。
運:アイテムドロップ及びクリティカルなどに影響する数値。
SP:ステータスに割り振るためのポイント。主にレベルアップで増える。
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(うん。無職の文字がコミュ障を表しているようで悲しい……)
ステータスは全ステータスが初期で5。上がっている分は初期防具の性能に過ぎない。
スキルは行動から得られる。【掃除】と【整理】も行動から得られるスキル。私がやったのは、クエストカウンターという仕事の斡旋所から受けたユートアルパにある中央大図書館と呼ばれる場所の掃除と本の整理。だから、この二つを得られた。
そして、一度も戦闘をしていないけど、レベルが上がっている。これがこのゲームの良いところで、必ずしもモンスターを倒さないとレベルが上がらないわけじゃない。
私がやったような雑用クエストなどでもレベルは上がる。効率は滅茶苦茶悪いから、京花ちゃんは普通はモンスターを相手にすると言っていた。私が五時間くらいやって、ようやく3だからその理由はよく分かるけど。
「お金は……10万マニー。そこそこ貯まった。防具を買って冒険に……いや、もうちょっと貯めておこう」
戦闘は得意ではないので、冒険に出るのなら最大限の準備が必要だ。生産系のお仕事をするのであれば、冒険をしないでもひたすら鍛冶とかに費やしていくって方法があるみたいだけど、まだそっち方面に興味を持っていない。
ここは、もう少し雑用クエストでお金を貯めて万全を期してから始める事にしよう。いつ始められるか分からないけど。
これは一人の陰キャコミュ障女子高生が、パラレルユニバースオンラインにてなんやかんやあってトッププレイヤーになる物語…………などではなく、コミュ障を治そうと奔走し、大きな事を成し遂げる物語である。




