おん
その後、思い思いの提案をしつつ、気の向くままにいろいろな店を見て回った。
そして、気が付けば昼食時。
俺はあらかじめ目星をつけておいたイタリアンに向かおうと、後ろを歩いていた二人に話し掛けようとした。
しかし、振り向いた先に二人はおらず、少しだけ道を戻ると、そこに二人がいた。
だが、そこには二人だけでなく、男二人もセットだった。
「なんで屋内でサングラスしてんの?」
「ちょ、外しなよぉ。せっかくの可愛い顔が台無しじゃん」
「ちょっと! これは友達にもらった大事なものなの。触らないで」
「そ、そうです。やめてください」
どうやらナンパのようだ。
まったく。
俺はすぐに二人の元に駆けつける。
「二人とも俺の友人なんで、そういう絡み方するのやめてもらっていいですか? 怖がってますし」
俺は相手を刺激しないよう、物腰柔らかに話し掛ける。
「んだてめえ!」
しかし、ナンパな男二人にはこちらの気遣いなど届くわけもなく、一瞬で沸点となってしまったようだ。
男のうち一人が殴りかかってくる。
俺は空手、剣道、柔道などありとあらゆる武術も会得している。
全ては服を爆散させない精神性を身に着けるために。
なので、素人と言っても差し支えのない男の拳を避けることは造作もなかった。
相手にこちらの力量を悟らせようと、あえてギリギリで躱す。
「んだよ! この! この! くそっ! 全然当たんねえ!」
苛立ちを募らせるナンパな男。
このまま相手の体力切れを狙うのがベストだな。
そう考えていたのだが、相手の闇雲なパンチを避けたときにサングラスを弾かれてしまった。
ギリギリで避けていたがゆえに、普段身に着けることのないサングラスの分だけ目測を誤ってしまったのだ。
そして、不幸だったのはその外れたタイミングだった。
美里が相手を挟んで正面に来る位置。
そこで外れてしまったのだ。
しかも、美里はサングラスを外していた。
その瞳にはこちらを心配する彼女の必死さが宿っていた。
ありがとう美里。
そして、さようなら服。
俺のありがとうを横目に、脳に流れ込むエロス。
戦いの最中など関係ない。
俺にとって、エロスはTPOをわきまえないがゆえに恐ろしい存在なのだ。
「……つう!」
そして、弾ける衣服。
しかし、不幸中の幸いか、今回は下半身ではなく、上半身が爆散した。
……いや、なんの差なんだ?
前は俺の徳がうんたらとか勝手に解釈したけど、やっぱりよくわからない。
でも、全身の服が爆散しなかったのは助かった。
俺は複数枚の肌着を装着しても外側から違和感のないように、常に極限状態まで体を絞っている。
麗奈と美里はこちらに戸惑うような視線を向ける。
わかる。
俺も急に友達の上半身の服が爆散したら戸惑う。
わかる。
だけど、そんなにじっくり見ないでぇ。
鍛えてはいるけど、見られるためじゃないぃ。
「え? 俺にこんな力が?」
ナンパな男は、服の爆散が自身の拳によるものだと判断しているようで、突然の潜在能力覚醒可能性に戸惑っていた。
男の子だもんね。
わかる。
戸惑う男を尻目に俺は「逃げるぞ」と声を潜めながら、麗奈と美里の手を引いた。
そして、そのままモールの隅にあるエレベーター前へとたどり着いた。
「蓮、ありがと、助かったよ」
「うん! ほんとにありがとね」
「いや、二人に怪我がなくてなによりだよ」
俺は大切な友人の無事に何よりも安心する。
途中で服も着られたので、もう大丈夫だ。
常備服はいくつあってもいい。
「ホッとしたらお腹空いてきたな。とりあえず、三階にあるレストランに行こう。おいしいイタリアンの店が入ったらしいんだ」
タイミング良く開いたエレベーター。
乗る際、俺はエレベーターのドアの端にサングラスをぶつけてしまった。
ギリギリで躱す癖がなぜかここでも生きてしまい、ドアギリギリで入ったものの、普段身に着けることのないサングラスの分だけ目測を誤ってしまったのだ。
癖って怖い。
そしてそのまま、ドアが閉まり破壊されるサングラス。
しかも、それを咄嗟に拾おうとしてくれた美里のサングラスもバッグから落下し、そのまま運命を共に。
「おん」
無情にもエレベーターは動き出してしまった。
と思った数秒後、今度は停止する。
『エレベーター内に異常発生。緊急停止します』
「え? 噓でしょ?」
「そんな……」
一難去って、また一難。
モールのエレベーター内。
サングラスという障壁を失った俺はノーサングラス美里、そしてイエスサングラス麗奈と共に閉じ込めれてしまったのだ。
本日二度目、今週通算三度目の爆散の危機。




