サングラス
美里との図書室での秘密の逢瀬(?)の翌日。
俺はとあるショッピングモールへと来ていた。
理由は至極シンプルで、転校生ともっと仲良くなりたい、だから三人で買い物に行こうと麗奈に誘われたからだった。
昨日、図書室で下半身の制服が爆散したばかりの俺。
本来であれば、土日をかけて今後どうするかを思案する予定だった。
しかしだからと言って、麗奈の誘いを断れば、美里をまた不安にさせてしまうかもしれない。
そう考えた俺は、二日連続の徹夜によって、なんとか一つの解決策を導き出しことに成功していたよ眠い。
「お、早いね、蓮」
「おはよう、蓮君」
モール内の待ち合わせのベンチに座っていた俺にかかる二つの声。
それは麗奈と美里のものであった。
「大切な友人を待たせるわけにはいかないからな」
言って、俺は振り返る。
「ぶはっ! ちょ、蓮、どしたの?」
振り返った俺を見て、麗奈は吹き出してしまった。
「何かおかしいか?」
予想通りの反応ではあったが、あえて俺は気づかないふりをする。
「いや、おかしいって言うか、なんというか……。なんで、サングラスしてるの? 初めて見たんだけど」
そう、俺が二徹の中、導き出した答えはサングラスをするというものであった。
外出の際に紫外線を気にしてサングラスをする、ということは今の時代、特段おかしなことではない。
俺はそこに勝機を見出したのだ。
この理由を盾にサングラスをかければ、おのずと自身の視線やピントの云々が周囲からはわからなくなる。
これなら、美里を傷つけなくて済むし、俺も自身の社会的立場を守ることができる。
まさに、一石二鳥だ。
非常に理にかなった方法である。
だが、もちろんこれは今回だけの急場しのぎであることも理解はしている。
休日の外出であるからこそ、サングラスをつけていってもそこまで違和感はない。
けれど、このお出かけが終わってしまえば、来る月曜までに別の案を用意しなければいけない。
ただ、今日という一日だけでも自身も救われるし、美里も真っすぐに見据えることができる。我ながら妙案過ぎるな。
「ちょ、蓮、お腹痛い! ふふっ、ははははっは!」
ていうか、麗奈。
俺のサングラス姿見てからずっと爆笑しているな。
そんなに似合わないのか?
割といい線だと思っていたけど。
やっぱり、急にサングラスするのは変だったかな。
いや、でもここで麗奈に流されてしまっては意味がない。
俺は麗奈の笑いを払いのけるように咳ばらいをし、話を続ける。
「近年は紫外線に関する研究も進んでいることは麗奈も知っているだろう?」
「んん? まー良くはないってことは知ってるけど」
「そうだ。今の時代、若い頃からの紫外線ケアが重要だとされている。肌に関しては既に周知の事実ではあるが、目についてはまだそこまで広まってはいない」
「あ、私、この前ニュースで見たよ」
美里が思い出した、という感じでハッとする。
「たしか警察官の人も、パトカーに乗る時は紫外線対策でサングラスつけることになったんだよね?」
「その通り。まだ一部の地域でしかないが、警察官もサングラスを着用するようになった。つまり、今、世の中的には目の保護というのもトレンドの一つだと言っても過言ではない」
美里の合いの手が嬉しくて、思わず笑みを零す。
「ふーん、そうなんだ。でもここ屋内……」
すっと、俺は頭上を指さした。
そう、このショッピングモールは天井がガラスとなっており、多くの日の光が降り注いできていた。
「屋内でもこうやって太陽光が入ってきていれば、そこには紫外線も存在している。対策を講じる理由になる」
「どう思う? 美里ちゃん」
話しを振られた美里はおずおずと言葉を発する。
そこには昨日、俺を問い詰めたときの勢いはなかった。
「う、うん、似合ってると思うし、理由もちゃんとあって、素敵だなって思うよ?」
「そ、そうか。ありがとう、美里」
「美里ちゃん優しすぎか!」
麗奈は美里にツッコむ。美里のえへへと舌を出し笑う。
俺はホッと胸を撫でおろす。
もしかしたら、美里は昨日のことで自分がサングラスをしているんじゃないかと勘繰るかと思っていたが、今のところ、そのような感じもない。
「それに、二人の分も早くに来て買っておいたんだ」
鉢合わせの危険性を加味して、家からつけてきたけど、本当にこれはよかったからな。
ぜひ二人にも目の保護の重要性を身をもって理解してもらおう。
俺はウッキウキでサングラスを二人に渡す。
「えー、私たちもするの?」
「そそそそ、そんな。私なんて似合わないよ」
「そうか? きちんと美里に似合うものを選んだつもりだぞ。サングラスも今は形状が多種多様だからな。顔の形や肌の色、用途に合わせて好みのものを選ぶことができる。あ、もちろん、俺の価値観で選んだから、もしかしたら美里の価値観にはそぐわないかもしれないが」
美里は少し逡巡したのち、サングラスを受け取ってくれた。
「蓮君がそこまで言うのなら」
そして、美里は照れくさそうに、ハニカミながらサングラスを付けた。
「おお、似合ってるじゃないか。な、麗奈」
「うん、確かに似合ってる。さすが蓮だね」
俺と麗奈は力強く頷く。
「うん? ていうか、美里、俺とどこかで会ったことあるか?」
「ん? ないと思うけど、どうして?」
「いや、どこかで見たことあるような……」
俺はサングラス姿の美里にどこか既視感を覚える。
いや、七瀬先生の妹なのだから、面影はあるのだけれど、そうではなくてそれとは別の何かが……。
「どした? 蓮?」
「あ、いや、なんでもない」
俺は美里について深くそのビジュアルを考えると、服が爆散しそうだったので、ここで思考を切り上げる。
まあ、気のせいだろう。
「よし、じゃあ、私もつけてあげようかな」
麗奈はニカっと笑ってサングラスを受け取り、自身も装着する。
「うん、麗奈も似合っているじゃないか」
「もう、蓮は変に真面目だよね。まあ、そんなところもいいんだけどさ」
麗奈は俺のわき腹をツンツンとつつく。
「ちょ、やめろって」
「まったく。それじゃ、今度から三人で遊ぶときはこのサングラスしよう。友情の証ってことで」
麗奈の提案に、嬉しそうに頷く美里。
さすが麗奈だ。
麗奈はこう、ふわっと人の懐に飛び込むのがうまい。
俺が病気になった後も、病名は明かせずとも俺の傍にいてくれ、そして、臆病になってしまった俺と外界とを繋いでくれていた。
本当に、頼りになるやつだ。
「さすが、幼馴染。俺に対する理解があって助かる」
俺は言葉にして感謝を伝える。
「全くだよ。ほら、じゃあ行くよ」
サングラスを装着した俺たちはそのまま買い物すべく、モール内を歩き始めた。




