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よろしくね

 俺が病を発症したきっかけとなった教育実習生の名字は『七瀬』であった。

 そして、思い出される七瀬先生との何気ない会話。


『私ね、蓮君と同じ年の妹いるんだよ。美里って言うんだけどね、年が離れていることもあるんだけど、とっても可愛いの』


 じゃあ、もしかしてこの七瀬美里と言う転校生はあの人の妹?

 いや、でもそうと決まったわけでは……。

 しかし、この服の裂け具合、感覚、初めて爆散した時のそれと似ている。

 そんな俺の動揺を知る由もない担任は非情な宣告をする。


「じゃあ、席は窓傍にいる網代君の隣が空いているから、その席で。網代君、よろしくね」

「……はい」


 もちろん、俺は断れない。

 もし自身が断ってしまえば、きっとこの転校生はクラスメイトからあらぬ誤解を受けてしまうし、転校生自身も傷つけてしまう可能性がある。

 そうなることは容易に想像できた。

 リスクが大きすぎる。

 担任から指示を受けた転校生な彼女は、嬉しそうに、軽やかな足取りで俺の隣の席へと座った。

 その軽やかな足取りに合わせて、決して豊満ではないけれど、適度に健康的な彼女のそれがたゆんたゆんと揺れる。

 

 んんあああああああああああああああああああああああ! 

 お胸様のたゆんたゆんさがエロいいいいいいいいいいいいいいい! 

 歩くだけであんな揺れる? 

 あんな揺れる?


 俺は必死にエロスを表面的な言葉へと変換していく。

 それでも、想定以上に心の中に溢れるエロスは、徐々に俺の制服を引き裂こうとしてくる。


「よろしくね、えっと、網代蓮君、だよね。初めての転校ですごく不安だったけど、みんな快く迎え入れてくれてとても嬉しい。先生から、蓮君がわからないことは何でも教えてくれるって聞いてるから、その、仲良くしてくれると嬉しい」

「あ、ああ。もちろんだ。こちらこそ、よろしく頼む」

「ありがと! 美里って呼んでほしいな」

「了解だ。美里」


 美里は笑顔を弾けさせる。

 そこには確かに、俺のエロスの原点的存在である七瀬先生の面影があった。

 それを認識したと同時に、エロスの許容量を超えた俺の制服は爆散した。

 しかし、不幸中の幸いだったのは、背面のみだったということだろう。

 窓際かつ、美里と言葉を交わしていた俺の背面を目視できるものは一人としていなかった。

 賜物だ。

 これまでの努力と研鑽の賜物だ。

 思わず俺は過去の自身に感謝した。

 ありがとう、昔の俺。

 おそらく、俺が何の研鑽も積まずにここまで生きてきていたら、全てが爆散していたのであろう。

 しかし、俺の鍛え上げられた精神と積み上げた善行により、背面爆散で事なきを得た、と思う。

 たぶん。いや、きっとそうだ。

 そうだと信じることで開ける道もある。


「私は笹井麗奈。麗奈って呼んでね」

「麗奈、ちゃんだね! うん、よろしくね!」


 そんな俺の焦りと祈りの前で、麗奈と美里が挨拶を交わす。

 うん、麗奈、表立っては言えないけど本当にありがとう。

 その後、俺はホームルームから連続して行われる授業の途中で抜け出し、予備として入れていた制服に着替えることができた。


「とりあえずはよかった。しかし、どうしてこんなことに……。俺は、俺はどうすればいいんだ!」


 生活環境が変わり、不安な中に身を置く転校生を蔑ろにすることはできない。

 俺のクラスでの立ち位置を考えると、自身が転校生を無下に扱うことの恐ろしさは十二分に理解していた。

 しかし、その一方で、出会った密になれば自身の服が全て爆散する可能性もある。

 俺は転校生への想いと、自身のどうしようもない病の狭間で揺れる。


「神よ、どうしてこのような試練をお与えになったのだ」


 俺の嘆きはどこへ届くともなく、無情にもトイレの配管を清潔に保つための自動洗浄の音にかき消されていった。

 こうして、俺の服爆散に怯える苦難の日々が幕を開けることになるのであった。

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