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服が爆散する病

 俺の通う高校。二年一組教室前。

 既に登校時間と言うこともあり、多くの生徒が談笑する声がドア越しに聞こえてくる。

 俺はそれらの声を聞きながら、深呼吸をする。

 いつもの儀式だ。

 教室に入る際に、自身の心を整えるための儀式。


「おはよう、みんな」


 そして、穏やかな雰囲気漂う教室のドアを開け、俺は教室内へと足を踏み入れる。

 瞬間、室内の視線は俺に一気に集まっていく。


「蓮君、おはよう!」

「よう、蓮。今日もイケメン過ぎてひくわ」

「きゃあああああ! 蓮君今日も素敵いいいいいいい!」


 ドアを開け入ってきた俺の元に、多くの生徒が駆け寄ってくる。

 そして、次々と言葉を投げかけていく。


「ねえねえ、蓮君。昨日の配信見た?」

「うん、もちろん。今回もみんなのコメ、息ぴったりで盛り上がったね」

「蓮、今日は帰りに買い物ついて着てくんない?」

「いいよ。どこに行くんだい?」

「蓮君素敵」

「いつもありがとう。でも、君の方がもっと素敵だよ」


 俺はクラスメイト一人一人の言葉に丁寧に対応していく。

 決して漏らすことなく、拾い余すことなく、返していく。


「じゃあ、みんな、そろそろ先生も来るし席に着こう」


 十五分ほど、俺は続けざまにクラスメイトと会話の応酬を続けた。

 一通り対応し終えたかなというタイミングで、その疲れを微塵も感じさせない爽やかな笑顔を作り、着席を促した。

 すると皆、特段嫌な顔をすることもなく、さもそれが当然かのように着席してくれた。


―――男子高校生・網代蓮は多くの生徒に慕われ、敬われ、恋慕・思慕の感情を抱かれている


 それが俺、網代蓮の校内での評価だ。

 品行方正、質実剛健、文武両道、容姿端麗、眉目秀麗などなど、この世に存在する様々な美辞麗句を並べてもなお褒め足りないとさえ言われている。

 そう、俺は皆からポジティブ過ぎる感情を抱かれている。

 だが、俺がそれを鼻にかけることは決してない。

 常に当たり前にまっすぐでいることを心がけている。

 心も体も自然体。

 だからこそ、多くの友が俺を慕ってくれているのだと思う。

 皆が着席して一分も経たないうちに先生が教室へと入ってきた。

 年齢は二十代半ばの女性教師だ。

 まだ着任して日が浅く、かつ、担任を持ったのが初めてだったということもあって、最初はミスが多かった。

 朝のホームルームに送れて来たり。

 課題を出すのを忘れたり。

 時間割を間違え、授業をすっぽかしてしまったり。

 四月の頃は数多くのミスを連発していた。

 そんな先生を見て、クラスメイト達は呆れていたけれど、俺は「先生だって今、必死に先生になろうとしているはずだ。だからさ、俺たちで支えていかないと」と声をかけ続けた。

 そして、俺を中心に生徒たちで先生のフォローアップをしていく中で、彼女も自身を持つようになってくれた。

 今では堂々とクラスを仕切ってくれている。

 ミスなんて微かにも起こす雰囲気はない。


「うん、今日もみんな着席してるね。さすが網代君。毎日ありがと」

「いえ、そんな。皆が先生のお話を楽しみに待っているだけです」


 先生からの評価も高いことを肌で感じる。

 けれど、それでも俺は自然体でいるように心がけている。

 俺は常に誰に対してもまっすぐに、そして、常に自然体かつ、ありのままで正しくあろうと心がけている。

 心に寸分の隙も生み出さないように、

 なぜなら俺は……。


―――エッチな方向に興奮を覚えると服が爆散してしまうという病にかかっているからだ


 そう、俺は病ゆえに、エロスが体内を満たすと服が爆散してしまうのだ。

 意味がわからない。

 罹患して数年経つが、未だに服が爆散する意味がわからない。

 けれど、そうであったとしても、爆散するのだ。

 俺が理解できようができまいが関係なく、エロいことを考えてしまうと服が爆散してしまう。

 正直、俺はエロい。

 驚くほど、小さい頃からエロに対して貪欲だった。

 そんな俺がそんな病気にかかれば結果は一目瞭然。

 ありのままの自分では社会的な生き物として生きていくことなどできない。

 だからこそ俺は、完璧を目指すしかなかった。

 当時、見ていたヒーローものに影響を受けたのもあった。

 ヒーローみたいに完璧なら、この病に勝てるかもしれない。

 今思えば幼い思考だったのかもしれない。

 けど、間違っていたとは思っていない。

 それに俺を診てくれた服が爆散する病の専門医は『君の中に存在するエロス。それを別の何かに変換できたとき、この病気は自然治癒へと向かうはずだよ』と言っていた。

 だからこそ、俺は様々なことにトライした。

 ヒーローになるために。病に負けないために。

 スポーツ。

 勉学。

 芸術。

 それ以外にも、打ち込めると判断したものにはなんでも挑戦した。

 未知の病気を克服したいと言う気持ちの強さもあって、挑戦したそのどれもで全国クラスの成績を残していった。

 そして何より、それらに没頭することにより、強靭なメンタリティーを獲得することができた。

 自分を律するほど、人に優しくなれた。

 人に優しくするほど、自分をより律することができるようになった。

 気が付けば、俺は多くの人から慕われる存在となっていた。

 そして、現在。俺は実に穏やかな顔と雰囲気をもって日々を過ごしている。

 ホームルームの最中、俺は先生の言葉を一言一句聞き逃さないように集中しながらも、先ほどのクラスメイトとの戯れを振り返っていた。


 うおおおおおおお! 瑠々ちゃん今日も良い匂いがしたあああああああああ!

 可憐さんも胸元すごかったあああああああああああああああああ!

 野庭さんに至ってはなんかもうまとう空気感がエロみ深い!


 ちなみに今、心の中で叫んでいるのは決して興奮しているからではない。

 誤解しないでほしい。

 俺は決してエロス方面に興奮してるわけじゃない。

 信じてほしい。

 エロじゃない。

 やめて! 

 そんな目で見ないで!

 俺はあえて脳内で自身の感じるエロスを言葉にすることで、心と興奮を切り離すという作業をしているのだ。

 そう、本質的なエロスではなく、表面的なエロスをなぞることで、心からエロスというものを排除している。

 溜め込み過ぎた欲望は服を裂く。

 俺はそのことを十二分に理解している。

 そのため、表に出さずに心の中で言葉と言う人間の発明した叡智に形式的に変換させ、具象化することで服の爆散を防いでいるのである。

 しかし、それでもなお、服が爆散とまでいかずとも、裂ける。

 いや、むしろ多少裂けさせることで致命的な爆散を防いでいるとも言える。

 なので、俺は常時、肌着を五枚ほど着ている。

 一日最低二枚は破れる。

 多い日には五枚全て破れる。

 時代は今、多機能性肌着の時代。

 多少重ね着しても暑くなく、機動性も損なわれない。

 俺は技術の進化とそこに携わる人々に感謝していた。

 それでも着ぶくれはするので、俺はより一層日々、取り組む競技にまい進し、それ加えての食事制限により体のラインを絞りに絞っている。

 臨戦態勢。

 常に俺は戦いの中に身を置いているうううううううううううあああああああああああああああああああああああああ江野崎さん、髪かき上げる姿をお美しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

 それはさておき、こうして俺は表面上、平穏な日常を謳歌することができていたのだ。


 ―――彼女が彼の目の前に現れるまでは

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