痛ましい戦い
マスムは怪物たちの群れから自らを解き放った。彼の首には鰓が生じ、その体躯は20メートルにまで巨大化する。体から放出される強烈な熱は、襲いかかる怪物たちを焼き尽くした。彼は急いでこう言った。
「痛え、一刻も早くここから出ないと」
彼は再び海岸の方角へと泳ぎ出す。今度は少し使い慣れた尾を使い、さらに速度を上げた。その体には、高濃度の放射能が蓄積されていた。
一方、エリア51ではF-35やF-22ラプターといった戦闘機が発進。海岸からは、彼を仕留めるべく数隻の潜水艦が外洋へと向かった。
2時間後……
モロッコから日本へスピノサウルスの化石を運ぶ一隻の小型船があった。船長は遠くの海面に、20メートル級の巨大な生物が姿を現したことに気づく。最初は見間違いかと思ったが、その生物は船に近づいてくる。それは他でもない、マスムだった。
船長は慌てて従業員たちを呼び集め、叫んだ。
「おい、一体何なんだあれは!あんなの見たこともないぞ!」
労働者たちは混乱し、恐怖に怯える。一人が「イカだ!」と言えば、別の者は「海の怪物だ」、「クジラだ」と口々に叫ぶ。だが、彼らが何らかの行動を起こすより早く。
マスムの腕が水面から突き上がり、船の船首を掴んだ。彼は船を掴んだまま、水面からその姿を現す。顔が露わになった瞬間、船長と従業員たちはその恐ろしい形相に戦慄した。
マスムは、怪物の咆哮と人間の声が混ざり合った声で彼らに告げた。
「頼む、家に帰るのを手伝ってくれ」
その時だった……。
ドォォォォン!!
ミサイルがマスムに直撃し、彼は苦痛に叫び声を上げた。マスムが空を見上げると、無数の戦闘機が迫り来るのが見えた。次々と放たれるミサイルが彼を襲う。黒煙が彼を包み込み、彼は意識を失って海中へと沈んでいった。しかし、煙が晴れると、彼の体は再生し、その皮膚はより強固なものへと変貌していた。戦闘機がさらにミサイルを撃ち込むが、もはや彼には通用しない。マスムは彼らに向かって怒鳴った。
「この裏切り者どもが!」
パイロットたちは潜水艦に攻撃を指示する。「タイフーン51、キラー21、出番だ」
海中の2隻の潜水艦がマスムに接近し、魚雷を発射した。ミサイルが命中するたび、周囲の海は彼の血で赤く染まっていく。彼は悶絶しながら叫んだ。
「あああああ!」
そこへ変異したマッコウクジラが現れ、マスムを食らおうとする。しかし、マスムの体は再び変異を始め、クジラのDNAを吸収した。数秒後、彼の歯はさらに巨大で鋭利になり、唇は消失して剥き出しの牙が並んだ。尾を含めた体長は50メートルに達し、彼は怒りに任せてクジラを引き裂いた。
「放っておいてくれ!」
潜水艦からの追撃は止まらない。怒りに燃えるマスムは言い放った。
「これで最後にしてやる」
彼は一隻の潜水艦に肉薄し、噛みつきながら怒号を上げた。
「俺を裏切ったな!」
潜水艦が至近距離でミサイルを放ち、マスムの体には深い傷が刻まれる。大量の血が流れ出し、彼は苦痛に苛まれるが、その歩みを止めない。彼の体から放出される熱は周囲の海水を400度にまで沸騰させ、体躯はさらに巨大化していく。潜水艦は過熱し、中の兵士たちは熱地獄に突き落とされた。マスムの強烈なパンチと噛みつきが潜水艦を粉砕する。
マスムの体は100メートルを超え、なおも成長を続けていた。ついに潜水艦は大爆発を起こし、激しい煙がマスムを包み込んだ。
上空のパイロットたちは下界を注視していた。「どうなった?仕留めたか?」
スピノサウルスの化石を運んでいた船の中では、船長が震えながら部下たちに問いかけていた。
「何が起きたんだ……今のは一体何だったんだ?」
煙がゆっくりと晴れていく。二隻目の潜水艦の艦長と兵士たちは、固唾をのんでその時を待っていた。煙が消えた瞬間、艦長の目が見開かれる。マスムは200メートルにまで巨大化し、まるで巨大なシルエットのようにそびえ立っていた。50メートル級の潜水艦ですら、大ザメの前の小魚に過ぎなかった。
そして、マスムは文字通りその潜水艦を飲み込んだ。潜水艦が体内に入ると、凄まじい熱によって船体は融解し、艦長と兵士たちはその中で溶けて消えた。マスムの体は潜水艦が持つすべての放射能を吸収していく。
今のマスムは、存在してはならないはずの、奇怪で恐ろしい怪物へと変貌していた。
(著者注:現時点では、マスムの顔と体の全貌はまだ明かされない)
上空の戦闘機部隊でさえ、マスムのあまりの巨体にパニックに陥った。一人のパイロットが叫ぶ。
「全機、直ちに撤退せよ!あんな動く山と戦えるわけがない!」
戦闘機は一斉に退却していった。
スピノサウルスの化石を運んでいた船では、船長が狂乱していた。
「見捨てられた……奴らは俺たちを置いて行ったんだ。見捨てられたんだ!」
従業員たちもパニックに陥る。「これからどうなるんだ」一人が呟く。
一方、マスムはあまりにも巨大になりすぎていた。顎の皮膚は裂けて歯が剥き出しになり、唇はなく、鼻は欠け、人間の髑髏のような頭部。彼は変異による激しい苦痛にのたうち回り、制御を失っていた。耐え難い痛みと苦しみの中、彼は泣き叫んだ。
「頼む、助けてくれ」
変異の痛みに耐えかね、理性を失った彼は、猛烈な怒りに任せてスピノサウルスの化石船を襲った。次の瞬間。
彼は船を丸ごと飲み込んだ。船長と従業員たちはマスムの胃に達すると同時に生きたまま焼き尽くされ、スピノサウルスの化石もまた彼の中に消えた。
数秒後、彼の背骨からスピノサウルスのものに似た背鰭が生え始める。
数分後には、高さ50メートル、長さ100メートルに及ぶ巨大な帆のような背鰭が完成した。巨大な尾はワニのように変貌。彼は極限の苦痛の中、衝動的に泳ぎ続けた。
一日後……
1997年5月19日。
マスムはマリアナ海溝に到達した。そこは数百万トンものウランと放射性物質が存在し、極めて高い放射能に満ちた場所。マスムは海溝の深淵へと潜っていく。
ついに水深8キロメートルに達した時、周囲の放射能が彼の体に吸収され、さらなる変異を促した。その痛みは、もはや彼の肉体と精神が耐えられる限界を超えていた。そしてついに、彼は苦悶に満ちた最後の一撃ともいえる咆哮を上げた。
「アアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
そして……。
彼の体は動かなくなり、物言わぬ骸となった。彼はついに、あまりにも苦しい死を迎えたのだ。
しかし、彼が放ったその咆哮は、ただの叫びではなかった。それは……1997年5月19日に観測された、「ザ・ブループ(The Bloop)」。
(著者注:知らない人のために説明すると、「ザ・ブループ」はNOAA(アメリカ海洋大気庁)によって記録された謎の音である。非常に巨大な生物の声か、あるいは氷震によるものだと考えられている。これは現実に起きた事件である)
これがマスムの最期なのか?




