無垢の最後の光は消えた。
「人類」は囁いた。「一体何が起きたんだ? こんな不自然なものが存在していいのか。あの動き……ぎこちない。人々が怪物に変わり、噛まれた者たちは苦しみながら死んでいく……」
彼は赤ん坊を見つめ、溜息をついて言った。「少なくとも、俺と君はまだ無事だ」
そして自問する。「怪物になった奴らはみんな、自分自身も、愛する人のことも忘れてしまった。……なのに、どうして俺は俺のままなんだ?」
その時、理化学機器店の棚にある放射線測定器が、激しく赤色のシグナルを点滅させながら、耳を突き刺すような高音の警告音を鳴らし始めた。それを見た「人類」は、有害なレベルの放射線が漏れていることを悟り、恐怖と不安に駆られた。しかし不思議なことに、彼はその感覚をどこか好ましく感じ始めていた。まるで、大量の放射線こそが「彼」の糧であるかのように。
「分からない……でも、すごく美味そうで、たまらない感じがするんだ。エネルギーが湧いてくる。もっと欲しくてたまらない」
突然、赤ん坊が苦しむように泣き出した。「人類」は彼をなだめようとする。その時、一体のハイブリッドが店のドアに近づき、その不気味な影が入り口に落ちた。「人類」はパニックに陥る。「どうすればいい!?」
彼は赤ん坊をきつく抱きしめると、ドアに向かって全速力で駆け出した。ハイブリッドがドアに手をかけた瞬間、「人類」は渾身のパンチを見舞ってノックアウトした。
だが、外にいた他のハイブリッドたちがそれに気づいた。退路を断たれた「人類」は、赤ん坊を腕に抱えたまま、瓦礫の散乱する通りを必死に駆け抜けた。20体ものハイブリッドが背後から迫る。ついに「人類」は足を止めた。目の前の道は、崩落したビルの残骸で完全に塞がっていた。
振り返ると、ハイブリッドたちが殺意に満ちた飢えた目で赤ん坊を見つめ、じりじりと距離を詰めてきていた。
「人類」は目を閉じ、深く息を吐くと、赤ん坊をそっと自分の背後に置いた。そして、冷徹なトーンで、地獄のような真剣な表情を浮かべてハイブリッドたちに言い放った。
「……こいつが欲しければ、俺を倒してからにしろ」
「人類」は拳を握りしめた。ハイブリッドたちが「ルアアアアアッ!」と叫びながら襲いかかる。
「人類」は素早く動き、一体の顔面にパンチを叩き込み、もう一体を蹴り飛ばした。さらに群がるハイブリッドたちの姿を捉えると、彼は自分の尻尾に意識を集中させた。そして、襲いくる群衆に向けて尻尾を鋭く振り抜いた。
ドシュッ!
強烈な物理攻撃となった尻尾がハイブリッドたちをなぎ払い、奴らは顔を負傷して地面に転がった。彼は、まるで父親が我が子を守るかのように、必死で赤ん坊を庇い続けた。
一体のハイブリッドが彼の首を絞めようと飛びかかったが、「人類」はその顔面を殴打して拘束を緩めさせると、逆上してその脊髄に噛みついた。怒りに任せて首を、そして脊髄を引き裂くと、ハイブリッドは即死した。
「人類」は唸り声を上げ、防御の姿勢を崩さず赤ん坊の前に立ちはだかる。残るハイブリッドは6体。
だが、その時……。
ゴンッ!
一体のハイブリッドが放った巨大な岩が「彼」を直撃した。「人類」は地面に倒れ込み、岩は粉々に砕け散った。肋骨に深い傷を負ったが、その傷は蒸気を上げながら即座に再生し始めた。しかし、彼が立ち上がるより早く、残りの6体が襲いかかり、寄ってたかって彼を打ちのめした。「人類」は悲鳴を上げ、振り払おうと全力を出す。
だが、一体が彼の首に噛みつき、もう一体が肋骨を食い破った。あまりの噛む力の強さに、再生が追いつかず血が溢れ出す。5体のハイブリッドに組み伏せられ、身動きが取れなくなった。
その時、「人類」の視界に、赤ん坊の方へ歩み寄る一体のハイブリッドが映った。
「やめろ……! やめろおおお!」
「人類」は全神経を振り絞って抵抗したが、5体に抑え込まれ、首と脇腹を深く噛まれた状態では、もはや抗う力は残っていなかった。彼は赤ん坊に向かって手を伸ばし、懇願した。
「頼む……頼むから、その子には手を出すな!」
しかし、5体のハイブリッドたちは「人類」を赤ん坊からさらに遠ざけるように引きずっていく。「やめてくれ! 頼む、やめてくれ!」
無慈悲にも、ハイブリッドはその子を拾い上げ、鋭くおぞましい牙が並ぶ口を大きく開けた。そして、「人類」の目の前で、赤ん坊を噛み砕き、引き裂いた。
「人類」の目は見開かれ、涙と衝撃に染まった。
赤ん坊の泣き声が、止まった。
5体のハイブリッドは、用済みと言わんばかりに「人類」への拘束を解き、彼を放り出した。
地面に投げ出された「人類」は、血に染まった赤ん坊の亡骸を見つめた。彼は膝から崩れ落ちた。
人間と怪物の混じった、痛みと苦悶に満ちた絶叫が街に響き渡る。
「……嫌だ。……嫌だ、嫌だああああああああああああああああああああああッ!!!」
「人類」は泣き叫び、膝をついたまま、極限の挫折と悲しみ、そして怒りに狂って地面を何度も、何度も拳で叩きつけた。
今や、私たちを救えるのは軍だけだ。さもなければ、すべてが終わる。




