悪夢の始まり
ウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
彼が咆哮すると、体内の熱気が陽炎のように口から溢れ出した。
人々は耳を塞ぎ、何千もの群衆が悲鳴を上げた。「あああああああああ!」「逃げろ……逃げろ!……逃げろ!!……」誰もがパニックに陥って走り出し、他人の足に踏みつけられ圧死する者も出始めた。
「人類」は一瞬、目の前の光景を理解しようとただ呆然と立ち尽くした。突然、マスムが歩き出したが、その動きはぎこちなく、一歩ごとに地面を揺らした。
突如、トーマスが「彼」のもとに駆け寄り、パニック状態でその手を引いて言った。「何してるんだ、逃げろ!死にたいのか!?」
「人類」は走り出したが、走りながらも何度も何度も後ろを振り返った。首を回すたびに、マスムが「彼」を真っ直ぐ狙って近づいてくるように見えた。「彼」の心は、マスムの顔を見ながら恐怖に震えて自問した。
「め、め、目はどこだ?待てよ、目がないなら、どうやって見てるんだ?」
その時、「人類」は再び後ろを向き、トーマスも同様に振り返った。二人は恐ろしい光景を目にした。マスムに近づきすぎた人々が変異し始めたのだ。多くは苦痛を伴う変異に耐えられず死亡したが、一部の者はハイブリッドな怪物へと姿を変えていった。肉体は硬化して黒ずみ、顔は異形へと歪み、手足からは鋭い鉤爪のような爪が伸び、長い尻尾が生え、背中からはマスムのような鋭い背びれが皮膚を突き破り、脊椎から芽吹いた。
変身の最中、彼らは皆悲鳴を上げていたが、一度怪物に成り果てると、自分自身を忘れ、マスムを主と仰ぐハイブリッド・モンスターへと変貌した。
トーマスと「人類」、そして共に逃げる数千の人々の目の前で、まずは数百、次いで数千の人間が人間性を失った。何かがおかしかった。ほとんどの者は死んだが、一部は変異種となり、その変異種たちが他の人々を無残に殺害していた。彼らに噛まれた者もまた、苦痛の中で変異種へと作り替えられていった。マスムの至近距離にいた者たちも、同じ運命を辿っていた。
これを目にし、「人類」とトーマスは恐怖に凍りついた。突然、走っていたトーマスが足を取られて転倒し、地面に叩きつけられた。群衆が悲鳴を上げながら走り去る中、「人類」は後ろを振り返り、トーマスに向かって叫んだ。
「トーマス、立て!急げ!」
「人類」はトーマスから離れていた。すぐに助けに行くことはできず、数千の群衆が命からがら逃げ惑っていた。
しかし、トーマスが立ち上がった瞬間、彼の左側にある店の窓を突き破り、多数の変異種が飛び出してきた。一体の変異種がトーマスに飛びかかり、彼の首筋に噛みついた。
トーマスは「あああああああ!」と悲鳴を上げ、必死に「彼」の方へ手を伸ばした。まるで「彼」に助けを乞うかのように。
手遅れだった。「人類」は、親友が目の前で怪物に変わっていく姿を見て叫んだ。
「トーマス、嫌だああああああああ!」
人々は叫び、逃げ惑う。今や「彼」の目から涙が溢れ出した。群衆が走り去る中、「人類」は親友が自分から奪い去られるのをただ見ているしかなかった。
トーマスの変身が完了した。長い尻尾、鋭い鉤爪、怪物のような牙、そして背中からはスパイクのような背びれが服を切り裂いて脊椎から生え揃った。
トーマスは「人類」を見つめ、最後にもう一度だけ叫んだ。
「すまない……わ……わが……友よ……」
そして彼は目を閉じ、数秒間静まり返った。その後、彼は立ち上がった。もはや人間性は失われ、瞳の中にあった喜びは消え失せていた。
今や、彼は「彼」を敵として見ていた。「人類」は必死にトーマスに語りかけた。
「トーマス、僕を覚えてるか?大丈夫か?おい、僕のことを忘れるなんて嘘だろ!」
しかし、トーマスにとって人間はただの敵であり、彼の目的はすべての人間を自分と同じ怪物に変えることだった。
トーマスは「彼」に向かって咆哮した。その声はもはや人間のものではなく、怪物のそれだった。トーマスと共に五体の変異種も「彼」に向かって咆哮を上げた。
「人類」は恐怖と悲しみが混じった声で、ささやくように言った。
「ああ……神様……」
その時、「人類」は右側の店の窓を突き破って中に飛び込んだ。他の人々が助けを求めて通りを駆け抜ける中、「人類」は別のルートを選んだ。店から店へ、家から家へ、窓から窓へと飛び移りながら走り続けた。
後ろを振り返ると、トーマスを含む多くの変異種が、文字通り壁や窓をなぎ倒しながら「彼」を追ってきていた。その目には、恐ろしいほどの執着と好奇心が宿っていた。
「人類」はさらに速度を上げた。突然、アパートの窓を通り抜け、大きな廃病院へと逃げ込んだ。
病院の中に到達すると、「人類」を追う変異種たちの叫び声が聞こえてきた。「人類」は必死に階段を駆け上がり、病院の上層階へと向かった。
不意に、「人類」の目に脳スキャナー(MRI)装置が飛び込んできた。背後からは変異種たちの物音が聞こえる。「人類」が侵入した窓を壊して病院内に入ってきたのだ。
パニックの中、「人類」はその脳スキャナー装置の中に身を隠した。
数秒後、トーマスがその階に現れた。彼は必死に「彼」を探し、フロアの隅々の匂いを嗅ぎ回ったが、幸運にも「彼」を見つけることはできなかった。
装置の中の「人類」は口を塞いでいた。冷静さを保とうとしたが、呼吸の乱れが「彼」を裏切りそうになる。やがて、トーマスは苛立ち混じりに息を吐き出し、他の変異種と共に去っていった。
脳スキャナーの中にいた「人類」は深く息を吐いた。だが、目からは涙がこぼれ落ちた。目撃した光景のショックがあまりに大きく、「人類」はこれが悪夢ではないか確かめるために、文字通り「自分自身」を抓った。
「人類」は自分の腕を血が出るほど強く抓った。そして、ついにこう漏らした。
「ああ……悪夢じゃなかったんだ……現実に起きていることなんだ……」
「彼」の目は涙で溢れ、悲しみに沈みながら言った。
「トーマス……ごめん……君を救えなかった……」
ブロークンが始まった!




