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暇をつぶしたい領主  作者: 桜田裕田


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第5話 領主権限の発動

 調剤ギルド。

 昼になり、受付を閉じて、職員たちは思い思いの休憩に入る。

 外に昼を食べに行く者、机に突っ伏して寝る者、お弁当を食べる者。


 ギルド長のエルバートは、秘書の女性や職員たちと一緒にお弁当を食べていた。


 ギルド長と職員の雰囲気はいい。

 昼には昼食を囲い、夜には飲みにいき、ゆっくりとした会話を楽しむ。


 やる仕事も決まっていて、職員の仲もいい。

 数あるギルドの中でも調剤ギルドはかなり緩いギルドである。


「そういえば、最近シャンプー? っていうのがあるかよく聞かれるんですよ」


 窓口業務をしている女性職員が話題に出す。

 彼女は首を傾げながら、不思議そうに続ける。


「なんでも、髪がサラサラになるとか、肌がきれいになるとか……領主様のメイドさんたちが使っているらしいんです」


 エルバートは、調剤ギルドが扱っている薬品を思い浮かべる。


 傷が治るポーションなどはあるが、髪がサラサラになるのは知らなかった。


「そんなのがあったかな?」


 エルバートが言うと、ほかの職員たちも同意する。


「ないですよね」


「新しく出た薬品なんですかね? 領主様が使っているなら、王都で出たばかりのものとか」


「ああ、領主様は前まで貴族学院に在籍していたな」


 納得しそうになったエルバートだが、王都であろうと新しい薬品なら情報くらいはギルド長の自分にくるはずだ、と考える。


 その時、ギィイ、と扉が勢いよく開いた。


「エルバート! 話がある!」


 入ってきたのはセドリックだった。

 息を切らし、ズカズカと入ってくる。

 その顔は、いつになく真剣な表情をしていた。


「セドリック様、どうなされましたか? 緊急の用事でしょうか」


 エルバートは驚きつつも、冷静に問いかける。

 セドリックがここまで慌てた様子を見せるのは珍しい。


「緊急だ! いや、むしろ朗報と言ってもいい!」


 セドリックは、興奮した様子で声を張り上げた。


「領主権限で、調剤ギルドに店を作らせる!」


 エルバートは目を丸くした。

 店、だと?


 調剤ギルドでは商人に薬品を卸している。

 だが、これは商人のみで、誰でも仕入れられる訳ではない。


 店は、商人の領域だ。


「店、ですか? それは一体……」


「俺が作ったシャンプーやコンディショナー、ボディーソープ、それにハンドクリームを売るんだ! メイドたちが大絶賛でな。大量に作ってくれとせがまれて、俺一人じゃ対応しきれないんだ。だから、お前たち調剤ギルドに、その製造と販売を任せたい!」


「シャンプーっていま話題の!」


「ハンドクリームも聞いたことある」


「もしかして、領主さまのメイドが使っているもの……」


 女性職員たちが、興味を示す。


 セドリックは、熱弁をふるいながら、アイテムボックスからシャンプーとコンディショナー、ボディーソープ、そしてハンドクリームの容器を取り出した。


「しかし、セドリック様。調剤ギルドは……」


 エルバートが言葉を続けようとすると、セドリックはピシャリと遮った。


「いいか、エルバート。これは領主としての命令だ」


 セドリックの言葉に、エルバートはぐっと押し黙った。


 領主の命令。

 この領地にいる限り、逆らえない。


「だが、だが調剤ギルドで店をやると、会員の商会の者たちに……」


 セドリックは明後日のほうを向いて、頬をかく。


「それが……最初は商会に話を持っていったんだが、断られたんだ」


「領主の話を断る……いったいどんな無理難題を……」


「そうじゃないんだよ。どうやらこの商品が魅力すぎるらしんだよ」


 彼はシャンプーらを指差す。


 どんな商品か詳しく知らないが、職員たちの食いつき、入ってくる噂から、魅力的なものだとはわかる。


「魅力なら喜ぶのでは? 高く売れて、利益も入るでしょうし」


「それなんだよ! どの商会も、貴族たち向けの商品にしようと考えていたんだよ」


「は!」


「貴族向けにしたら、私たちに回ってくるのいつ!?」


 いきなり女性職員たちが声をあげる。

 その声音には、ゾクリとする冷たさが含まれていて、エルバートは思わず身をすくめる。


「こんな調子で、どの商会でも秘書の子や職員の子たちが反論して。しかも、うちのメイドたちからも、手に入りやすくしてほしいって要望があって。メイドたち、家族や近所に自慢しまくって、商品を渡さないとコミュニティから弾かれるみたい……」


「それは……」


 自業自得では、という言葉をエルバートは言葉を飲み込む。

 彼は優秀なギルド長なので、余計な言葉は言わない。


「というわけで、作り方を教えるから、そっちで作って、店で売って」


「レシピを?」


「そう。俺は暇も嫌だけど、仕事に追われるのも嫌だ。この街の女性たちの分を賄うためには、どれだけ作る必要があるかわかるだろ?」


 なるほど。

 商品の作り方は門外不出だが、そういう理由ならセドリックがレシピを教えるのもわかる。


 しかもセドリックは、お金に困る立場にはいない。


「でも――」


 と言った瞬間、殺気が飛んでくる。

 女性職員だ。

 その目は語っていた。


 受けてください、と。


「わかりました。我がギルドが店を開きます」


 セドリックはにんまりと笑い、女性職員たちが歓声を上げる。

読んでいただきありがとうございます♪


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