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暇をつぶしたい領主  作者: 桜田裕田


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3/5

第3話 シャンプー

 褒められてすごいいい気分だ。


「じゃあ、これもいる? 俺が使っているやつなんだけど」


 シャンプーとコンディショナーを取り出す。

 効果を説明し、使い方を教える。


「髪が、ツルッツルッに! あ、だからセドリック様の髪はサラサラなんですか? 髪質じゃないんですか!」


「髪質もあると思うけど、これ使うと違うよ」


「セドリック様、さっそく試してみます」


 テレーズはシャンプーとコンディショナーをかっさらうように掴むと、部屋を出ていく。


「喜んでもらえているなら、いいかな」


 テレーズが出ていってから、ボーッと外を眺めていた。


 やることがない……。


 暇だから、読書でもしようかな、と書斎に向かう。

 貴族で領主の家だから、蔵書はそこそこある。

 それに、俺が王都で購入していた本も納めているので、家を出る前よりも充実したラインアップになっている。


 確か読んでない本があったから、それかな……。


 書斎へ向かおうとしていたら、ドタドタという足音が聞こえてきた。

 嫌な予感がして振り返ると、そこには目を輝かせたテレーズが立っていた。


「セドリック様! これは、これはすごいものですわ!」


 興奮した様子のテレーズの髪は、先ほどとは見違えるようにツヤツヤと輝き、サラサラと流れるようになっている。


 ただ、タオルを体に巻いている姿だ。

 髪から滴る水滴が、首元から鎖骨を通って、胸元に流れる。


 うわっ……うわ……。


 見たいけど、見たらダメだ。


 テレーズの目だけを見る。


「ええと、喜んでもらえてよかったよ」


「奇跡ですわ! 私の髪がこんなに美しくなるなんて! これは、もう手放せません!」


 テレーズは俺に駆け寄り、その両手を掴んだ。

 その瞳は、まさに獲物を見つけたかのような熱意に満ちている。


「もっと! もっと欲しいですわ、セドリック様! これさえあれば、私はもっと素敵なメイドになれますわ! いえ、領主様を支えるにふさわしい、最高のメイドに!」


 熱弁をふるうテレーズの剣幕にたじろぐ。

 シャンプーとコンディショナーでここまで興奮するとは、予想外だった。


「いや、でも、これは俺の普段使いの分だから……」


「そんなことおっしゃらずに! セドリック様は大天才なのですから、いくらでも作れるでしょう!? ねえ、お願いしますわ! このテレーズ、セドリック様のためならどんなことでもいたしますわ!」


 テレーズはキラキラとした瞳が俺に向けられる。

 懇願するように手を握りしめる彼女の勢いに、俺は引いていた。


 その瞳から、殺気を感じる。


 断ったらどうなるかわかっているのか!

 という気迫だ。


 魔物の前に素手で立ち向かっているよりも、怖い。


「落ち着いてくれ、テレーズ。ひとまず落ち着いて……」


「落ち着いてます! まずは私の話を聞いてください!」


 あ、これはなにを言ってもダメだ。


 俺は、バッと駆け出す。


 テレーズが落ち着くには、時間をおくほかない。

 まずは冷静になってもらわないと、怖くて話ができない。


 俺は角を曲がって階段を上る。

 後ろを見る。

 彼女はまだ追ってきていない。

 階下から、テレーズが制止する声がする。


 突き当たりまで走り、部屋に入る。

 客室だ。


 とりあえず、ここにいよう。


 それにしても、


「まさかあのテレーズがあそこまで変わるなんてな……」


 テレーズは冷静沈着で何事もそつなくこなすスーパーメイドだと思っていた。

 シャンプーとコンディショナーにあそこまで反応するなんて。


 そのとき、かすかに音が聞こえた。

 その音は徐々に近づいてくる。

 ドアが力強く閉じられる音だ。


 まずい、と思って隠れるところを探す。

 タンスが目に入り、とっさに体を中に滑り込ませて扉を閉じた。




 隠れたがテレーズに見つかり、いまは執務室にいた。


 テレーズは着替えを済ませている。

 髪が湿っているのは、この世界にはドライヤーがないからだ。


 あ、今度ドライヤーを作ってもいいかもな。

 俺は魔法で乾かせるから使う必要がなかったし。


「セドリック様の新しい仕事をお伝えいたします」


「仕事?」


 仕事がなくて暇の俺に?


「シャンプーとコンディショナー、ハンドクリームを切らさないように作り続けてください」


 え?

 そんなこと?


 俺がなにも言わないからか、テレーズは顔をぐいっと近づける。


「いいですね」


 念を押すように言うテレーズ。


 その迫力に、俺は頷くしかなかった。

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