こころのベンチにて
夕暮れ、誰もいない心の公園。
ベンチにはふたりの「わたし」が座っていた。
ひとりは、膝を抱えてうつむいている。
もうひとりは、空を見上げて足をぷらぷら揺らしている。
「……まだ恥ずかしいと思ってるの?」
空を見上げていたほうが口を開く。
「うん。…なんか、あの時の自分、情けなくて。ちゃんとしたかったのに、全然ダメだった」
うつむいたまま、もう一人の“わたし”がつぶやく。
「じゃあ、どうしたい?」
「わかんない。ちゃんと向き合わなきゃって思うけど、思い出すたびに胸がぎゅってなる。自分を見たくない…ってなる」
空を見ていた“わたし”は、少しだけ考えて、それから言った。
「……でもさ、別にそこまで自分を責めなくてもよくない?あのときの“わたし”、あれが精一杯だったんだよ。いま笑えるなら、それでいいんじゃない?」
「でも…笑えないんだよ。ほんとは、まだ悔しくて、苦しくて、誰かに『大丈夫だったよ』って言ってほしくて…」
「じゃあ、言ってあげるよ」
空を見ていた“わたし”は、顔を向けて微笑む。
「大丈夫だったよ。ちゃんと頑張ってた。かっこ悪くたって、それが“本当のあんた”だったんだからさ」
うつむいていた“わたし”の目から、ぽろりと涙が落ちた。
でもその涙は、不思議とあたたかかった。
「……ありがとう」
「どういたしまして。これからも、そばにいるよ」
ふたりの“わたし”は並んでベンチに座り、静かに空を見上げた。
夕焼けは、ただそこに在るだけで、何も言わずに見守っていた。
必要なのは、ただ静かに隣に座る“自分”かもしれませんね。
あなたがどんな時も、あなた自身と仲良くできますように。