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おさとう山

秘宝をもとめてどこまでも旅をするぼうけんかさんのお話。寝かしつけ時錬成シリーズ。

 ぼうけんかさんは、おさとう山に来ていました。

「ここが、おさとう山か」

 まっ白い大きな山が、でーんとそびえ立っています。この山は、たくさんの人が登ろうとしては、やぶれさって行った、「ぜんじんみとうの山」なのです。

「よし、のぼるぞ!」

 ぼうけんかさんは、決意をこめて、こぶしを高くつきあげました。

 そして、登り始めました。

 さくっ

 一ぽめを踏み出したとたん、ぼうけんかさんの足元から山がくずれはじめました。

「むむっ」

 おさとうやまは、おさとうで出来ていたのです。

 ぼうけんかさんは、両手両足をつかって、けんめいに山を登りました。

 しゅがーっ、しゅがーっ、しゅがーっ、しゅがーっ

 けれどもやっぱり、登るはしから山がくずれていきます。

「なんの、これしき!」

 ぼうけんかさんは、両手両足を、4ばいの スピードで動かしました。

 しゅがーっしゅがーっしゅがーっしゅがーっ

 それでも、おさとうは、どんどんくずれ落ちていってしまいます。

「スピードアーップ!」

 ぼうけんかさんは、もっとはやく、もっともっとはやく、両手両足を動かしました。

 しゅがしゅがしゅがしゅがしゅがしゅがしゅがしゅが

 すると、少しずつ進み始めたので、ぼうけんかさんは、さらにスピードを上げました。

 しゅがしゅがしゅがしュガシュガシュガシュガ・・・ボッ

 あんまり手足をはやく動かしたので、とうとう足元に火がついてしまいました。

「どぅわ!」

 ぼうけんかさんが、びっくりしてぴょーんと飛び上がりました。その間に、炎がざざあっとおさとう山の頂上までかけ上ると、じゅっと音を立てて消えました。

「おや?」

 コンコン

 降り立った地面を、つま先でたたいてみると音がします。

「これは、カラメルだな」

 おさとうがこげて、まっ白なおさとう山の真ん中に、茶色くて固いカラメルの階段ができていたのです。

「やあ、これはらくちん」

 ぼうけんかさんは、カリっ、カリっと音をさせながら、頂上まで登って行きました。

 おさとう山のてっぺんには、まるまると太った大きなきいろいひよこが、どでんと座っていました。

「あや、頂上まで登ってきた人がいるね」

 ひよこは、かわいい声で言いました。

「こんにちは」

 ぼうけんかさんがあいさつすると、ひよこは、うむ、と動くのがなんぎそうに、ものすごくちょっとだけ首を前にかたむけました。どうやら、うなずいたようです。頭の上のほうで、キラッと何かが光りました。金色の、みっつのとがった先のある、光るものをかぶっているのが見えました。

「ごほうびを あげようね」

 その言いぶりに、ははあ、このひよこは王さまなのだな、と、ぼうけんかさんは思いました。

「ハッ、ありがたきしあわせ」

「いやいや」

 ひよこの王さまは、ぱたぱたと短い羽をふりながら言いました。

「ここまで登って来れた人は初めてだね。ボクも、会えてうれしいね」

 うれしい、と言っているのに、にこりとも笑わずにひよこの王さまは言いました。

「はい、どーぞ」

 短い羽で差し出してくれたのは、王さまにそっくりの、きいろいひよこの形のぼうつきアメでした。

「いただきます!」

 ぼうけんかさんは、たくさん体を動かして、とても疲れていたので、ぴっかぴかの笑顔でアメを受け取ると、すぐにぱくりと口に入れました。

 アメは、表面がぽこぽこしていて、それを楽しんでいると、中からとろりとカラメルがとけだしてきて、ふしぎに楽しい味でした。

「おーいしーいっ!きて、よかったーっ」

 ぼうけんかさんの、全力のおたけびは、おーいしーいっ、しーいっ、よかったーあっ、たーあっ、と、こだまになってひびきました。

「そうかね」

 ひよこの王さまは、やっと、ちょっぴり笑いました。

「帰りは、この羽をつかってすべって行くと良いね」

 ぷちっと自分の羽を1枚ぬくと、王さまは、それを差し出しました。

「あ…ありがとうございます」

 羽をうやうやしく受け取りながら、王さまを見上げましたが、王さまは、もう上をむいてしまっていて、どんな顔をしているか、ぼうけんかさんには、わかりませんでした。

 ちょっとの間考えてから、ぼうけんかさんは、王さまにくっついている羽を、ちょいちょい、と引っぱりました。

「あの、王さま…」

「なんだね」

「おさとう山が、もっとカンタンに登れるようになったらいいなあ、なんて思われたり、しますか?」

「そうだね」

「この、とってもおいしいアメを、いろんな人にも食べて欲しいなあ、と、私は思ったのですが」

「えっ」 

 ぐい、と下を向いた王さまの顔は、どこか少しつやっとしてきいろがこくなったようでした。

「ほんとうかね。アメ、おいしいかね」

「もちろんです。けれど、その、王さまが静かにお暮らしになりたいとお望みであれば…」

「わしも食べてほしい!みんなに食べてほしい!」

 王さまは、ぱたぱたと羽をバタつかせながら言いました。がんばって下を向き続けているせいか、体全体が、ぷるぷるとふるえてきました。

「承知いたしました。それでは、私におまかせを」

「できるかね」

「しばし、おまちください」

 王さま、最初に見たときの3ばい深くうなずくと、顔じゅうでにっこりと微笑みました。

「ありがとうね。おまえも、きっとまた、遊びに来ておくれね」

「はい、もちろんです!それでは!」

 ぼうけんかさんは、ひよこの王さまに手をふって別れをつげると、ひらりときいろい羽に飛び乗って、おさとう山をすべりおりて行きました。

「またね!」

 どんどんスピードがはやくなり、羽のまわりでおさとうのつぶがはじけます。

 しゅがっしゅがっしゅがっしゅがっ

「ようし、ここらで、ターボ全開だ!」

 ぼうけんかさんが羽の片方のはしをぎゅっと引っぱりますと、ぐうん、とスピードが上がりました。もう、すべると言うより、落ちると言ったほうが良いくらいです。

 しゅがしゅがしゅがしゅがしゅガシュガシュガシュガシュガーッ・・・ボッ

 すごいいきおいですべり落ちて行くぼうけんかさんの足元に、とうとう火がつきました。

「ぃやっほーう!」

 ぼうけんかさんがぴょーんとジャンプしている間に、炎がざざあっとおさとう山のふもとまですべりおりて行きました。そして、じゅっと音を立てて消えました。

 おさとう山の真ん中に、ふもとから頂上までをつなぐカラメルの階段が出来上ったのです。

 そして、ぼうけんかさんは、カラメルの階段の入り口に看板を立てました。

 『ひよこの おうさまの あめや さん』

 それからというもの、おさとう山には、たくさんの人が行列をつくって並ぶようになりました。


 お客さんとして登ってきた牛さんや、にわとりさん、おしゃべりの好きなねこさんや、カモメのゆうびんやさん、などなど、王さまのことをとても好きになって住みついてしまったひとたちもいて、それが、ここに、世界一のおかしやさんができるきっかけになったのですが…それはまた、別のおはなしです。



 おしまい

それはまた、別のおはなしです、という言い回しで締めたかっただけなので、今のところ続きはありません。ひよこの王さまのその後は、私も気になりますが。

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